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79.レオ・ライオンとモモ・ピンクーと、ネロ・ディアース

昼休み、廊下にて。

怒りに顔を染めて、レオ・ライオンはモモ・ピンクーを睨みつけていた。

「呆れるほど自己中心的だな」


モモ・ピンクーは、青ざめた顔で、今にも座り込んでしまいそうだ。

「わたし、私のせいじゃありません・・・!」


「よく言う。現場で悲鳴を聞いていながらただ待っていた? 何のために」

「それは・・・」


「扉に仕掛けがあったというが、きみが犯人で無かったら、使用人に命じ撤去すれば良いだけだった。他の誰かに知らせても良かった。なのに、『ただ居ただけ、関係ない』だと? どれほど酷な事があったか知ってなお、知らないふりをするのか!」

「レオ様は酷いです!」


「何が酷い! 泣いて罪が流れるとでも思っているのか!? トラン・ネーコ様が駆け付けなければキャラ・パール嬢は死んでいた! どれだけ卑劣な事を考える、よくそれで変わりなく気取っていられるな!」

「ちょっとした嫌がらせだけだったんです!」


レオ・ライオンが身体を震わせた。

「自分が犯人だとやっと認めたな。卑怯者が」

「違います! 私じゃありません! 出てきたところをって、私は、中には入っていません!」


「名乗り出るのが怖いか? 俺がどれほど怒りを抱いているか分からないのか。キャラ・パール嬢は俺にとっても後輩だ。それを、おぞましいにもほどがある」


モモ・ピンクーは必死に叫んだ。

「どうして、レオ様はいつも私以外の人を庇うんですの!? 婚約しておりましたのに! 私はレオ様をこんなにお慕いしていますのに!」

「もう婚約は解消した。元婚約者というだけでも怒りが湧く。きみが慕っていようが、こんな性格を迎えたいと思うわけがない。論点をすり替えることにも、そう気づいていない思考にも腹が立って仕方ない。罪を認めて償え!」


「わ、私じゃありません! 本当です!」

「仮に中の出来事が別人の手によるものだとしても、現場にいながら助けもせず、嫌がらせのためにただ留まっていたという事実は覆らない。しかもきみという人間は」

一度レオ・ライオンが言葉を切る。モモ・ピンクーは震えだしていた。

レオ・ライオンは怒りのままに続けた。

「何があったかを、大勢に広めた」

「だ、だって、皆が知りたがるのです!」


「そうだな。キャラ・パール嬢の悲劇を、今では大勢が知っている。どのような惨状だったか、本人が知りたくないかもしれない内容もな。恐らくトラン・ネーコ様はキャラ・パール嬢に隠すだろう。なのに考えなしに大声で噂を広めた。まぁそのお陰で俺も何があったか知れたがな」

「じゃあ、レオ様も私のお陰で状況が分かったのでしょう! それに、周りが聞きたがるのです! 聞かれたら答えて当たり前ですわ!」


「俺ならきみを恨む。不本意な事故が起こった時、ペラペラと人に流すなど。親切心や義務感や責任感とは無縁、話題の中心になれる機会だったからだ。慕われているなど心底迷惑だ」


「いや、あ、いやあああああ・・・・!」

モモ・ピンクーが大声で泣きだした。廊下に座り込んだ。

慌てて使用人がモモ・ピンクーを支えようとする。

「ひど、ひどい、レオ様! 私、こんなに、お慕いしていると、う、ぁ、うぅう、ふあああっうう・・・っ!」


レオ・ライオンが更に苛立ち睨みつけた。


***


トラン・ネーコが、現場についた時、見えたのは、使用人に囲まれ歩くモモ・ピンクーの姿だった。去っていく。


何があったか周囲の様子から掴もう、と思った時だ。


「トラン・ネーコ様」

と、声をかけられた。

見れば、貴族令息だ。昨日、テニスで対戦した相手。

彼との対戦で、キャラ・パールが前に押し出されたことで、試合後に少し会話をした。


「これは・・・ネロ・ディアース様。まだこちらに滞在しておられたのですか?」

「せっかく来たのだから交流を持ちたいと、滞在許可を得て数日だけ残っているのです。実はあなたが途中棄権した理由をどうしても知りたいと思ったもので」


トラン・ネーコはじっと相手を見つめた。何があったか言いたくない。だが何か正しく答える必要もある。

そんな気配を察したのかどうか、先に相手は口を開いた。

「だが声をお掛けしたのは、今、私が声をかけても許してくださるのがあなただからです。今の騒ぎで、聞きたいことがあるのです」

「なんでしょうか。俺は先ほど来たばかりなので答えられるかどうか」


「モモ・ピンクー嬢というご令嬢は、性格に問題があるのでしょうか」

この質問に、トラン・ネーコは驚いた。直球過ぎる。

困った表情を出して見せた。

「俺には答えられません」

これも回答だ。伝わるだろう。


「部外者だからか、気の毒にと感じたのです。まだ幼いのに。モモ・ピンクー嬢がこの学院を去る事を惜しむ人はいるのでしょうか?」

どうしてそう答えにくい質問ばかりするのか、と苦い思いをしつつ、トラン・ネーコは丁寧に答えた。

「モモ・ピンクー嬢の友人関係など詳しくありませんので、俺には答えられません」


「あなたは、去る事に安堵するのでしょう」

と、ネロ・ディアースはトラン・ネーコに尋ねた。

トラン・ネーコは驚いた。

「なぜそんな問いを?」


「何となく。大勢の前で怒鳴られて誰も助けに出ないぐらいなのだから」

「格式高い家柄で、口を挟むことのできる家はなかなか無い。同等か、余程親しいか、恩を感じているような者でない限り難しいでしょう」


ネロ・ディアースは静かに笑った。

「十分に価値のある話をいただけた。感謝します。トラン・ネーコ様」


トランも友好的に笑み返したが、自分が価値のある内容を教えた気はしない。


「では。いつかまたテニスで勝負をお願いしたいものです」

「光栄です。また是非」


ネロ・ディアースがトラン・ネーコの前から去ってから。

ひょっとして、モモ・ピンクー嬢を他校に勧誘する気があるのか、と、ふと思った。

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