77.ちょっとした告白
「きみの方は今日はどうだった?」
とトラン様。
「いつも通りでした。ポニー様とスミレ様がおられるので、皆さんが取り囲んでおられて・・・。私は静かに」
「そうか。平穏無事ならそれで良かった。体調は?」
トラン様がじっと私を見ている。
「変わりないです。大丈夫です」
「そうか」
ホッとしたご様子。
「なぁ。迷惑なら断ってくれて良いんだが、きみ、しばらく学院のあの部屋に泊らないか? ルティアや護衛をつけておくことができる。魔法で回復済みと分かっていても心配だ。きみの寮の部屋では狭いのと、規約と申請の問題で使用人をつけるのが難しい」
え。
ルティアさんがいてくれたら嬉しい。トラン様もいてくれたら嬉しい。
「大丈夫、ですか? その、」
「あぁ。きみが良いならそうしよう」
「ありがとうございます」
一人は怖い。誰か傍にいて欲しい。
「では早速手配しよう。俺も学院に泊りたいが、色々噂になる方が問題だ。その、先の事を、考えると。だから俺は帰らないといけないが、遅くまで学院に残り、早くに来ると約束する。夜は通信アイテムで話そう」
「はい・・・」
そうか。トラン様は学院に泊られないんだ・・・。
気落ちしていたら、トラン様が立ち上がり、私に手を差し出した。立ち上げることを促されているようだ。
驚いたけど、手をとって、立ち上がる。
エスコートされている感じにドキドキする。
部屋の中、ソファーが置いてあるエリアに一緒に向かった。
横に長いソファーで、隣に座る事に。手は握られた。
じっとトラン様を見つめていると、トラン様もじっと私を見つめている。どこか真剣だ。
思うところがあって、私はきちんとお礼を口にした。
「昨日、助けてくださって、本当にありがとうございます」
「助けられて、本当に良かった」
トラン様の目が少し揺れて、繋いでいない方の手が、私の頬に触れた。
心臓が跳ねる。バクバク鳴り出した。
あ。またトラン様の目が潤みだした。
と思ったら、手を伸ばされてゆっくり抱きしめられた。
「俺も四六時中、きみの傍にいたい。ポニーが羨ましい。見ていない間で、何かが起こっているかもと不安になる」
ドキドキしつつ、あれ、と気付いた。
想像以上に、私の状態は酷かったんじゃ。『骨』とか『血の池』とか囁かれていたけど、誇張じゃなくて実際そんな状況だった?
そんなの嫌だ。嘘だ。
言葉が出なくなって、トラン様に体重を預ける。
ルティアさんも、ジェイさんも、他の使用人の人も、私を見て泣きそうになるのは、頼れる大人から見ても、私が本当に危なかったから?
死にたくない。
幸せになりたい。
「俺が約束する」
と、トラン様はやっぱり涙声だった。抱きしめてくださっていて、顔が見えない。
「幸せにしたい。俺が、」
と腕を緩めて、身体を放される。顔を見つめる。
くしゃり、とトラン様は顔を崩して泣いた。驚いた。
「俺が、幸せにしたい。きみがいないなんて考えられない。そう認められたら良いのに」
物凄い事を、告白してもらっている。
心臓をドキドキさせながらお顔を見つめる。泣いておられて、同時に心が痛くもなる。
私の事で泣いてくださっている。
心配してくださっていて。身分で困っている?
「好きです」
と、トラン様に呟いた。
「ありがとう。俺、は、俺も話せるように、必ず」
泣いたままの瞳で、じっと見つめられている。真剣な表情だ。
「俺もだ。好きなんだ。だけど、まだ、言えない。聞かなかったことにしてくれ」
トラン様がまた抱きしめてくださって、私の耳元でそう囁いた。
はい、と呟いたら、ありがとう、と囁き返された。
***
人間、秘密を漏らし始めると、ポロポロと零れてしまうのはどうしてだろう。
ものすごく、将来に関わる事を、トラン様は考えていてくださったようだ。
トラン様は私をじっと見つめて、こう言った。
「身分差を解決できる方法があるはずだと思っている。例え平民のままでも、どの貴族の家に入っても良いと思われる何かが、手段があるはずだ。それを探したい」
「ありがとうございます」
そして付け加えた。
「私がした方が良い事があったら、教えて欲しいです。お願いします」
きっと全部必要だと思うんだけど。
「本当は、今のままで俺は十分だ。だけど周りに認めさせるために、頼みたいことも出てくると思う」
「はい」
「無茶はしないで欲しい」
「はい」
「でもまずは、無事に楽しく学院生活を送ろう」
「はい!」
こんな風に言ってくださる。
トラン様、ものすごく好き。格好いい。今、傍にいれてとても嬉しい。
「大好きです、トラン様」
「!」
嬉しさがこみあげてはっきりと告げて、笑った。
目を丸くして驚かれて、もどかしそうな表情になって、トラン様は嬉しそうに笑った。
またぎゅっと抱きしめてもらった。




