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73.トラン様が貴族で良かった

翌朝。知らない場所で目が覚めて驚いた。


「おはようございます。ご気分はいかがですか?」

ルティアさんだ。

「おはようございます。大丈夫です」


「痛むところは? 本当に大丈夫でしょうか?」

心配そうに傍に寄り、顔を覗き込まれる。

「大丈夫だと、思います」


「そうですか・・・では、カーテンを向こうから開けていきますね。目や頭が痛むようなら、すぐに止めますから声を出してくださいませ」

「はい」


ゆっくりそっと、私に注意しながら、ルティアさんがカーテンを開けていってくれる。

朝の光が入ってきて部屋が明るくなっていく。

全部開けてもらったけど、目が痛んだりすることはなかった。


「判断基準を少し教えてもらいましたの。確認させてくださいませ」


ルティアさんはそれから、私の目を見つめたり、腕の内側をみたり、熱を測ったりしてくれた。


「良かった。さすが王宮勤めの魔法使いの治療ですわ」

結果、問題なかった様だ。

ルティアさんが嬉しそうで、私もちょっと嬉しい。


「授業はどうされますか? 休まれて良いとは思いますが、どちらにしても主はこちらに来たいと言うでしょう」

「授業・・・」


少し考える。どうしよう。

怖いのは怖い。とても怖い。


だけど、寮の自室にいても怖い。

「ルティアさん、ずっと、ついていてくださいますか・・・?」

「もちろんですわ。私はお傍におりますし、少し離れてあと2人もずっとおります」


「じゃあ、行きます。休むと、ずるずる行きにくくなるから・・・」

前世、病気がちになって、休みだしたら次に学校に行く時にとても緊張したのを覚えている。

無理に行った方がかえって楽な事がある。


「分かりました。無理しないでくださいね。いつでも抜けて構わないのですからね」

「はい」


「では、朝の準備をいたしましょうか。学校に行かれることを主に報告させていただきますね」

「はい」


***


洗顔したり、渡された制服に着替えたり。ちなみに、全て新品になっていた。

治療の邪魔になるという理由で、胸元から外されていた通信アイテムと布をまいたネコのお守りも首からかけなおした。

持って来てくださった朝ごはんをいただく。

ルティアさんが髪を丁寧にとかしてくださる。

とてもとても大切にされていて、すごくむずがゆくて照れくさくなってきた。


***


隣の部屋でトラン様を待っている。


コンコン、とノックがあった。グレンさんがドアを開けてくださる。

トラン様だ。


私を見てニコ、と笑ってくださった。


・・・あれ? 口元に痣が・・・。


あれ?


「ジェイさん、お怪我が・・・」

トラン様の後ろから入ってくるジェイさんが、恥ずかしそうに顔を赤くした。

比較的整っておられるお顔なのだけど、頬は腫れているし、キズまである。


「昨日、殴り合ってしまって。ジェイには悪い事をした」

そう言いながら、トラン様もジェイさんも私を見て目を潤ませている。


「トラン様も、痣がありますが・・・」

少し驚きながら、会話を続けた。


トラン様は向かいのソファに座られる。まだ授業開始には時間があるし、すでにここは学院なのでゆったりする時間が十分ある。


「俺にはきみのお守りがあるので、一晩で大分軽くなった。昨日は俺も酷かった」

「ジェイさんは・・・」


「ジェイも一応持っている。・・・俺も反省している。俺がネーコ家として不味い行動をするような時は殴ってでも止めろと以前より頼んでいる。それを実行してくれたわけだが、俺も平常心が取り戻せずだいたい殴り返してしまう。今日は休みを取らせようかと考えたんだが・・・ジェイがいないと困るんだ」

とトラン様が少し恥ずかしそうに言った。


「以前に回復のお守りをご当主さまにいただいたことがあります。そして、その・・・名誉の負傷という事にさせてください。今までにも何度かありますので」

ジェイさんが恥ずかしそうに私に言い訳のように言ってこられた。はにかんだ顔が新鮮。そして、やっぱり私を見て泣きそうだ。

「それに、トラン様は随分早く回復されましたが、実際には私も同程度殴らせていただいておりますので」

「そう、でしたか・・・」


「ところで、きみに伝えたいことがある。真面目な話だ」

と、トラン様。

「はい」


「いくつかある。まず、昨日の犯人だ。必ず捕まえる。約束する。完全に証拠を掴まないと逃げられるから長期戦になるかもしれないが、必ず、相応の罰を与える」

「・・・」

コクリ、と頷いた。


「きみが、生きているのは、奇跡で、間に合ったからだ」

トラン様が、私を見てブルブルと震えた。

「・・・」


ゾゾゾゾッと、鳥肌が立ち、ブルブルっと震えた。指先、噛まれていく感触が蘇った。

勝手に涙が込み上げてきた。

記憶から消そうと思っても、身体が震える。


「例えきみが許しても俺は絶対に許さない。・・・きみが許してやれと泣くなら考え直そうとは思うが」

私はブルブルと首を横に振った。

自分の身体を抱きしめてしまう。

「許すなんて、無理です」

怖い。


「同じ意見で良かった。・・・ルティア。キャラ・パール嬢を慰めろ」

ルティアさんが傍に来てくれて、ソファに座っている私のために屈んでくれ、涙を拭いて、手を握ってくれた。

空いた方の手で溢れて来る涙をぬぐう。

ハンカチが目元にあてられる。ルティアさんも泣きそうだ。


「は、はんにん、つかまえて、ください」

「分かった」


「トラン様、いて、くださって、良かった、貴族で、だから、つかまえて、ください、わたしなら、無理で、トラン様、おねがいしま、す」

「あぁ、必ず」


身分差を辛いと思ってたけど、トラン様が大貴族で、良かった。とても嬉しい。


平民の私だけなら、死んだとしても、それで終わってしまう。貴族の方が偉いから。


だけど。きっと貴族側の犯人を捕まえてくださる。

罰を与えてくださる。


少し昨日を思うだけで、目の前に黒いものが動く気がする。ゾッとする感覚が蘇る。

忘れたい。思い出したくない。


一方で、腹の奥、そんな事をした人に、深くて強い憤りを感じている。マグマみたいに。


必ず捕まえて。そして、相手を酷い目に合わせてください。


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