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70.襲われる

※内容ご注意。(一応読み飛ばし可能)

使用人の人に聞いた場所に来てみたのだけど、ルティアさんたちの姿は無い。


あれ? 間違った? それとも、探して移動された?


元の場所に戻った方が良いかな。

でも大分時間が経っているから、一度トラン様のところに行った方が早く合流できるかもしれない。


タイムスケジュールでトラン様の予定を確認し、そちらに向かった。


***


試合はものすごい人だった。

場所を探した結果、花壇のフチのレンガのところに乗って、人垣の頭の上から試合を観戦することにした。ご令息で同じようにして観戦している人もおられるので、真似てみた。

それに、ここなら他の人たちより頭一つ出ている状態だから、これでルティアさんたちも私の居場所、気づいてくれないかな。


見ているうちに真剣になる。

声援を頑張ろう!


***


急に後ろに引っ張られた。

「!」

バランスを崩した。落ちる!


花壇の高さはひざ下程度だから、大したことはないけど、尻もちをついてしまって、勢いのままに仰向けになってしまった。

「痛・・・」


誰かが去っていった気がする。

衝撃に驚いて青空を見ていたけど、ハッとして慌てて身を起こした。


誰? 酷い・・・。


さすがに同じ花壇に乗っていた貴族令息が驚いて、立ち上がるのを助けてくれた。


「大丈夫か。女なのに危ないことをするからだ」

「すみません、ありがとうございます・・・背中を引っ張られたんです。あの、後ろを通っていった人、ご覧になりませんでしたか?」


「悪い、見ていない。おい、誰が通った?」

貴族令息が周囲に声をかけてくれた。だけど観客は試合の方が気になるようだ。


「おい、誰か」

貴族令息は、後ろに控える使用人の人たちに声をかけた。

「使用人が一人・・・」


「どこの家だ」

「恐らくは、グリーン家の使用人ではないかと・・・」

そんな答えに、貴族令息はため息をついた。


「もし痛むなら医務室に行った方が良い」

「ありがとうございます。大丈夫そうです」


ワァッと歓声がまた上がった。

私を助けてくださった貴族令息は、試合の方が気になったみたいだ。


「あの、どうぞ観戦に戻られてください。助けていただいてありがとうございました」

「あぁ。分かった」


また花壇のフチに乗られる貴族令息。

良い人だなぁ。令息は普通に良い人がいる。やっぱり乙女ゲームな世界だからかな。


さて、制服についた土を払い落しつつ。

助けてくださったこのご令息がおられるのにまた花壇に乗るのも気が引ける・・・。


うーん、試合はまだ続きそうだし、服を整えるためにもトイレに行っておこうかな。


救護室にはできる限り行きたくないし。


***


最寄りのを使わせてもらうので良いよね?

普段とは違う校舎でキョロキョロと探して、トイレにたどり着く。

1人ご利用中の様子。でも空いてる。皆、試合を見に行ってるんだろう。


ちなみに、ドレスを着たご令嬢も使うので、トイレも綺麗で広い。

個室も、使用人の人が数人一緒に入れる広さ。ストレッチとかできそう。しないけど。


さて、個室でスカートについた土を払ったりしていた時だ。

個室のドアが、カチカチ、と揺れた。


え、何。


え。誰かドアの外にいる?

何。入ってこないよね? 鍵ちゃんと閉めたよね?


不安になって息を潜めていたら、ドアの上の隙間から、布がすっと差し込まれてきた。

驚いて怖くて、とっさに私は叫んだ。

「え!? 何!? 誰ですか!?」


布が揺れる。揺すっている人が向こうにいる。

布じゃない、袋!

中から、大小のムカデがワラワラと出てきた!


「キャー!!」

思わず大声で叫んでいた。


待って、待って、待って!

嫌だ・・・!

怖い!


出てくるムカデに怯えながら、急いで内側の鍵を開けようとした。早く出なくちゃ!


「え、なんで、開かない、嫌だ、ヤダ! 開いて!」

よく見れば、向こう側から何か鍵部分を固定してある。さっきのカチカチって、これ?


ムカデが上から落ちてきて、慌てて振り払う。

え、待って、噛もうとしてくる!


「嫌だ、助けて! 開けて、開けてください!」

ドアを叩く。早く開けたいのに、ムカデが扉に広がって、怖くてどんどん近づけなくなる。


袋が、こちら側に落とされた。

「!!」

慌てて後ろに退く。

ドアに、壁に、床に、ムカデが広がっていく。


なにこれ、本当に怖い!!

とっさに、壁にかけてある鞄を取りあげ、握りしめる。


「助けてください! 誰か!」

大声で外に助けを求めた。


出来る限り、壁から離れなきゃ。

個室の中心あたりに後退した。天井にもムカデがいる。


「誰か! 助けてください! ヒッ!」

足元にきた。


鞄を床に叩きつけた。

逃げられた。

でも、こっちに近づいてくる。狙われてる・・・?


「っ!」

叩き潰そうとしながら、涙が出てきた。


動きが早くて思うようにいかない。

何度も叩きつけていたら、別のムカデが走り込んできて、1匹をやっと仕留めた。


鞄を振り回す。

なかなか当たらない。


「うっ、え、っ」


逃げなきゃ。出なくちゃ。怖い、


床に落ちた袋から、まだムカデがはい出て来る。


「ルティアさん、ルティアさん! 助けて、ッ、トラン様、助けて、助けて・・・ひっ」


背中に落ちてきた! 動いてる!

慌てて鞄を放り投げてしまった。


「嫌だ、来るな! 痛っ!」

足首に、鋭い痛みが走った。噛まれた。

腕にも。とっさに素手で払いのけた。触った。黒いものが飛んで壁にあたって落ちた。バタバタ動いてる。


「嫌だ、っ、トラン様、」

試合中、と一瞬よぎったけど、ギュッと通信アイテムを握りしめた。

「イタッ!!」


嫌だ、嫌だ、怖い、来るな、


ゴン、と私は床に倒れていた。


え。なんで。


嫌だ、ムカデが一杯いる、来る!

死ぬ、怖い、嫌だ、


助けて、トラン様、助けて、

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