67.テニスの試合が始まる
翌日。
普通に登校。
あれ? 誰一人教室にいない。
私、登校時間を間違えた・・・!? いや、時間は合ってる!
慌てて周囲を見回すと、廊下の窓の奥、人が集まっているのが見えた。
急いで窓の傍に寄って様子を見る。
何か、いつもと様子が違う・・・。
行ってみよう。
***
人だかりのいるところに行って、やっと分かった。
皆、今日のテニスの試合の応援に来ているのだ。
え、授業は?
無いのだっけ・・・? そんな風には聞いていないけど。
勇気を出して聞いてみよう。
「すみません、今日は授業はお休みなのでしょうか?」
「あたりまえでしょ。学院あげてのテニス対抗戦なの。今日は授業は全て自習。思い切り応援するの」
「そうでしたか。教えてくださって有難うございます」
「ふん、これだから無知な人は」
私が話しかけた貴族令嬢は、きちんと教えつつ、最後は偉そうにそっぽを向かれた。でも聞けて良かった。
今日は授業はあって無い様な日らしい。
まさか、学院全体が観戦モードになるとは・・・。
じゃあ私も、トラン様とレオ様の応援に専念しよう。
純粋に見たい上に、部員の後輩だしね。
キャア!
と歓声があがってそちらを見れば、トラン様が別の校舎から出て来られたところだった。
トラン様ー!
と心の中で声援を送る。
あと、トラン様って人気あるんだ・・・そりゃそうだよね・・・。
「婚約者はもうお決めになられたのかしら?」
「そんな話は聞いておりませんわ。まだ探しておられるのに違いありません」
「エルダ様が立候補されたとか」
「エルダ様? 私の家の方が上ですのよ」
ご令嬢方の話が耳に入ってくる。
内容に動揺した。辛くて苦しくなる。じわっと涙が出そうになって堪えた。
聞きたくない。
人気のないところで応援できるところ、探そう。
***
「おい、後輩」
レオ様が、木陰に潜んで応援しようとしていた私を発見した。
呆れておられる。
「まさかボール拾いを買って出たのか? だが制服のままというのにやる気がない」
「ボール拾いではなく、応援です」
「なら堂々としろ。いいか、良い応援は士気を上げる。後輩の役割として重要だ」
「はい、先輩」
レオ様は無言ながら、得意そうに私を見て笑んだ。
笑顔って、人を元気にさせてくれるなぁ。
私も笑み返した。
「今日は、部員の誇りをもって大声で応援しろ。そして世話になっている先輩のタイムスケジュールを把握だ。今日は学院の複数あるコートをフル活用して試合が進む。見逃すな」
「はい、分かりました」
「タイムスケジュールの張り出してある場所は知っているのか」
「いいえ・・・」
レオ様が途端、冷たい上から目線を私にぶつけた。
「トーマ。キャラ・パール嬢にタイムスケジュールを渡せ」
「承知いたしました」
レオ様の使用人の人らしい、トーマさんがスッと前に出てきて、私に丁寧に紙を5枚、渡してくださった。
え。5枚もあるんだ!
時間と、コートの場所、それから試合する人の名前が書いてある。
「世話の焼ける後輩だな。ぼんやりしていそうだから教えておくが、応援に行く先輩の名前にマークをつける等して把握しろ。時間が重なっている時の動きも考えておけ。トラン様と俺の試合が重なっているならトラン様を優先しろ。トラン様の方が世話になっているだろう。テニス部としてもトラン様の方が先輩だ」
「はい。教えてくださってありがとうございます」
「全くだ」
レオ様が冷たい目のままだ。
ちょっと居たたまれないので、言い訳をした。
「その、部活って初めてなので・・・。運動部なんて特に」
レオ様は私の言葉に少し驚いたようで、あっという間に真顔になり、それから少し反省するように目を伏せた。
「なるほど。俺の理解が浅かったな。きみと話すと色々と気づく」
「え、あの、きょ、今日は応援頑張ります、先輩!」
慌てて最後に礼を取る。
顔を上げると、偉そうなんだけど楽しそうにレオ様が笑んでいた。
「俺を先輩と呼べば機嫌が良いと思っているだろう」
え。だって実際、嬉しそうにされるので・・・。
ちょっと迷ったが、視線を少し逸らせつつコクリ、と頷く。
「良い度胸だ。まぁ本来はきみの方が年上だが」
レオ様はやっぱり楽しそう。
「部活で間違いなく先輩ですから」
「その通りだな」
「応援、頑張ります。後輩として」
「よし。あとで、大声だったかどうか判定してやろう」
が、がんばります・・・。




