64.試合
実は私は、テニスのルールが分かっていない。
そんな状態で上から見ていたけれど、レオ様は本当に運動神経が良い。
ボールを打つ姿はとてもカッコイイ。そして、トラン様より上手い。普通に走るの早い。
一方のトラン様は、少しテニスを休んでいたという事もあると思うけど、レオ様の打ち返したボールにちょっと追いつけていない。
だけど、途中で2本、トラン様が物凄くかっこよくボールを打ち返された。レオ様の意表をついた方向だったみたいで、レオ様、完全に動けず。
トラン様って、技術がすごいのかなぁ。
カッコいい。
そんな試合の結果。
レオ様が勝利。トラン様の負け。
なのに、レオ様が物凄く悔しがっている。表情と態度から悔しさがあふれ出している。
そしてトラン様はヤレヤレ、といった感じで少しため息をつかれたものの、私を見上げてニコリと笑ってくださった。
「もう一度勝負しろ!」
「何? 嫌だ。久しぶりでいきなり試合だ。二本はキツイ。先輩を労われ」
レオ様がトラン様に喚くように訴えはじめた。
「気が収まらない! トラン・ネーコ様!」
トラン様は少し困ったような顔になり、呆れを見せた。
「二本も続けるの辛いんだが・・・。キャラ・パール嬢も待っている」
「俺の方も疲れている。試合ではもっと一試合が長引く事だってある」
「まぁな」
「それから、キャラ・パール嬢はテニスのルールを全く理解していない。だから試合ルールを教えながら試合をすればいい」
「・・・簡単な打ち合いでは嫌か?」
「俺のストレス発散に付き合ってくださるのでは?」
「うーん」
トラン様は困ったように私を見た。
そして、レオ様も私をキッと見上げた。
「良いだろう? キャラ・パール嬢。試合を見ることも上達に繋がる。それに、俺とトラン様は上級者だ。打ち方をよく見ておくと良い」
「はい。分かりました」
と返事する。
「彼女の方を丸め込むな」
「先輩として後輩に正しい指導をいれただけだ」
まだ言い合っている。
なんだか、弟が、お兄ちゃんに我儘ぶつけて甘えてるって感じかな?
***
結局、もう一試合行われた。
私にも、テニスのルールを簡単に教えてくださりつつだったので、何となくルールが分かるようになってきた。
途中から、私が点数を数えることに。間違っていたら修正してくださるので嬉しい。
部活してるって感じ。
そして試合結果、やっぱり勝者はレオ様。だけどやっぱり2本、トラン様はレオ様が反応できないボールを返された。
レオ様は完封できなくて大変不満そうだ。
「トラン様には勝てない」
と呟いて悔しそうなんだけど、試合、両方とも勝たれていますよね。
トラン様が苦笑しつつ教えてくれたのには、レオ様って、内容も完璧に勝ちたがる性格らしい。
だからこそ上達スピードが速いらしいんだけど。
ぶすっとした表情で、レオ様はトラン様を見上げ、礼儀正しく一礼した。
「練習に付き合っていただいたこと感謝する」
「いや?」
「いいや。感謝している」
とレオ様が王者の笑みを浮かべられる。なんか威厳があるんだよなぁ、レオ様って。
「さて、俺はこの後コートを移動し、自主練をさせてもらう。水入らずでキャラ・パール嬢に教えると良い、トラン先輩」
「・・・」
トラン様が動揺している。
私もちょっと視線を横に逸らした。
「今の俺に見せつけるとは良い度胸だ」
とてもにこやかな笑顔だけど、悪口っぽい。
トラン様と私でギョッとする。
え、いえいえいえいえ。見せつけてません!
むしろレオ様がテニスの腕前を見せつけましたよ。
「ではこれで失礼する」
「おい、レオ」
「失礼する」
焦って呼び止めるトラン様にレオ様は退出の言葉を繰り返し、最後、トラン様にものすごく嫌な上から目線の顔を見せてから去って行かれた。
あ、あれ・・・。
「・・・」
「・・・」
「・・・素振りするか?」
「・・・はい」
レオ様に悪い事をしてしまった・・・?
***
素振りを教えてもらって、軽くコートにて打ち合い。
私がとても下手なので、ボールがあっちこっちに飛んだりネットに引っかかったりするし、変な持ち方でラケットを振って手首を痛めてはいけないので、打ち合いは本当に少しだけ。
でも楽しい。
部活は終了して、着替え終わってまたトラン様と合流。
「負担のない範囲で楽しもう」
「はい!」
ニコニコしていると、トラン様も嬉しそうにしてくださる。
テニスの話題をしたので、レオ様のことも話題になりつつ、馬車にて寮に送ってもらった。
レオ様はモモ・ピンクー様と婚約を解消されたのだけど、ずっと好きだった女性に、相手にしてもらえなかった。
そっか・・・。
トラン様は今は相手のお名前は言われなかったんだけど、昼のお話を踏まえると、レオ様はスミレ様が好きだったんだろう。
そのスミレ様はポニー様と再び婚約された。
それは、落ち込むし機嫌も悪くなるよね・・・。
さて、馬車が寮に到着。
「送って下さって有難うございました」
「いいや。これぐらい大したことはない」
「まだ早いですが、おやすみなさい、トラン様」
「本当に早い。・・・夜の連絡は負担じゃないか?」
「はい」
「良かった。では、また後で」
「・・・はい」
ちょっとはにかんで答えてしまったら、トラン様が安心したように笑ってくれた。
廊下に何があるか分からないと、ルティアさんが私の自室まで送って下さった。
いつも本当に有難うございます、ルティアさん。
ルティアさんもニコニコしていた。




