表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/143

63.気まずい

私は慌てた。

「義務とか、そんなのじゃないです! トラン様の連絡嬉しいです!」

「・・・本当か」

トラン様が顔を上げる。


「はい」

「その・・・例えばポニーと仲が良かったのを、俺が時間を貰うから邪魔だったということは」


ポニー様?

ちょっとキョトンとした。

「いいえ」

「そ、うか・・・。いや、あの。少しその、動揺というか、その、色々気になった。すまない」


「・・・」

私は黙り込んでしまった。

トラン様も黙り込まれた。


なんだろう。

私はトラン様を好きで、連絡もランチも全部嬉しく思っているけど、伝わっていないのかな。

そんなに私、愛想が無いのかな。


どうしたら良いんだろう。

ちなみにトラン様、片手で顔を覆うように少し俯いておられる。どうやらダメージを負ってしまったみたいだ。


トラン様。好きです。

そうじゃなきゃ、毎日遅くの連絡なんて待っていないかもしれません。


トラン様も私のこと好きでいてくださるのかなって実は期待しています。

トラン様が告白とかしてくださったらいいのにな、とか。


でもそういう言葉はない。

全部、平民の私へのフォローであって、実はトラン様にとってはそれだけ?

別に意識なんてされてない?

でも毎日連絡してくださるぐらいだから、特別に思ってもらってるんじゃないかとか。


好きですって、私からは言えない。勇気が無い。


私はこの世界ではヒロインのはずだ。

身分を気にしながら、身分を超えてハッピーエンドになれる、はず。


そう思って希望は持つけど、普通はなれない。

それほど、実際には身分の壁って分厚くて高い。


学院ではトラン様が色々心配してくれて、こうやって交流も持てているけど。

トラン様の状況が変わったら、あっという間にこの状態も変わってしまう。


先日、トラン様がゲーム知識を確認して、『役に立たない』みたいに言ったけど。

本当にその通りだ。

具体的にどうしたら幸せになれるか分からない。


それに、結局ゲームの世界とは色々違う。

自分がどういう結末を迎えるのか、奇跡があるのか、分からない。


普通に考えれば、トラン様について勝手に好きになって、現実に諦めるのが正解だ。

奇跡でも起きなきゃ、どうにもならない。


うー、辛くなってきた・・・。


ジェイさんが、静かになった空間、そっと声を出した。申し訳なさそうに。

「そろそろお時間が・・・」


***


微妙な空気のまま、ランチは終了。


「・・・今日、授業終わったらテニスをしよう。待っているから」

「はい」


「最後、変な空気にして、申し訳ない。久しぶりにテニスできるの楽しみにしている」

と、トラン様が小さな声で言ってくださった。

「はい。楽しみにしています」


私が笑むと、トラン様が優し気に笑み返してくださった。


***


というわけで。


「どうして! 俺が出てこないといけないんだ!」

レオ・ライオン様が、トラン様と私に向かって怒っておられる。


もう放課後。

トラン様ご指定のテニスコート。体操着で集合。


「レオにも気分転換になると思ったからだ。色々あったからな」

「余計なお世話だ! トラン・ネーコ様。あなたは俺に見せつけたいのか!?」


「なにを」

「キャラ・パール嬢だ!」


「彼女は部員だ。後輩だろ」

「よく言う。下心が見え透いている」


えー。

この会話の中、私はどうしたら良いんでしょう。

ちょっと明後日の方に視線を向けてみたりする。そっかー。レオ様から見てそうなんですね。


「そもそも試合が近いだろう。俺も状況によっては試合に出れるらしいので、レオと打ち合っておきたい」

「あれ。そうなのか」

試合と聞いて、急にレオ様が機嫌を直した。


「分かった。なら、まずはトラン様と打ち合いたい。それぐらい俺の希望を叶えて欲しい、トラン先輩」

「レオに『先輩』と呼ばれるとは。ゾッとするな」


「それぐらい叶える心遣いを見せてくれてもいいだろう、俺はこう見えて非常にストレスが溜まっている」

「あぁ。それはな。分かった。キャラ・パール嬢、試合をするから、見学しておいてくれないか。せっかくだから審判席に座って見ていると良い」


「言っておくがトラン先輩、俺は非常に機嫌が悪い。本気で行かせてもらう」

「あぁ。だが言っておくが俺は病み上がりだからな」


「ふざけるな。本気で来い!」

「ふざけてない。一応格好いいところを見せる予定だ」


「絶対負かせてやる、トラン・ネーコ様」

「あぁ。多分負けるから」


「腹の立つ!」


ワイワイ言い合いながら、それぞれ柔軟体操や壁打ちを始めだすお二人。

ケンカするほど仲が良いのかなぁ。

と思いつつ、前世も合わせて初めての、テニスコートの審判席にワクワクとよじ登った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ