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60.本当にトラン様

30分後、本当にトラン様がやってきた。馬車で。

着いたという連絡に、寮の自室を出る。


あ。トラン様が入り口にいる。私を見つけて嬉しそうに笑っている。

ドア開いてたのかな? そんなわけないか、管理人室に明かりがついてるから、気づいて開けてくれたのかな。


本当に右腕も大丈夫そう。私を見て右手を上げてくださった。


「遅くに申し訳ない。俺の我儘だ。どうしても顔が見たくて」

「はい」

小声で会話しながら、外に出る。

寮は、管理人のおじさん以外、申請とかしないと入ったら駄目。

それに部屋に入りたいと言われていないし、外が良いかな。


寮から10歩離れたところぐらいで立ち止る。

トラン様が私の正面に立って、嬉しそうに私を見ているのが分かる。

「きみにこうやって会えるようになったのが、嬉しくて」

「・・・はい」


「困らせていたら、申し訳ない」

「いえ。あの、事情がよく分かっていなくて」


「うん。でもやっと。・・・このところ、どうしても受け入れたくない事を要求されていた。逃げ場をどんどん潰されて、動きがとれなくて。きみに迷惑や被害が行きそうでなかなか会えなかった。・・・分からない話ばかりして申し訳ない。急なのに会ってくれてありがとう。それから、とっさにで、我ながら申し訳ない、また明日改めるが・・・これを」

トラン様が、ポケットから立派なペンを取り出した。いかにも貴族が使っている感じの。


「急な我儘に突き合わせたのに手ぶらで来てしまった。きみの趣味とは合わないとは思うんだが・・・。良いものなのは間違いない、今日の詫びに貰って欲しい」

「え、良いです、いらないです、私がこんな立派なの持っていたら変ですから!」


「そう言わず、受け取って欲しい。何も持たずに来てしまった」

「いえ、別に何もいらないですから。このペン、トラン様が使っておられるものでしょう? トラン様の方にお似合いですから!」


「だが」

「いえ、お気持ちだけで! 大丈夫です! 本当に!」


「そう、か・・・?」

一生懸命お断りしたのに、トラン様は寂しそうに目を伏せた。少し落ち込んだみたいに。


違うから違うから!

やっぱり相応しい持ち主ってあると思うんだ!


「私がいただくより、トラン様に持っていただいた方が絶対に良いです! こんなペンいただいても、立派でどうして良いのか分からなくて宝物として仕舞うしかないですから! それ勿体ないと思うんです!」

物凄く力説。夜だから皆さんの迷惑にならにように小声で。


「・・・分かった」

少し拗ねたみたいになった、と思ったらすぐにトラン様は私を見てまた嬉しそうに笑まれた。


その表情に動揺した。

本当に嬉しそう。いつもより幼い雰囲気。


勿論、私だってお会いできるのは嬉しい。

だけど、こんな急に夜に? 突然すぎて、不思議に思う気持ちの方が強い。


「会えて嬉しい。話がまたできて良かった」

「・・・」

真面目にじっとトラン様を見つめた。


「きみも無事でよかった」

「ありがとうございます。・・・あの、トラン様も、怪我が本当に治られたの、ですか?」

今、外は暗いけど寮の建物の灯りもある。

少なくとも顔につけられていた治療用のテープがなくなっているのは分かる。


「あぁ。完全回復だ。お守りのお陰だ」

トラン様が右腕を動かして見せてくれる。

「本当に・・・」


「触ってみるか?」

と冗談めかして言われたので、私はつい苦笑した。

「触るのは遠慮します。でも、本当に回復されているなら、良かった。嬉しいです」


「疑い深いな。テニスもできるぞ。知り合いの魔法使いが褒めたぐらいだ。良いものを贈られましたな、などと言われた。自分が作ったもののように誇らしかった」

「そうでしたか。嬉しい。私もお役に立てて良かったです。いつも守っていただいたりお世話になってばかりですから」


「そんなはずはない。俺の特に用件も無い通信にもきみは付き合ってくれた。本当に・・・ありがとう」

「それは大したことないです。トラン様とお話しできるの、私もとても楽しみでした」


「きみも楽しみにしていてくれたのなら・・・俺も安心だ。嬉しいよ」

じっと見つめられて、ドキリとした。


「あまり遅くなってはいけないから、名残惜しいが、今日はこれで戻る。明日会えるのを楽しみにしている」

「はい。あ、明日はランチで良いんですよね?」

朝もとか言っておられたけど・・・。


「あぁ。ランチ。手も治ったので何でも食べられるぞ。食べたいものがあったらリクエストしてくれたら善処する」

「お任せで!」

貴族の人が食べるものって私の想像つかないものが多いから。


トラン様が少し面白そうに目を大きくした。

「分かった。ではお任せされよう。・・・では、寮の部屋に戻るまで見届けさせてくれ。廊下も色々あると聞いている。心配だ」

「ありがとうございます」


こうして、トラン様は本当に、私が自室に入るところまで、寮の入り口から見ていてくれた。

互いに手を振り合った。

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