06.料理の授業
午後。
記憶が蘇る前の私が、興味を引かれて選択した授業が目白押しだ。
成績が良いほど家族の支援金がもらえるし、何より勉強できることが嬉しくて、沢山入れちゃってるんだよね・・・。
というわけで、料理の授業だ。
今までは、色んな料理の紹介が授業内容で、座って聞いてちょっと食べてみる。平民の私にとっては美味しくて嬉しい内容だった。
そして今日からは、実際に作る授業も始まる。
初回の今日は、6人ずつのグループに分かれて、クッキーを焼く。
先生が、前で手順を教えてくれる。
「さぁ、皆さん、とりかかりましょう!」
先生がそう告げたが、同じグループになったご令嬢方は動かない。
5人全員が『あなたやりなさいよ』と視線で命令して来たので、作業させてもらう事に。
良いんだけど・・・。
ちなみに、このグループは平民の私がいるけど、他のグループは貴族令嬢ばかり。
他のグループを見てみると、一番立場の弱い人が作業させられる様子。
恐々と、不安そうにやっているのを見ると、なんか微妙な気持ちになってしまう。
私の場合は、作業にたくさん入れるのはラッキーだと思うんだ。
自分で作れるようになりたいし。
ただ、自分が趣味でやるには、原材料が平民には高すぎるのだけど。
「お待ちなさい!」
「え、はい」
一緒のグループになっているモモ・ピンクー様がキッと声をあげた。
「砂糖は私が入れます!」
「はい。・・・お願いします」
材料はそれぞれ計量された状態できちんと置いてあるので、ご令嬢にも手が出しやすい様子。
「で、では私は、バターを・・・!」
モモ様に続けとばかりに、他のご令嬢も意を決したように材料を投入してこられる。
ちなみに、ちょっと嬉しそうに誇らしそうに見えたりするので、『ちょっとやってみたい意欲』はあるんだね、ご令嬢方。
「さぁ、しっかりかき混ぜなさい!」
とモモ様からビシッとご命令いただきました。
「・・・あまり混ぜすぎると良くないと、先生が・・・」
「まぁ! 分かっていますわ! しっかり適切にお混ぜなさいという意味ですわ!」
「はい」
前の黒板に書かれた手順を確認しつつ、作業する。
***
「まだかしら。待たせすぎですわ」
オーブンの付近で、ご令嬢方がソワソワしている。
もう焼き上がりを待つだけだ。
一方、私は、後片付けを黙々としている。
残念ながら、調理器具を洗ってみたい、というご令嬢はいない。まぁ、基本的に作業したの私なので洗います。
とても暇そうだしお待ちになっている間、ちょっと机を拭いて下さったりなんて、と思ってしまうけど、無いよね。
ちなみに他のテーブルをチラと見れば、使用後のものは放置。一切洗われたり片付けられたりしていない。
どうするつもりなんだろう・・・。
学院側か、使用人の人がやってくれるのかなぁ・・・。
***
「さぁ、出来上がりですよ」
先生の声に、皆様がキャァと喜びの声を上げた。
「熱いから気を付けてください。今取りますからね」
それぞれのグループに、先生が出来上がったクッキーを並べてくれる。
嬉しいな。
ちなみに、クッキーの形はバラバラだ。
ご令嬢方は人生でこんな事をしたのは初めてだからだろう、結構不器用な出来上がり。私は上手く整えられたのだけど。
さて、ここからラッピング。
「では」
とモモ様が宣言し、私が整えた綺麗なクッキーから自分のカゴに入れていかれた。
「・・・」
待ってください。それ、モモ様のクッキーじゃないですよね?
他のご令嬢もできる限り綺麗なものを選ぼうとされている。
「上手くできましたわ。私、レオ様に差し上げますわ」
とモモ様。
他のご令嬢もそれぞれ誰に差し入れするか言い合っている。
「・・・」
うーん。なんか、モヤッとするなぁ。我慢できる範囲だけど。
「皆様、こちらたくさん残っていますが」
と一応、そっちを確認。
不細工な方が多かったので、たくさん残ったままだ。
「あら。そんな形の崩れたものはいりませんわ」
いや、あなた方の作品です。
「では、全て貰っても構いませんか?」
変わらず美味しいと思うよ?
「まぁ。卑しい事。平民にはお似合いですわ」
「勿体無いので、全ていただきます」
全部貰っていいみたいだ。
カゴは小さいもので入りきらないから、ハンカチで包んで持って帰っても良いかな。
***
「どうしたんだ?」
顔を上げると、放課後に会う約束をしていた、トラン・ネーコ様だった。
「すみません・・・行けなくて」
「・・・」
私は一人、全部のグループの後片付けをするハメになっていた。
先生は皆に片づけを指示して先に帰り、全てのグループは私にそれを押し付けたから。
放課後の約束のこともあって、急いだけど、まだ終わらない。
「まぁ・・・何かあったのかと思って探した。で? これも嫌がらせ?」
「・・・身分差的には当然の流れと思います。でも私はキツイです。嫌がらせに入れて良いですか?」
「状況が良く分かってないんだが、とりあえず何をしたらいい?」
「貴族ご令息に使用人みたいなことさせられるわけないじゃないですかぁ」
「なら使用人にやらせよう」
お言葉に思わず真顔で見てしまう。
トラン・ネーコ様も真顔だった。