59.混乱
さて。今日の授業も終わった。
現在、アルバイトにも行かず寮の私の自室に戻っている。
というのは、今朝に毒ヘビの事があったので、ルティアさんたちが、部屋の中が安全か見てくれることになったのだ。
ルティアさん以外は男性なので、管理人さんに特別に許可を貰う。護衛を兼ねているグレンさんと、もう一人、セドさんという人。
ちなみにセドさんは、グレンさんが私の護衛として入ってくる前から、寮の外から異変が無いかチェックしてくれていたらしい。ルティアさんと一緒にトラン様のところに帰っているのもこの人。
いつも本当にお世話になっています。有難うございます。
私の部屋の中が無事か、ルティアさんたちが調べてくれた。結果、何も出なかった。
良かった。不安でビクビクするところだったけど、安心できる。
***
さて。ルティアさんたちも帰って行かれた夜。
多分、今日もトラン様から連絡が来るはず、と思って、少し遅い時間だけど待っている。
でも、いつもより遅いな。何かあったのかな。大丈夫かな。
不安になってくる。
「あ!」
通信アイテムが震えた。急いで握り込む。
『っ、キャラ・パール嬢!』
驚いたような声がした。トラン様だけど、いつもと何か様子が違う。
「はい!」
どうしました!?
『あ、俺・・・!』
はい。なんでしょうか!?
『・・・』
トラン様の言葉が聞こえない。
なに、何?
「トラン様!? どうされましたか!?」
しばらく待って、慌てて尋ねる。
『あ、違う、きみ、今、起きてたか?』
「起きていますよ?」
どうしたんだろう。トラン様が慌てている? 混乱?
『そ、うか、あの・・・』
はい。
言葉を邪魔してはいけないから、無言で待つ。
また沈黙が。
「トラン様? 大丈夫ですか?」
今度はそっと聞いてみた。
『あの、申し訳ない、自分でも動揺していて、話が飛びそうだ』
「はい。大丈夫ですよ?」
『ありがとう。その、なんだ・・・俺は』
はい。
『・・・問題が無くなった。解消した。その、スミレ・ヴァイオレット嬢の件で、動けなくなっていた。それが解決した。だから、動ける』
「・・・」
トラン様の話し方は、やっぱり混乱しているみたいだ。
だけど問題が解決って言うのは良い事だ。
ただ、私は具体的にどういう問題をトラン様が抱えていたのか分からないから、答えを返しづらいところがある。だから、ただ聞いている。
『急に遅い時間で申し訳ない。やっと今・・・あの、明日、ランチ一緒にお願いできないか? それから、もしきみに予定が特にないなら、昼休み一緒に過ごしても良いか? 図書館でも付き合うし、身体が治ったからテニスも付き合える』
ランチもできるようになったんだ。
私は驚いた。
嬉しい。
「はい、是非。楽しみにしています。テニスはちょっと、お身体が心配だから、えっと・・・図書館も行かなきゃいけないわけじゃないので、何でも良いですよ」
『本当に? できれば話を色々したい。図書館でも良いが話が、だから、その・・・なんでもいいんだが』
「はい。事情がよく分かっていないので申し訳ないですが、でも、良かったですね、トラン様」
『あぁ。ありがとう。うん・・・なぁ』
「はい?」
『あの、突然で、あれなんだが』
「はい」
あれとはどれでしょう。
『今、会いに行っても、良いか?』
「え?」
『あ、いや、そんなに遅くは話すつもりはない、その、単に会いたいだけなんだが』
「・・・」
もう大分遅い時間なんだけど、今からトラン様、こっちに来るの?
『もちろん部屋になんて考えていない、外で、その、少し立ち話でも、できれば、という・・・』
トラン様がものすごく焦りだした。口調が早くなっていってる。ゴニョゴニョ言い出した。
「お急ぎとか・・・」
『そうではなくて・・・いや、申し訳ない。・・・なら、明日の朝にも、会ってもらえないか? その・・・我儘だが』
どうしたんだろう。大丈夫かな。
なんか混乱しているのかな。
「えっと、そんなに遅くならないなら、今でも大丈夫ですよ・・・?」
『本当に?』
食い気味で返事が来た。
え、なんだか必死?
「はい」
『分かった、すぐ行く。あ、30分後ぐらいに着く。着いたら連絡する』
「はい」
『じゃあ』




