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58/143

58.再びの

スミレには、自分で実をとるなんてとてもできない。


ポニー様は、自分で取った実を、スミレにその手から食べさせてくれた。

採った人以外が触れると急に悪くなってしまうから、こうした方が美味しいのだそうだ。


とても甘くて驚いた。


「呪いの耐性もつくんだよ」

とポニー様は、こっそりとスミレに秘密を教えてくれた。


「お姉さまの枝もあるんだ。実、たくさんあるのに、お姉さま、いなくなっちゃった」

ポニー様は、木からも亡き姉を思い出し、再び泣きはじめた。


慌てたスミレは勇気を出して、木に近寄り、枝から自分で実をとった。

それをポニー様の口元に差し出した。


驚いたポニー様は、ボロボロ涙を落としながら、スミレの差し出す実を口にした。

泣きながら、ポニー様は嬉しそうに笑った。

そんな複雑な表情など見たこともなく、スミレは驚いて見つめていた。


そんな幼い子ども2人の様子は、家に知られた。

あっという間に、婚約することに決まった。


***


あの幼い日。お互い、他を知らなかった。互いを好ましく思っていた。


あの時に戻ってやり直そう。


一方で、互いに、今に至る時間を無かったことにできないと分かっている。

スミレもポニー様も、互いを苦く思っていることを知っている。


だけど。

戻ったつもりで。

互いに相手だけを見つめてみよう。生涯添い遂げるつもりで。


***


全て呪いが消えたと神殿の高官が認めてくれた。


スミレは安堵に泣いた。

ポニー様が、

「良かったね」

と嬉しそうにスミレに言った。


御礼をやっと告げながら、やり直したいとスミレからも言った。

うん、とポニー様も答えてくれた。


だから、再び正式に、婚約関係に。

それが、昨日。


***


解呪は終わったが、もうしばらく、心の回復のためにも静養する。


ミカン・オレンジ嬢については、学院から追放処分。しばらくはオレンジ家で監視するという。

当然、貴族社会から追放だ。

また、王家直々にオレンジ家に罰を言い渡し、領地の7分の1がヴァイオレット家に謝罪の形として譲り渡される事になった。


「こうして、この実をきみと食べていると、あの日を思い出す。きみはどう?」

とポニー様が話しかけて来る。

ポニー様は、スミレの学院復帰までずっと傍にいてくれる。

一緒に学院に戻ろうと言ってくれた。


ミカン・オレンジ嬢がいなくなったとはいえ、スミレにとって、学院は酷く恐ろしい場所に変わってしまった。

誰が自分にどんな感情を向けているのか、分からない。

ポニー様が一緒なら、まだ、戻れる気がする。

学院で学び卒業しておくことは、貴族にとって必要な事で、余程のことが無い限り戻るほかない。


こんなに親身にされて、自分への気遣いを疑うものなどいないだろう。

スミレは、心の頼りをポニー様にしたと、自覚している。


「はい」

と小さく返事を。


ポニー様が、小さいながらもため息をついた。

スミレはビクリと恐ろしさを感じた。


「僕の方が、きみより先に、好きになっていそうだ」


言われた言葉に、目を丸くする。

伏せていた顔を上げて、ポニー様の様子を見る。


「仲良くやろう」

「・・・は、い」


「大丈夫。時間はまだたっぷりあるよ」

「・・・」


「レオ・ライオン様も、来ていたって聞いたよ。レオには会わなかったんだね」

「・・・」

なぜそんな話題を。スミレは俯いた。


す、と手が伸びてきて驚いた。

指が、スミレの頬にのびてギョッとした。

見れば、ポニー様が真剣な、それでいて少し赤みのある顔でスミレをじっと見つめていた。


「解呪のためとはいえ、きみにずっと触れていたから、堂々と触れられなくなって寂しくなった」

「・・・」

スミレは真っ赤になった。


「婚約を一度解消して、それでもまた僕たちは戻ったから、僕たち、互いに頑張ろうね」

「・・・頑張る・・・」


「うん。そうだよ」

「はい・・・」


「学院に戻ったら、休み時間、一緒にいよう。しばらくでもずっと毎日でもどちらでも良い。僕はきみを一番に想う。少なくともその努力をする」

「はい」


「ねぇ、知っていて欲しい。僕は、一度婚約を解消した時、きみが嫌いだったわけじゃない」

「・・・はい」

スミレの胸に、暖かさが広がる。


「きみは、僕が嫌いだった?」

「・・・」

正直に言えば。嫌いになっていた。大勢の前で非難をしてくるのだから。平民を庇って。

だけど。

「好きです」

今の気持ちを告げた。恥ずかしさのあまり、涙がにじんだ。


「嬉しい」

とポニー様の声が聞こえた。

確かめたくて、スミレは涙の溢れた眼差しで顔を上げた。


大人びた落ち着いた、笑顔があった。

零れた涙を拭ってくれた。


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