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56.スミレ・ヴァイオレット嬢は

王都にある屋敷で。

スミレ・ヴァイオレットは、自分の傍につきっきりの、ポニー・ウゥーマ様をそっと見た。


ポニー様はすぐに視線に気づいたようで、静かに笑みを浮かべる。少し大人びた表情で、慌ててスミレは目を伏せた。


「何か飲む?」

とポニー様が聞くのに、俯いたまま、首を横に振った。


「そう」


それにコクリ、と頷く。


また部屋に静かさが戻る。


昨日。

スミレとポニー様は、再び正式に婚約を結び直した。


***


先日。

学院で、スミレは、ミカン・オレンジ嬢に暴力を受けた。


すぐに、学院から近いところにある、母が住んでいるヴァイオレット家の屋敷に帰ることになった。なお、父は各地にある領地を視察中だ。


屋敷に戻って来たスミレの状態に、母は怒り狂った。

すぐさま、スミレの治療と回復と、加害者であるミカン・オレンジ嬢に厳罰を与えるために手を打った。


まず王家への状況連絡を。そして要請を出し、王家に仕える魔法使いをスミレのため呼び寄せた。


彼の魔法で、スミレの怪我は、その日のうちに治すことができた。

けれど、心に受けた大きなショックまでは治せない。

また、呪いにも手が出せなかった。解呪方法が存在するからこそ、正しい方法で解呪しないときれいに消えないのだと。


母はすぐさま、呪いを解くため神殿に要請を出した。

高位の神官により、かけられた呪いの内容と、解呪方法はすぐに割り出された。

呪いの内容は、スミレ自身に告げられていた通りだった。『美しいと思っているほど、醜くなる呪い』。なお、『醜いと思っているほど、美しくなる』ものでもある、とも言われたが。


加えて教えられた解呪方法に、母もスミレもショックを受けた。スミレに意地の悪すぎるものだった。


『家族や親族では無い異性に、呪いを拭き取ってもらうこと』。

解呪用の神聖な布で頬や首を。加えて、呪いの強さから見て、完全な解呪になるまで数日かかるほどだろう、とも。


婚約者がいるなら相手に頼めた。まだ『家族でも親族でもない』ので条件に合う。

だが、今のスミレには相手がいない。


簡単な相手に解呪を頼むわけにはいかない。仮に相手が神官でも、間違いなく、相手とスミレの関係を周囲は勝手に噂する。

加えてスミレ自身が、婚約者でもない限り、異性に何度も触れられるなど耐えられない。


ならば婚約者を早急に決め直し、その相手に解呪を依頼する必要がある。


母は怒りのまま、スミレへの確認を経ず、全て動いた。

ヴァイオレット家として、ネーコ家の令息、トラン・ネーコ様にこの件の責任を取るように要請した。

スミレが襲われたのは、トラン・ネーコ様がミカン・オレンジ嬢と婚約を解消したせいだ。スミレは逆恨みされたのだ。


だがネーコ家からの返答は、断りだった。

『オレンジ家の問題であり、ネーコ家が責任を負うものではない』と。


母がそれを受け入れるわけは無かった。

そもそも相応しい家柄など数が知れている。婚約者がいなくなった意味でも、トラン・ネーコ様は双方にとって良い相手だ。


ヴァイオレット家は、スミレとトラン・ネーコ様との婚約を強く求めた。


なのに、トラン・ネーコ様は動かない。

他からも強く圧力をかけるように母は動く。

ネーコ家自体は良い縁だと思っている様子だが、もう良い年齢なのでトラン様本人の意思を尊重するという。その本人が、態度を変えない。


母は急いでいた。母はスミレを愛している。スミレの苦しみを一刻でも早く解決したい。

だから、トラン・ネーコ様が断りの連絡を初めにしてきた時点で、母は他の手も打った。


ポニー・ウゥーマ様にも、判明した解呪方法を連絡したのだ。


しかしポニー様は先に動いていたらしい。

解呪方法が判明する前から、役に立つと思われるものをとりに移動していた。

ポニー様は、念のために呪いに役立つそれを手に入れてから、ヴァイオレット家へ駆けつけるという。


結局事態が動かない事に焦った母は、待っておられず、翌日、他の有力な家、スミレの婚約者になりえそうな令息のいる家々に、広く協力を依頼した。

婚姻関係を結ぶことを前提に、解呪を希望している、と。


***


スミレに面会を求めてやってきた者は何人もいた。


母は、誰が来たか、会うかどうかの判断は、スミレに確認してくれた。

訪問者の中には、レオ・ライオン様もいた。


しかし全て会う気になれなかった。もう屋敷に来てくださっている、と聞いてもなお。

呪いによる醜い姿をさらすことに耐えられない。


もしかして。唯一、自分が密かに憧れていた人が来てくれれば。

とスミレはどこか期待していた。

だが、幻想だと分かっている。仲睦まじい婚約者のいる身で、あの人がスミレの元に駆け付けてくれるはずはない。


そんなところに。

ポニー・ウゥーマ様も、この屋敷に到着した。


会うかを母に尋ねられ、スミレは激しく首を横に振り、嫌がった。

他の誰よりも会いたくない。


なのに、母は勝手に決めたのだ。

「他の方々よりも、あなた今、随分美しい姿になっているわ。だから、ポニー様にはお会いしなさい。あなたがそんなに嫌がるという事は、ポニー様は特別という事よ」


そして、スミレの意志などお構いなしに、ポニー様が部屋に案内されてきた。



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