表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/143

49.メーメ様とミルキィ様と犯人

「彼が何やら怒っているようだ。何か知っているか?」

とメーメ様。とても困惑したように。


メーメ様、なんだかものすごく腹黒い人みたいに見えてきた。

白ヤギに見えるが実は黒ヤギ・・・。


ミルキィ様はメーメ様から視線を外さない。

「困った人だ」

などと言いつつ、メーメ様がミルキィ様を抱き上げた。メーメ様、背が高いので無理がない。

いわゆるお姫様抱っこしつつ、ミルキィ様の正面に美術の先生が見えるようにしていたりする。

ミルキィ様はそんな姿勢でなお、嬉しそうにメーメ様の顔だけ見つめている。


うーん。なんかちょっと見ているだけだが、何とも言えずムカついてくる。

私の心が狭い?


「あ、あなたが!」

ついに、犯人の美術の先生が、意味のある言葉を叫んだ。

メーメ様とミルキィ様以外の全員が、犯人の言葉に注目した。隣にいた学院長たちも、開けっぱなしだったドアから姿を見せた。


「あなたが! ミルキィ・ホワイト様! あなたが・・・!」

犯人が名前を呼んだ瞬間、ミルキィ様が犯人をチラ、と見た。あんなにメーメ様に照れていたのに、急に無関心な冷たい顔で。


その様子に、美術教師は震えた。


「あなたの、ために、あなたが、だから、私は・・・!」

ブルブルと震えながら、信じられないものを見せられているように、目を見開いてミルキィ・ホワイト様を見ている犯人。


ミルキィ様は、つまらないものを見たかのように、視線を犯人の美術の先生から逸らせた。

メーメ様に身体を寄せる。不満そうに。


「先生」

と言ったのはメーメ様だ。

「申し訳ない。私の婚約者には悪い癖がある」

メーメ様の言葉に驚いたのはミルキィ様だ。メーメ様の表情を確認しようとし、顔を歪ませた。

「酷い、メーメ様・・・」

相変わらずものすごく可愛い声。そして、悲劇のヒロインそのままに両手で顔を覆った。劇を見ているかのように美しい姿だ。


犯人の先生は、憎々し気にメーメ様を睨んでいる。


「この通り、彼女は私を愛してくれている。だが、一方で、他の男からの愛情も欲しがる」

「・・・なんだと」

犯人の言葉は、小さくて乾いていた。


「ただ、彼女の愛は私にだけ与えられる。つまり、他の男からの愛や犠牲を好むが、見返りは一切渡さない。自分に都合が悪くなると切り捨てる」

「・・・馬鹿な」

犯人が呟く。信じたくない様子だけど、目の前のメーメ様とミルキィ様の様子に信じざるを得ないみたいだ。


「私はこんな彼女を愛しく思う。が、一般的には、彼女は悪女と呼ばれるように思う」

「!!」

ミルキィ様が顔を上げた。両目からは間違いなく涙が流れている。

そしてポコポコとメーメ様を叩きだした。

もちろん、メーメ様には何のダメージにもならないような、そんな動きで。


「ミルキィ」

今度こそ本心から困った様子で、メーメ・ヤギィ様が、未だに抱きかかえているミルキィ様に声をかけた。

「私は、愛人は認めないと言っただろう? 私は確かに一人の時間を好み、きみに寂しい思いをさせてしまう。だがきみだって絵を描き造形を好んでいる。そこは理解してくれているはず」

メーメ様に、コクコク、と泣きながら頷くミルキィ様。


うーん。

ミルキィ様、私より年上の良い年齢なのだから、言葉でちゃんと返事すれば良いのに・・・。

と思う私は、恋人のいちゃつきに寛容では無いんだろうか。


メーメ様が話を続けている。

「だから、これ以上、周囲の男をたぶらかすのを止めてくれないか。何かあるなら私を頼れ」

「たぶらかすなんてこと、していませんわ・・・」

「この状態を見ろ。間違いなくきみのせいだ。・・・先生、申し訳ないが、全て話してもらいたい。彼女はこんな性格で、自分からは非を認めない。だが彼女にも行動を改めてもらわなくては」


「・・・」

どこか茫然としたように、メーメ様とミルキィ様を見つめ続ける犯人。


「アレン・オルトパス」

と、取り調べる側の先生が声をかけた。


犯人である美術の先生が、項垂れるように俯き、それから一度顔を上げた。

「あなたは・・・私を利用したのですか?」


ミルキィ様はふと、とても冷たい視線を犯人に向けた。


***


メーメ様とミルキィ様は、学院長室の方に移動された。

私とルティアさんはそのまま残った。

犯人の美術の先生が自白を始めたからだ。


犯人は泣いている。

やっぱりミルキィ様に惚れていたらしい。


ミルキィ様の沈む様子に親身に相談に乗ってみれば、『婚約者のメーメ様が、平民の子に親しくて不安だ、メーメ様は本が好きな人で、あまり自分から他の人に関わらない。そのメーメ様が、自分との会話にもその平民について話す、心が移っているとしか思えなくて』と泣かれたという。

話すのが苦手らしくほとんど話をする事のないミルキィ様が、自分に心を開き、涙を見せた。

美術の先生は衝撃を受けた。


励ました。

ミルキィ様の涙の原因を無くしたかった。


親身に相談に乗り励ますうちに、ミルキィ様は次第に元気になり、微笑んでくれた。未だに涙を残したままで。


そして。具体的な手段が思いつかず困っていた先生に、ミルキィ様は、白い封筒の束をそっと渡してきた。


死ぬような呪いでは無い。

ただ、その子が学院に二度とこないようにする呪い。

手慰みで、ミルキィ様が作ってしまったものだという。その子が来なければ良いのに、と、つい。


先生はまた涙をみせるミルキィ様に衝撃を受け、この封筒を使えば良いのだと理解した。


毎日、朝早くに教室をチェックするふりをして、その子の椅子などに呪いを仕込み出した。


白状しながら、先生はひたすら、ミルキィ様を思って泣いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ