49.メーメ様とミルキィ様と犯人
「彼が何やら怒っているようだ。何か知っているか?」
とメーメ様。とても困惑したように。
メーメ様、なんだかものすごく腹黒い人みたいに見えてきた。
白ヤギに見えるが実は黒ヤギ・・・。
ミルキィ様はメーメ様から視線を外さない。
「困った人だ」
などと言いつつ、メーメ様がミルキィ様を抱き上げた。メーメ様、背が高いので無理がない。
いわゆるお姫様抱っこしつつ、ミルキィ様の正面に美術の先生が見えるようにしていたりする。
ミルキィ様はそんな姿勢でなお、嬉しそうにメーメ様の顔だけ見つめている。
うーん。なんかちょっと見ているだけだが、何とも言えずムカついてくる。
私の心が狭い?
「あ、あなたが!」
ついに、犯人の美術の先生が、意味のある言葉を叫んだ。
メーメ様とミルキィ様以外の全員が、犯人の言葉に注目した。隣にいた学院長たちも、開けっぱなしだったドアから姿を見せた。
「あなたが! ミルキィ・ホワイト様! あなたが・・・!」
犯人が名前を呼んだ瞬間、ミルキィ様が犯人をチラ、と見た。あんなにメーメ様に照れていたのに、急に無関心な冷たい顔で。
その様子に、美術教師は震えた。
「あなたの、ために、あなたが、だから、私は・・・!」
ブルブルと震えながら、信じられないものを見せられているように、目を見開いてミルキィ・ホワイト様を見ている犯人。
ミルキィ様は、つまらないものを見たかのように、視線を犯人の美術の先生から逸らせた。
メーメ様に身体を寄せる。不満そうに。
「先生」
と言ったのはメーメ様だ。
「申し訳ない。私の婚約者には悪い癖がある」
メーメ様の言葉に驚いたのはミルキィ様だ。メーメ様の表情を確認しようとし、顔を歪ませた。
「酷い、メーメ様・・・」
相変わらずものすごく可愛い声。そして、悲劇のヒロインそのままに両手で顔を覆った。劇を見ているかのように美しい姿だ。
犯人の先生は、憎々し気にメーメ様を睨んでいる。
「この通り、彼女は私を愛してくれている。だが、一方で、他の男からの愛情も欲しがる」
「・・・なんだと」
犯人の言葉は、小さくて乾いていた。
「ただ、彼女の愛は私にだけ与えられる。つまり、他の男からの愛や犠牲を好むが、見返りは一切渡さない。自分に都合が悪くなると切り捨てる」
「・・・馬鹿な」
犯人が呟く。信じたくない様子だけど、目の前のメーメ様とミルキィ様の様子に信じざるを得ないみたいだ。
「私はこんな彼女を愛しく思う。が、一般的には、彼女は悪女と呼ばれるように思う」
「!!」
ミルキィ様が顔を上げた。両目からは間違いなく涙が流れている。
そしてポコポコとメーメ様を叩きだした。
もちろん、メーメ様には何のダメージにもならないような、そんな動きで。
「ミルキィ」
今度こそ本心から困った様子で、メーメ・ヤギィ様が、未だに抱きかかえているミルキィ様に声をかけた。
「私は、愛人は認めないと言っただろう? 私は確かに一人の時間を好み、きみに寂しい思いをさせてしまう。だがきみだって絵を描き造形を好んでいる。そこは理解してくれているはず」
メーメ様に、コクコク、と泣きながら頷くミルキィ様。
うーん。
ミルキィ様、私より年上の良い年齢なのだから、言葉でちゃんと返事すれば良いのに・・・。
と思う私は、恋人のいちゃつきに寛容では無いんだろうか。
メーメ様が話を続けている。
「だから、これ以上、周囲の男をたぶらかすのを止めてくれないか。何かあるなら私を頼れ」
「たぶらかすなんてこと、していませんわ・・・」
「この状態を見ろ。間違いなくきみのせいだ。・・・先生、申し訳ないが、全て話してもらいたい。彼女はこんな性格で、自分からは非を認めない。だが彼女にも行動を改めてもらわなくては」
「・・・」
どこか茫然としたように、メーメ様とミルキィ様を見つめ続ける犯人。
「アレン・オルトパス」
と、取り調べる側の先生が声をかけた。
犯人である美術の先生が、項垂れるように俯き、それから一度顔を上げた。
「あなたは・・・私を利用したのですか?」
ミルキィ様はふと、とても冷たい視線を犯人に向けた。
***
メーメ様とミルキィ様は、学院長室の方に移動された。
私とルティアさんはそのまま残った。
犯人の美術の先生が自白を始めたからだ。
犯人は泣いている。
やっぱりミルキィ様に惚れていたらしい。
ミルキィ様の沈む様子に親身に相談に乗ってみれば、『婚約者のメーメ様が、平民の子に親しくて不安だ、メーメ様は本が好きな人で、あまり自分から他の人に関わらない。そのメーメ様が、自分との会話にもその平民について話す、心が移っているとしか思えなくて』と泣かれたという。
話すのが苦手らしくほとんど話をする事のないミルキィ様が、自分に心を開き、涙を見せた。
美術の先生は衝撃を受けた。
励ました。
ミルキィ様の涙の原因を無くしたかった。
親身に相談に乗り励ますうちに、ミルキィ様は次第に元気になり、微笑んでくれた。未だに涙を残したままで。
そして。具体的な手段が思いつかず困っていた先生に、ミルキィ様は、白い封筒の束をそっと渡してきた。
死ぬような呪いでは無い。
ただ、その子が学院に二度とこないようにする呪い。
手慰みで、ミルキィ様が作ってしまったものだという。その子が来なければ良いのに、と、つい。
先生はまた涙をみせるミルキィ様に衝撃を受け、この封筒を使えば良いのだと理解した。
毎日、朝早くに教室をチェックするふりをして、その子の椅子などに呪いを仕込み出した。
白状しながら、先生はひたすら、ミルキィ様を思って泣いていた。




