45.一人で過ごす日々、メーメ様、連絡
翌日も、ルティアさんがいてくれつつ、一人状態。
さらに翌日も。
休憩時間は勉強をして、昼はルティアさんと食堂へ。それから図書館へ。
今日は言語の勉強をしてから、お守り作りをする。
***
コツコツ
机が指で叩かれた音に顔を上げると、メーメ・ヤギィ様が立っておられた。
「あ」
驚いて声を上げて、慌てて立ち上がろうとする前に、メーメ様の手が伸びてきて、ポンポン、と私の頭を叩くように撫でた。
え・・・。
キョトン、と見上げる。
メーメ様が穏やかに私を見て笑んでいる。
「よく頑張ってるな」
「あ、りがとうございます・・・」
視界の端、ルティアさんがそっと近づいてきた。メーメ様を警戒しているみたいだ。
「回復か? 困難排除?」
「え?」
メーメ様の視線、私の手元だ。つまりお守りについて尋ねておられる。
「健康祈願で、怪我が早く治りますようにって・・・」
メーメ様が肩をすくめた。
「なかなか。そういう姿は見て惹かれる」
はぁ・・・。
私は不思議にメーメ様を見上げたままだ。
「慣れている?」
「お守り作りの事ですか?」
「そうだ」
「いいえ。これが、初めてで・・・メーメ様は作った事ありますか?」
これで良いのか見てもらえるかな、とふと思った。
「いいや。作り方は知っているが、私は作らない。効果がつかない」
「そうなんですか?」
「ケセランは、白系統だろう」
「はい」
たぶん。
「そうだとばれる行動はしない方が良いぞ」
え?
「古代は、白系統の娘は生贄に捧げられたり、神殿に聖女として君臨し、国をまとめた娘も出た。つまり特徴的だ」
「い、いけにえ・・・?」
「昔の事だが。今では、神殿や呪いに関わりやすい珍しい系統という程度だな。安心すれば良い」
「安心・・・」
不安に単語を復唱する私を見て、メーメ様はおかしそうに、プッと吹き出すように笑った。
「そこまで間に受けるとは。新鮮だ。悪かったね」
「・・・」
困ってメーメ様を見上げる。からかったの?
メーメ様は楽しそうに笑ってから、
「勉強の進み具合はどうだ? 助けてあげようか?」
「あ・・・。言語の、ヴルティスカ表記とトマニクス表記の差で混乱しています」
最近の授業で分からなかったことを聞いてみた。
「あぁ。簡単な事だ。『ミディア戦記』の第2章の序文を読むと良い。あの本は、戦記としては二流だが、序文が最高峰だ」
「『ミディア戦記』・・・はい。そうします。有難うございます」
「この後すぐに読むんだぞ」
「はい」
メーメ様が立ち去った。
『すぐに読むんだぞ』と言われたので、アドバイスを求めた身として、机に広げたお守りセットはルティアさんに見守っていてもらい、本を探して、読んでみた。
うん。私の知りたいことがサラッと分かりやすい具体例で書いてあった。
感激。
メーメ様にまたお会いできたら、御礼をちゃんと申し上げなくちゃ。
ちなみに、戦記としては二流だとか言っておられたこの本、剣と魔法の冒険譚みたいだ。
この世界には、一応魔法がある。
だけど、世界で数人しか使えないんだって。
精霊がいるこの世界、精霊たちが心から気に入った人に力を貸す。そして、大きな精霊が力を貸す場合、魔法が使える。という仕組み。
滅多にそんな事起こらないので、みんな逆に魔法使いに憧れたりする。
だから、魔法を使った冒険の話とかは結構人気だ。
とはいえ、こんな分厚い本、全部読むのは時間がかかるし、私はお守りを作ることを優先したい。
だから、序文だけ読んでみようっと。
序文はメーメ様も褒めるぐらい良いみたいだし。
***
翌日。
登校すると、ルティアさんがすでにおられて、私を待っていた。
「少しだけお待ちください。呪いがお机に・・・」
「!」
ここ数日、無かったのに。
急に不安になった。
ルティアさんが励ますように言った。
「これからは、私たちが来るまでは、廊下でお待ちいただけますか? 私たちがチェックするのを待っていただきたいのです」
「はい」
「必ず、お守りいたしますから」
「ありがとうございます」
頷く事しかできない。
怖い。
***
ここ毎日、夜にトラン様から連絡がある。
どちらかというと、どうでもいいような、ランチとか今日の授業はどうだったとか、そんな話をしていたけれど、今日は違った。
トラン様はすぐにこう言った。
『呪い、また仕込まれていたそうだな。もう少し頑張ってくれ。今日、護衛が、犯人らしき者を見ていたんだ』
「え」
『言い逃れできないように、今日は泳がせて、護衛が犯人候補を見張っている。早くて明日には解決できるだろう。・・・だから、気をしっかり持っていて欲しい』
「ありがとうございます・・・」
『ごめん。不安だろう。会えればと思うが、今は少し・・・会えない』
「はい」
大変そうだものね、トラン様・・・。
『無事でいてほしい。危ない事をしないでくれ』
「はい。でも、呪い以外は、最近とても静かですよ?」




