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41.寮の自室

午後の授業も終わり、早々に寮の自室に帰る。


ルティアさんが心配して、しばらく一緒にいてくれることになった。

遅くなったらルティアさんの方が心配では、と思ったけれど、実は部屋の外に他の人も待機していて、その人と一緒に帰るから大丈夫だとの事。

その人も部屋の中の方が良いのでは? ずっと外で待機って大変じゃないのかな。

と思ったけど、男性なので、通常時に女性の寮の中に入るのは不味いだろう、との事だ。


***


ルティアさんがおられるけど、黙々とお守りを作る作業をしている私。

ルティアさんが声をかけてくれて、どこからか用意してきたお茶とお菓子を出してくれた。


あるじのために一生懸命作って下さること有難く思いますが、あまり根を詰めると疲れてしまいますわ」

「早い方が良いと思って・・・」

「ご無理をなさいませんように」

「ありがとうございます」


「それにしても、こんな細かな手順で作られていたのですね。作り方は初めて拝見いたします」

とルティアさん。作成キットに興味があるようだ。

「はい。私も、初めてです。そもそも、呪いなんて単なる嫌がらせだと思っていたので、本当に影響があるなんて驚きでした」

「恐らく、作成できる人は限られているのですわ。この手順で呪いができるなら、もっと知られているはずですもの」

「そうでしょうか・・・」

「えぇ。いつ頃出来上がりそうですか?」

「分かりません。まだ、始まったばかり、という状態です」

「本当に手間がかかりますわね」


ルティアさんと、ポツポツとそんな話をしながら過ごす。

そして、夜になってトラン様のところに帰って行かれた。


***


『あ。申し訳ない。・・・メッセージでも、と思ったんだ。・・・今、大丈夫だったか』


通信アイテムが震えたのにはすぐに気が付いた。

すぐに取り上げると、トラン様の声がした。気のせいか、落ち込んでいるような声に聞こえた。


「大丈夫です。・・・今日、ルティアさんにとても親切にしてもらいました」

『そうか。きみがお守りを作ってくれていると、聞いた。ありがとう』

「いいえ・・・」

『とても手間がかかるものらしいな。負担になってないか? 大丈夫か』

「大丈夫です。これぐらいしか、お返しできないし、できることがあるの、嬉しいですし」

『そうか・・・』

「はい・・・」


やっぱり気のせいじゃなくて、落ち込んでいる。トラン様だけじゃなくて、私もだ。

私は、単純にスミレ様とミカン様に何かあったことで動揺して不安になっているだけだ。

だけどトラン様は、多分もっと大変なことになっているような気がする。


「あの」

『うん』

「今日、学院で、大変な事があったって、その、トラン様は、大丈夫ですか?」

『俺か?』

「はい」

『俺は・・・うん』

「・・・」

『・・・うん・・・』


困っておられるようだ。元気もやっぱりない。

話題を変えた方が良いのかもしれない。


「今、お部屋ですか?」

『あぁ。そうだ』

「いつもトラン様って、お部屋でどう過ごしてるんですか?」

『ん?』

「えっと、本を読んでたり? えっと、お勉強ですか?」

少しトラン様が笑った声がした。


『俺、そこまで勉強熱心じゃないぞ』

「そうなんですか」

『あぁ。ジェイとぐだぐだ遊んでる』

「遊んでるんですか!」

驚いたのでちょっと元気な声が出た。

はは、とトラン様がまた笑った。


『俺、いかに手を抜いて遊ぶかを念頭に生きてる』

「嘘。本当ですか?」

『嘘。そう言う事にしとこう』

「え? 嘘、本当?」

『ははは』


真面目に混乱する。だけどトラン様が楽しそうに笑う声が聞けてホッとする。


『きみは? いつもどうしてる?』

「いつもですか?」

『うん』

優し気な声で嬉しくなる。好きだという自分の気持ちがまた強くなった。


「いつもは、ご飯食べて、次の日の準備をして、それから実はちょっと内職していて、石を磨いています」

『ん? なんだそれは』

「学院に来る前にもやってたんです。今は弟と妹がやらせてもらっているはずだけど、私も分けてもらっていて、家に帰った時に一緒に持って帰っておじさんに買ってもらう予定です。数は少ないけどその分きれいに磨くつもりで」

『・・・それ、お守り作っていたらその石はできなくないか?』

「大丈夫です。いつでもいいからっていうので借りている石なんです。丁寧にきれいなものができた方が良いから焦らないっておじさんも言ってくれているので」

『そうか・・・。手先が器用なんだな』

「平民としては普通だと思います。でも器用だったら良いなと思います」

『そうか』

ふふ、と笑う。こちらが笑ったのが伝わっていれば良いな。


そのまま少し無言になった。

話題。次の話題。


やっぱりトラン様は元気が無い。

今まで、こんなにとりとめのない会話をすることはなかった。いつもちゃんと用件があったのだ。


大丈夫ですか、とまた言うのは駄目。

明るい話題・・・。


今日の食堂のランチはなんとイカスミパスタでしたよ。


手をけがしていてフォークが使えないトラン様にパスタの話題は相応しくない・・・? 食べたくなっても今は食べられないから。

じゃあ・・・。


『今日何があったか、きみ、知ってるか?』

と、トラン様が言った。

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