04.ポニー様とスミレ様
ちなみに、ポニー・ウゥーマ様は、私と同じクラスの攻略対象者。
気さくな笑顔でよく声をかけて来てくださる。
入学したての時は、チャイムが鳴ったらどうすれば良いのか、さえよく分かっていない状態の私を優しくフォローしてくださった。
で。放課後も、学院の事を親切に教えてくださっていたところに現れたのがスミレ・ヴァイオレット様だ。
私を見るなり睨みつけ、ポニー様に「私を放っておいてこれはどういうおつもりなのでしょうか? 庭師でさえ花の手入れを怠ればどうなるか知っている事でしょうに」
と静かながら怒るので、初対面ながら私は恐ろしさを感じた。
貴族の人たちの多くには、婚約者がいて、だから異性同士で仲良く話すだけで誤解されるから止めるべきらしい。
知らなかったことは申し訳なく思うけど、初対面でいきなりその態度で、正直ドン引いた。
スミレ様を宥めながら、私に振り返って『ごめんね。また明日』と小声で言ってくださったポニー様に、迷惑はあまりかけたくないな、と思ったものだ。
とはいえやはり同じクラスにいるので、交流はある。声をかけてくださるのだし、気を遣って無視ってその方が常識が無いと思うのだ。
だけど、『次の教室はどこ』といったレベルの会話だけで現れるスミレ様。
最近、ポニー様が嫌気が差してきている気がする。スミレ様は気づいていないけど・・・。
そのスミレ様、別にポニー様が好き、という風にも見えない。むしろポニー様より自分の方が偉い、敬われるべき、と思っているのが分かる態度だ。
見た目は可愛いんだけどなぁ・・・。大人しそうだけど性格キツイなぁ、と思う。
さて今。
おはようございます、とポニー様に挨拶を返した私の言葉を遮るようにスミレ様が非難の声を上げた。
「わざわざお声をかけにこられましたの? 平民風情に直々に声をかけるなんて。品位が問われますのに。お気づきではありませんの?」
え、スミレ様こそ平民の私に声をかけてきたよね・・・。
と思うけど、口を出すとややこしくなるとすでに学習済みなので黙っている。
ポニー様が苦笑した。
「きみと、キャラちゃんの二人がいるから挨拶に声をかけただけなんだけどなぁ」
「あら、おかしなことを。私への挨拶は当然ですわ。けれど不要な愛想は振りまく必要ありませんのに。どうして自ら平民とお言葉を交わされるのでしょう」
スミレ様が、儚い雰囲気のままながら、結構な毒を吐いている。
どうしよう。
先にスミレ様と話しているところにポニー様が参加するのだけでも怒られるのか・・・。
一方、ポニー様はふと私に視線を向けた。
そしてあろうことか、私との会話を優先させた。
「鞄どうしたの?」
濡れたあとに気が付かれたようだ。
「えっと、水に濡れてしまって・・・」
「雨なんか降って無かったよね? 何かあった?」
「そんなことどうでも良いではありませんか!」
スミレ様がカッと顔を赤らめて声を上げた。
私に心配そうな様子を見せたポニー様は、口を閉じてスッと表情を消してスミレ様を見た。
「私自ら注意して差し上げたことです! ポニー様はこの人に関わろうとなさいませんように!」
ち、注意?
あ、来なければ良いのに、っていうあのお言葉の事・・・。
「きみは」
ポニー様が真顔でスミレ様を見ている。いつもの気さくで優しい雰囲気が消えている。
「いつも僕に、声をかけるなと注意をしてくるね」
「何度もお伝えしますのに、理解されませんのね。どういうことでしょう」
とスミレ様が刺々しい。
「きみは、身分の違いにこだわらずに人柄を見る努力をすべきだよ。それに挨拶やただの連絡事項にまで口を出さないでくれないか。僕は様々な人と交流したい。きみは僕の邪魔をするの?」
「不要な人との交流は時間の無駄だと、どうしてお分かりになりませんの?」
「ねぇ、きみはどうして僕にそんなにこだわるのかな」
「あら。私たちの間には婚約関係がございます。お忘れになりましたの? おかしなお言葉ですこと」
うう。この場から去りたい。切実に。
とても止める度胸ないし、去るの失敗しそうで動けない。
「きみは、僕の交友関係に口を出すの。僕はきみにそんな注意したことはないのに」
「私、ご指摘を受けるような行いをした覚えはございません」
「そうかな。じゃあ、今言おうか?」
「・・・!」
スミレ様がブルッと震え、顔をサァッと青くした。
そして、いきなり無言でこの場を去っていってしまった。
え・・・。
ど、どうしよう・・・。大丈夫、かな・・・。
そして気まずい。
「気を使わせてごめんね」
とポニー様。
返事に困る私を察して、ポニー様は苦笑した。
「キャラちゃんのそういうところ、安心だよ」