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39.スミレ・ヴァイオレット嬢に降りかかる災難

※R15

※他者視点のため、読み飛ばし可能です。ただ、実際何があったか、ハッキリしないところは出ます。

その日。

スミレ・ヴァイオレットはいつも通りに学院に向かった。

自分の教室がある棟に向かう。途中に友人たちに出会い、挨拶をするのも普段通り。

使用人が先導する。道を歩く。


リーン、

と、小さな可愛らしい鈴の音に、何だろうと耳を澄ませた。

後ろから呼ばれた気がして、足を止めて振り返る。


振り返った視線の先。

オレンジ色のドレス。校舎を入ったところ。背中側からの光に、こちらに向ける表情は暗くて見えない。


シン、と世界が息を潜めたように静まっている事に気が付いた。

慌てて周囲を見回す。

使用人が一人もいない。他にいた生徒も誰もいない。


慌てた。


コツ、コツ、コツ


近づいてくる足音に、スミレ・ヴァイオレットは視線を戻す。


これはどういうことでしょうか。

そう尋ねたいのに、怖くてとても口に出ない。


近づいてきて、次第に表情が確認できる。

彼女は、笑っていた。獲物を捕らえるネコのような、意地悪な満面の笑み。


ミカン・オレンジ嬢。

暴力が原因で、つい先日、トラン・ネーコ様との婚約が無くなった。1つ年上の、オレンジ家のご令嬢。


「な、何か」

己を奮い立たせようと発した声は、震えてしまった。


「馬鹿なの? 弱い子アピール? あんたが酷い事して私にケンカ売ったんでしょ。買い取りにきてあげたわ。本当、酷い女よね」

「買い取り・・・? 私、ミカン様に何かをした覚えはございません・・・!」


「嘘つき。あんた、顔がキレイだからって、調子乗りすぎなのよ。本当嫌な女。だから皆に嫌われるのよ。顔が良いって、得よねぇ。それだけで男は騙されちゃって。あーあ。馬鹿な男もうんざりだけど、そのいかにも高嶺の花してますって態度、鼻につくったらないわ。根っこは腐っててどうしようもないわね。みんな気づいてるのよ。顔は取り柄だけど、中身が酷い、って」


突然向けられた悪意に、身体が動かなくなる。

嘘。そんな事知らない、嘘だわ。

皆私に声をかけて欲しくて待っているもの。私は皆に優しいもの。感謝だってされている。


「う、嘘です」

「ふん。泣けばすむって思ってる女大嫌い。顔で全て許されてきた女って最悪ね」


何をされるのかと恐怖で身体が震えてきた。絶対、泣くものか。


ミカン・オレンジ嬢は話しながら、憎々し気にスミレを睨んだ。

誰かにこんな視線を向けられた事など、一度だってなかった。


バチン!

急に左頬に衝撃を受けて、スミレは倒れた。壁に肩がぶつかる。

一瞬視界が白く飛んだ。左頬が痛い。手で押さえた。じんじんと痛みが強くなってくる。


震えが止まらない。何が起こったか分からない。

なに?


ぐぃ、と腕を捕まれる。

「きゃ!」

「可愛い声ですことね!」


バシッと、今度は逆の頬を殴られた。


痛い。血の味がした。

温かいものが垂れる感覚に鼻を抑えた。ぬるりと血がついた。

「あ。あ、あ・・・」

涙と恐怖が込み上げてきた。


「鼻血くらいで死ぬわけないでしょ。馬鹿が。ほら。あやまんなさいよ、私に! あんた、トランに色目使ったんでしょ! あんたトランなんて好みだったの? あんな無愛想なのが! ははっ、趣味すごい悪いー! 良いのよ別に、あんたが好きだろうがそんなの関係ないわよ、でもさぁ」

「!」

肩に足がかかる。肩を踏まれている。

涙で濁る視界に、それでも見上げる。

「どうして、私、そんなこと、」

「色目使ってさぁ。トランその気にさせて、婚約解消させたんでしょ?」

体重が乗せられる。痛い。

「やめて、そんなこと、して、ません・・・! わたし、そんなこと、」


「誤解しないで? 私トランなんて好きじゃないしむしろ願い下げよ? でもね、捨てるのは私からだったのよ。屈辱よ。スミレ・ヴァイオレット様? あんたがたぶらかしたから!」

肩に載せていた足でドッと蹴られた。


助けて、誰か

震えが止められない。声が出てこない。


「みっともないわあ。鼻血でご自慢の顔が台無しね。この顔皆に見せてやりたいわね。きったないわ。一番汚いのは根性っていうのは、手の施しよう無いわね?」

「ぁ、ぅぅう」

「泣けばいいって思ってんの? ねぇ、花さえ憂いため息をつく深窓のご令嬢スミレ様。私ね、心が痛いのよ。皆があなたを嫌いってこと、本当だと伝えないといけないから」

「ひぃ、う、」

「ほら見てごらんなさい」


ミカン・オレンジ嬢は、ポケットから白い封筒を取り出して、スミレに見せた。


「頼まれたの。あなたが大嫌いって人からよ。懲らしめてあげてって。見る人が見たら、あなたが悪いって分かるのね」

ミカン・オレンジ嬢が楽しそうに眉を下げて見せる。


「顔だしなさい」

「い、いや、いや、」

「うるさい」

腕を掴まれて、後ろ手に捻り上げられた。うつ伏せの態勢、上にミカン・オレンジ嬢が馬乗りになっている。

「やめて、誰か、誰か助けて、助けて!」


「相応しい罰だって。丁度鼻血出してて良かったわね」

楽しそうな声のあと、顔を何か紙のようなもので覆われた。


抑えつけられる。

苦しい。助けて、助けて・・・!


ブン、と羽虫が近くで羽ばたいたような音がした。

「よし。ふ、ふふふ」


紙が顔から離される。


なに。何をされたの。


「可哀想。自分の事、人より美人だって思ってれば思ってるほど、不細工になる呪いだって。まぁ、あなたが自分の事綺麗じゃないって思ってたら効かないけど。どうせ人より美人って思ってるんですものね」


背中の重みが消える。ミカン・オレンジ嬢が立ち上がったからだ。


「じゃあね。もう二度と学院来ない方が良いんじゃない? 不細工に呪われた顔、皆が見るもの。あー可哀そう。ざまあみなさい。当然の報いよ」


いつのまにか。

周囲に、人のざわめきが戻っていた。

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