38.お守り作り。登校時
夕食は、ルティアさんが用意してくれて、帰って行かれた。
いつもは学院で食べてから帰ったり、寮の管理者の人が何か分けてくれたり、町で何か買ったりしている。
さて。お守りに取り掛かろう。
初めに、女神さまにお手紙を書くところから始まる。次はそれをビーズで縁取る。
全部白い色のビーズで、白い糸。丁寧で細かい方が力が強くなると書いてあるので、一つずつゆっくり丁寧に。今は、ビーズで縁取りをしているところ。
早く完成させたいし、一方で効果が出て欲しいし。
つまり、コツコツと時間をかけるのが正解なんだろう。
今日はあまりお守り作りができなかった。ポニー様にも事情を話して、休憩時間はできるだけ、これを作る事に専念しようかな。
いつもより1時間ほど遅くまで起きて、作っていた。
***
ちょっと眠い。だけど今日も頑張ろう。
授業は7:10から。この世界って、朝が早い。
急いで朝ごはんを、と思って扉を開けて驚いた。廊下の壁に、大きな傷が横に入っていた。
うわぁ・・・。
自室に鍵をかけてから、朝ご飯を貰いに行く。
「廊下、どうしたんですか?」
「あぁ。部屋の模様替えするって言って家具を動かした人がいるんだけどね。上から落としちゃったみたいでねぇ」
「横にキズがついていますよ」
「あぁ。落として一度端に寄せるって話だったんだけどね。あそこでひっかかって動かせなくなっちゃって。こっちも困るから、旦那とバラして外に出したよ。そうでなきゃ、あんた、部屋から出れなかったよ」
「それは・・・そうなったらとても困りました」
「くれぐれも頼むって言われてるからねぇ・・・ちゃんと私たちも役に立ってるって伝えといておくれよ」
などと管理人のおばさんは言った。
「トラン・ネーコ様?」
「そう。ネーコ家だよ」
「はい・・・」
そっか・・・。
知らないところで、手を回してくださってたんだ・・・。
***
普段より遅くなって、授業にギリギリ間に合う時間に登校した。
あれ? なんだか騒がしい。
いつもはどこかにそっと隠れてる感じの使用人の人たちがバタバタ動いている。そのせいで、いつもより人が多く感じられる。
何かあったみたいだ。
「キャラ・パール!」
突然、知らない使用人の人に名前を呼ばれた。
「は、はい」
誰だろう? 使用人の人なのは間違いない。
「お嬢様を、見なかったか! 会ってないか!」
「どなたですか?」
「私の名前なんて今、」
「いえ、お嬢様というのは、どなたですか」
「・・・チッ! スミレ・ヴァイオレット様だ!」
「お会いしてません・・・」
答えを聞くと、その人はまた走り去っていった。
一時私たちのやり取りを聞くために足を止めていた人たちも、慌ててまた動き出す。
スミレ様に何かあったみたいだ。
なんだろう。
急いで教室に向かうと、皆がいた。
ポニー様を見る。目が合ったけど、ポニー様の顔色が悪い。
どうしたのか聞こうとして、先にポニー様が教えてくれる。
「呪いは今日は無かったよ」
「ありがとうございます。それより、スミレ・・・」
そう言ったところで、授業開始を知らせるベルが鳴る。
「姿が急に見えなくなったって」
青い顔をしながら、ポニー様が教えてくれた。
教室がざわついている。
「探しに行った方が良い、だけど・・・」
ポニー様は独り言みたいにしながら、不安そうに廊下を見る。
先生が入ってきた。
「座れ。皆、座りなさい」
「先生。僕、欠席にします。急用が」
ポニー様は立ったままで先生に告げた。
「・・・気がかりなのは分かりますが、すでに大勢が出ています。任せるべきでしょう。けれど私の意見よりも自分の意志が強いのなら止める術はありません」
「・・・気分が優れません。欠席します」
「はい。お気をつけて」
ポニー様が教室を出て行く。
他の人たちもざわついている。
「授業を始めます」
先生も硬い表情をしている。何かあった。何か今起こっている?
だけど説明は無い。
普通に授業がスタートする。
結局、ポニー様以外、誰も席を立たなかった。




