32.モモ様
え、えーと。
当事者のはずなのに、あまりの事に状況についていけなくて置いてきぼり感が。
慌てて私も立ち上がり、モモ様を見た。
「なんでしょう・・・?」
と間抜けにもそんな質問をしてしまった。
だけど心当たりがしっかりある。テニス部だ。
うん。モモ様から嫌がらせがあるだろうとは予想してた。
でもこの件に関して、嫌がらせ受けるのはちょっと仕方ないと思っていた。
モモ様は本当にレオ様の事が好きらしいから、レオ様が私にテニスを教えたら嫌だろうな、って。
「あの、もしテニスのことでしたら、本当に申し訳ありません。テニスをしてみたくて、トラン・ネーコ様がレオ・ライオン様に頼んで下さったんです。だからレオ・ライオン様に大変お世話になりました。ただ、決して、仲良くお話した、なんて状況ではなかったです・・・。厳しかったぐらいでした」
「違うわよ! それも嫌だけど!」
とモモ様が私に向かって怒った。
「部活じゃないのなら、何でしょうか?」
それ以外なら思いつかない。レオ様と他に接触したことあったかな。
「あなたのせいで! 私まで、婚約を破棄されるのよ!」
「え?」
「え?」
モモ様の叫んだ声に、私とポニー様が同じ驚きの声を上げた。
クラスの人たちも、ギョッとしている。
「あなたのせいで!」
モモ様が泣きそうになりつつも、また右手を上げた。
「止めて。モモ・ピンクー嬢。落ち着いて。話を聞くから」
ポニー様がその手を降ろさせようと、再びそっと手首をつかみなおした。
「ポニー様だって、悪いんですのよ!」
「え、僕も? どうして」
「ふ、う、わあああああああ・・・・っ!」
急にモモ・ピンクー嬢が泣きだした。
顔を覆ってしゃがみ込む。なお、ポニー様はとっさに右手の自由を返してあげている。
私とポニー様で顔を見合わせる。
二人で、よく分からない、と首を傾げ、ふるふると首を横に振る。
「キャラちゃん、養護室行こう。頬が赤いよ」
「はい・・・」
チラ、と互いに、しゃがんで泣いているモモ様を見やる。頷き合う。
「モモ・ピンクー嬢。きみも行こう。ここだと、全員が話を聞いてしまうよ。キャラちゃんの手当てに養護室に行くから、一緒に行こう」
「ひ、う、ぅう、ぅう、ぅ」
「困ったな。モモ・ピンクー嬢の使用人、誰か出てきてくれないかな。彼女を養護室に連れていきたい。その方がきみたちの主人のために良いと思うよ」
ポニー様が周囲を探すようにそう言うと、廊下にいたらしい女性が頭を下げて入ってきた。
「い、いやよ、いや」
「お嬢様・・・ここは人目につきますわ。参りましょう?」
「ふぇええええ・・・」
「行こうか・・・」
「はい」
「ほら、モモ・ピンクー嬢も」
ポニー様に促されて、周囲の注目を浴びながら、養護室に移動した。
***
養護室。正直、個人的にはあまりここに来たくない。印象が悪い。
氷を貰うような事態が発生した時に来る場所だから。
ルティアさんもついてきてくれ、私に氷を渡してくれたので、それで頬を冷やしつつ、今、改めてポニー様、モモ様、私、という状態で座っている。
養護室の先生? さぁ・・・。どこにいるんでしょうね。
「モモ・ピンクー様。その、婚約を破棄と言われましたが、私、テニス部以外でレオ様とかかわりが無くて。どういうことか、分からないのですが」
と私はモモ様に尋ねた。
モモ様は少し落ち着いて、ハンカチを握りしめて俯いている。
ポニー様が困った顔をしてモモ様を見つめている。
「僕はいない方が良い? だけど、きみ、すぐキャラちゃんに攻撃するから・・・。やってること酷いからね?」
「う、ぅううう・・・」
ポニー様の言葉に、何かを刺激されたらしくて、また泣きだすモモ様。
「私への嫌がらせが原因で、婚約破棄されたのでしょうか?」
「あぁ。そっか・・・」
「まだ破棄されてないわよ! そうじゃないわ!」
「じゃあどうして?」
とすかさず促したのはポニー様。
モモ様は震えつつ、何とか抑えて私をキッと見た。
「レ、レオ様が! お互い新しい可能性に目を向けるべきだって、言い出されて!」
ん? ちょっと話が読めないので首を傾げた。
一方のポニー様、少し驚かれたようだ。顔が少し引きつった。
「私は、レオ様が良いとお伝えしたのに、今は変革の時期だとかおっしゃって!」
「変革・・・?」
と呟く。変革の時期って何?
ポニー様は眉を下げた。
「話が分かった。だけど、それでキャラちゃんを叩きに来た理由にはならないよ」
え、話が分かったの? 私には分かりません。
「だって! この人がいなかったら、皆様婚約解消なんてされなかったはずです! トラン・ネーコ様とミカン・オレンジ様、ポニー・ウゥーマ様とスミレ・ヴァイオレット様、お2組が婚約を解消されたから! レオ様も、見つめ直す時だっておっしゃるんです! 皆様が婚約を解消されるから!」
「だけど、キャラちゃんを叩くのは違う」
「この人がいたからですわ! お2組はこの人が原因で婚約を解消されたじゃないですか! この人のせいです!」




