31.ポニー様の憂いと、襲撃と
「皆が、遠慮して、あんまり話しかけられないんだ。でも僕はそういうの寂しいと思う性格みたいで。レオみたいな性格だったら良かったのにと思うんだけど」
と、ポニー様はぼんやりと笑う。
一つ下のクラスのレオ・ライオン様は、確かに一人で強くやれそうなイメージ。やっぱりライオン。
「学院はすこし、身分が緩くなるって聞いてて、期待してたんだ。だけど、やっぱりみんな線を引いてるのが分かる。口調も、本当は直しなさいって怒られてるんだけど、いろんな人に話しかけて欲しくて、優しく柔らかくなるように工夫してる」
「努力だったんですね」
「うん。そうだよ。・・・ところで、どうしてキャラちゃんは、席に来たのに座らないのかな。僕が話し続けてるせい?」
「あ。いいえ。それもありますが、椅子の裏に呪いが貼ってあって・・・」
言った瞬間、ポニー様は弱い笑顔だったのが急に怖い顔になり、バッとしゃがんで椅子の座面の裏を見た。
「もう誰だ! ホムラ、解呪を!」
普段になく苛立ったポニー様が、使用人の人を呼んだ。
シュタッ、と忍者のように現れるホムラさん。
キュキュ、と白い手袋を右手、黒い手袋を左手に嵌めて、ペリ、と椅子の裏から呪いの封筒を剥がしてくれた。
ついでに、足元からスプレーを取り出し、シュッとひとかけ。
モゴモゴモゴ、と何かを呟く。
それからホムラさんは封筒を折りたたみ、礼をした。
「撤去完了しました。燃やしますか」
「うん。適切に処理をお願い。いつもありがとう」
「坊ちゃんは下々にお優しい。落ち込むのもまた優しさです」
「やめて、キャラちゃんの前でそういう事言うの」
「ははは」
ホムラさんは楽しそうに姿を消した。
最後のホムラさんとポニー様のやり取りに、少し目を逸らせた私。いや、聞いちゃいけないのかなと、ポニー様の返答に思ったわけです。
「ホムラ、時々僕をからかうんだ」
「良い人ですね」
「・・・うん。得難いと思ってる」
ポニー様が少し嬉しそうに笑うので、私も少し嬉しくなった。
「ポニー様が同じクラスで本当に良かったです。すごく親切だし、話しやすくて、ポニー様がおられて嬉しいです」
「・・・ありがとう」
ポニー様は少し照れたようで目を細めて私を見た。
「僕も、こんな風に親しく話をしてくれるキャラちゃんと、友達になれて嬉しい」
「ポニー様は、話しかけやすいから、どんな人とだって仲良くなれると思います。町のパン屋のおばさんともすぐに仲良くなれますよ!」
私が力説すると、ポニー様は少し目を丸くして、それから楽しそうに笑い声を上げた。
「あはははは、そうかな」
「そうですよ。ポニー様、絶対人気です。平民を代表して私が断言できます! あ、平民でポニー様を悪くいう人がいたら、私が怒りに行きます!!」
「あは、ははは。そっか。そうか。頼もしい、うん、嬉しいよ。ありがとう。ねぇ、感謝にきみに抱き付いて良い?」
「え。それはちょっと・・・」
恥ずかしいというか・・・。
慌てて付け足す。
「ポニー様が女の子だったらウェルカムでした」
「そっか。うん。正しい判断だよね」
笑って涙が出てきたらしい。ポニー様は涙をぬぐいながら、楽しそうに笑っていた。
***
さて。次の休み時間だ。
教室は変わらないので、お守りを作ろうかな、と思ったのだけど、ポニー様が来てくださったのでオシャベリをする。
「そっか。キャラちゃん、テニス部に入ったのか。僕も部活、変わろうかな」
「ポニー様も部活してるんですか?」
「うん。陸上。長距離が得意なんだ」
「そういえば、ものすごく走るの早いと思ってました!」
「いつ?」
「えーと、そう、私の鞄が行方不明の時です」
「あぁ。そういえば一緒に走ったね。ごめん、あの時、つい全力疾走してキャラちゃんを何度か置いてきぼりにしたよね」
「いえ、あの時も助けてもらったから感謝しかないです。じゃなくて、早くてすごいと思いました。陸上、良いじゃないですか」
「あ、今度競技があるんだよ。良かったら応援に来てくれる? 今度のは短距離だけど」
「いつですか?」
などという話をしていた時だ。
ガラッ!
ツカツカツカツカツー、パッシーン!
私は瞬いた。
あれ。視界にピンクのドレスが。あれ。右頬が痛い。
あまりの出来事にあっけに取られてしまった私は、ポカーンと椅子に座ったままその人を見上げた。
モモ・ピンクー嬢。
学年1つ下だから、本来の教室、確か、棟が違ったはず。
なぜここに?
あれ、右頬痛い。
シュ、とまたモモ様の右手が動いたのを、ポニー様が掴んで止めた。
「痛!」
「いきなり何だ!」
ポニー様の方が怒っている。
「放してください!」
「ふざけるな、誰がこの状況に放すと思う! 急に入ってきて人に平手打ちってどういう理由だ!」
「どうしてポニー様がここにいるんですの! 私はこの人に用が会って来ただけですわ!」
「きみがここにいる方がおかしいだろ!」
「痛い! お放しくださいませ!」
モモ様の右手首を放して、ポニー様が私とモモ様の間に立つ。にらみ合っている。




