28.部屋とルティアさんとお守りと
寮に到着し、トラン様とは馬車でお別れ。
ルティアさんが部屋までついてきてくれて、厄除けの呪いというものを部屋につけてくれた。
白い封筒には細かい刺繍や細工がついていて、ルティアさんが封筒の中から説明書を取り出し、手順を踏んで折ったり千切ったりしている。
最後に、ルティアさんが私を呼んだ。
「キャラ様の性質があっての呪いなので、最後の手順をお願いいたします。私ではできませんので」
「はい」
言われるままに、中央部分に人差し指と中指を載せる。
「えい」
そう言った途端、封筒が宙に浮き、私たちの頭を超えたところで止まり、そこから広がるように細かくちぎれて見えなくなった。
「成功したようですわ」
とルティアさんが嬉しそうに笑んでくれる。
「良かったですわね。これでお部屋が少し安心になりますわ」
「いろいろ有難うございます。嬉しいです」
「お礼は直接、主にお伝えくださいませ。私は指示を受けただけの事です」
いつもルティアさんはこう言ってくれる。
でも本当に感謝している。
「ルティアさんがいなかったら、私、もう学院行けて無かったと思います。特に、養護室にいた私を見つけてくださった時とか・・・。本当に感謝しています」
ルティアさんに向かって礼をした。
「いいえ」
ルティアさんは穏やかに笑んでいる。
「当然の務めを果たしているだけですわ。でも、お力になれていることを誇りに思います」
「・・・平民なのに、って、申し訳なく思っています。でも本当に有難うございます」
「キャラ・パール様」
クスリ、とルティアさんはいつもの笑みから崩して笑った。
内緒話のように、少し私に顔を近づけた。
「平民とは言いますが、あなたは主が心を砕く方ですわ。そんなに恐縮しないでくださいませ。それから、これは指示を超えて、私個人の意見ですが」
「はい・・・」
なんだろう。ゴクリ、と傍のルティアさんの顔に、真剣に聞き返す。
「私も大変、腹が立っておりますわ。身分の違いを良い事に、随分と色々仕掛けてこられますこと」
え?
私に怒ってる?
え、え? 仕掛ける? 動揺する。
「主の権力をもって、やり返してやりましょう。キャラ・パール様。負けてはなりません」
え。
負けてはなりません、って言ってくれたという事は、私に怒ってるわけではない・・・?
「私がこのように打ち明けたことは秘密ですわ」
口元に人差し指をあてて、目を細めたルティアさん。
コクリ、と頷いた。
数秒経って理解できた。
どうやらルティアさん、私が嫌がらせされてるのを、怒って下さっている。
「女性の味方がいてくださって、心強いです」
「えぇ。ぜひとも勝ちましょう。私の事も、どんどん頼ってくださいませ」
ルティアさんは私に向かって力強く頷いてくれたので、私もしっかり頷き返した。
***
夜、お店で購入した作成キットを取り出して、取り掛かりだした。
裏面に説明書きがあったけど、あれは簡単なもので、中に細かい手順が書いてある紙が入っていた。
それを見ると、お守りって手間がかかっているんだな、なんて思う。
学校にも持って行って、休憩時間もコツコツ頑張ろう。
ちゃんと効果がでるものを作りたい。
せめて。
今の私がトラン様にできる事だ。
一緒に購入したネコの置物もテーブルの上に出した。
やっぱり可愛い。気に入った。
部屋に厄除けをつけてもらったけど、万が一無くなったり壊されていたりしたら絶対に嫌だな。
そうだ。持ち運ぼうかな。
通信アイテムにと貰ったカゴがついてるチェーンが今は余っている。
というのは、通信アイテムの振動に気付きにくかったから、別のタイプのを貰ったのだ。だからカゴの方は余ったのだけど、持っていたら良い、と言われたので手元にある。
ネコ、あのカゴに入るかな。
しまっていた机の引き出しから出して、試してみる。サイズはOK。余裕もある。
ネコがカゴにあたって壊れるのは嫌だから、布でくるんで入れよう。うん。そうしよう。
首から、通信アイテムと、ネコと、二つともかけてみた。
両方が、お守りみたいだ。
両方がトラン様に繋がっている気分。トラン様には言えない。引かれそう。
恋って、叶うと良いなぁ。
ただ、どうやったら叶うものなのか、分からない。




