25.買い物
トラン様の健康祈願とか選ばなきゃ。
いかにもって感じが恥ずかしい、だけどずっとお世話になっている。
今お返しをしなくていつするの、私!! 勇気を出すんだ! 人間として当たり前の御礼的な行動だ!
「あの、健康祈願というか、怪我が早く治るものを、見たいんです」
「あぁ。そっちの棚に色々あるよ。誰かに贈るものかい?」
おばさんは、店の壁の一つを指差した。おばさんの言葉に、コクリと頷く。
「お嬢ちゃんの場合なら、気に入ったものでアタリだから、好きなのを見たら良いよ」
「はい・・・」
気に入ったもので良いって、女神の加護のせい? それって本当にすごい? 実感ないけど・・・。
示された棚に移動。
ん?
私は目を疑った。
お値段が。普通に桁3つ以上予算オーバーしている。
え、普通このお値段なの?
刺繍とか細工とか絵とか一杯ついているから?
どうしよう。とても手が出せない。
私の『跳ね返す』お守りに買った鏡、本当に破格で安かったんだ・・・。
かなりショックを受けつつ、一生懸命に何かないか探す。
あれ。
でも、あったとして、安かったら効果もそれだけ少ないって事?
そんなもの贈られてもこまるよね、トラン様。
どうしよう。
「何か欲しいなら買うぞ」
「あ、いえ。自分で買ってみたくて・・・」
トラン様が、他の棚を見る風を装いながら心配そうにしている。私の考えなどお見通しっぽい。お金がなくて焦っている事も。
うぅ、居たたまれない。だけどこれは自分で買わなくては意味がない。
買えるもの・・・何か買える良い感じのもの、どこー!?
「もうちょっと色々見たいのですが、お時間大丈夫ですか? なんなら、先にお戻りください」
「いや。俺も店に来たのは初めてだから、もう少し見ていく」
明らかに私に付き合ってくださっている。
できる限り急がなくちゃ。
まずは、今いる棚からは一度離れて、店の入り口近くの商品にじっと目を凝らした。
こういうのって、店の入り口側の方が安かったりするんだ。客寄せとかもあるし。
かなり必死で真剣に探していく。
ふと手に取り上げた紙袋。カサリ、と音がした。プラン、と値札がぶら下がって目の前に。
あ。頑張って買える範囲だ。
「作成キット・・・」
裏側に作り方が書いてある。
ある程度の素材が入っていて、パーツをつけたり指示通りに刺繍をしたりしないといけないみたい。自分で用意が必要な材料もあるようだ。
でも、これだ・・・!
むしろこれしかない!! これに期待するしかない! 神様、いえ女神様ありがとう・・・!
ただ、買う前に、お店の人に私でも作れるか確認してみた方がいいよね。
一先ず候補が決まって安心した視界、ふと可愛いものが目に留まった。
浅いトレイに、小さな動物が並んでいる。
ウマにネコにライオンにヤギにネズミにフクロウにシカ。
「・・・」
つい、ネコを取り上げて手のひらに。
トラン様のイメージキャラクターはネコ。『トラン・ネーコ』だしね。
ちら、と店内のリアルのトラン様をまた盗み見る。ちなみに店主のおばさんに話しかけて、どうやら真剣に厄除けを選んでいるトラン様。包帯姿は痛々しい。
ここにいるトラン様は、お名前以外、ネコっぽいところは無い。ゲームのトラン様とは全然違う。
だけど。やっぱり、トラン様っていうと、ネコ。
自分に、買いたいな。可愛いし。
気になるお値段は、信じられないぐらい安い。
うん。買おう。
ただ、ネコを選んだのを知られるのが何だか恥ずかしい。
こっそり買いたい。
***
「おや。珍しいものを見つけたね」
店主のおばさんに渡して急いで会計を狙ってみたが、おばさんはのんびり、私が購入するアイテムについて話し出した。
作成キットだ。
「私にもきちんと作れますか?」
「あぁ、出来たらまず見せにおいで。効果がしっかりついているか見てあげるよ」
「ありがとうございます!」
贈り物なのはもうバレているので、先に言っておこう。
私が振り返ってトラン様を見てみれば、気づいて少し首を傾げてこられた。
「すみません、出来上がるまで、少し待っていてくださいね、健康の・・・」
「ありがとう」
照れたような嬉しそうな笑顔で、心臓がキュゥとなった。
「恋愛成就のお守りも売ってるよ」
「い、良いです」
「そうかい?」
店主のおばさんに、コソッと小さな声でそんな話題をふられて赤面する。
ちょっと気になったけど、今の状況と、あと多分お金的にも、買えませんよ。
「おや・・・こちらも、よく見つけたね」
おばさんは、感心したようにそういった。小さな置物のネコだ。
あっ、今詳しく話題にするのは止めてください!
トラン様に『ネコ』買ったってバレるのが何だかとてつもなく恥ずかしい。
なのに、会話にトラン様が興味を引かれたらしくて、近寄って覗き込んできた。
あぁあああああ゛・・・。




