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20.決裂

「今日中に両親に伝えるつもりだ」

「えぇ。では私もそのようにいたします」


2人とも表情が硬い。いや、この2人だけじゃない。

チラと周囲に視線を向ければ、食堂の皆が静まり返っている。皆息を止めるように動きを止めている気がする。


モモ様に助けを求めようと見た。

だけどモモ様の顔色もすっかり悪くて、ポニー様とスミレ様の様子に釘付けだ。

止めようという様子は見えるけど、発言をためらっている。

モモ様でさえ、口を挟むことができない状態なのかもしれない。


とはいえ、誰も止めに入らなくて良いの?

・・・私には到底口を出せないけど! 誰か!


「・・・僕はこれで失礼する。モモ・ピンクー嬢、申し訳ない、付き合わせてしまって」

「え、あ、あの・・・」

「だけど、この話し合いの立会人として、親にもあなたの存在を伝えさせてもらっても良いかな」

本当に申し訳ない、という表情で頼むポニー様。


「え、そ、それは構いません、けれど・・・」

モモ様が青い顔で動揺している。

モモ様は、心配そうにスミレ様を見やったが、スミレ様も静かにモモ様を見つめ返した。

「私からも。お願いします」

「はい・・・」

モモ様が言葉を飲み込むように返事をした。


「・・・スミレ・ヴァイオレット嬢。鞄について御礼を言わせてほしい。お陰で見つかったんだ。このことは感謝してる。ありがとう」

「どういたしまして。御礼を言っていただけるほどのことはしておりませんわ。・・・新しい鞄に変わっている様子ですが、まさかこの人に贈られたのでしょうか?」

食事にも鞄を持って移動しているので、しっかり確認されていたようだ。


スミレ様は非難する眼差しだ。

ポニー様は首を横に振った。

「鞄は僕じゃない」

「そうでしたの」

少しスミレ様が少しキョトンとして、表情を緩めた。


「それじゃ。・・・きみに良い理解者が現れますように」

とポニー様が言った。

「ポニー様が自由に生きて行かれますように」

とスミレ様が言った。


「モモ・ピンクー嬢。この時間のお詫びと立ち合いの礼は後日改めて家からさせてもらう」

「はい」

モモ・ピンクー嬢がポニー様に返事をする。


「行こう、キャラちゃん。・・・一応、説明だけど、スミレ・ヴァイオレット嬢。僕がキャラちゃんを連れて退出するのは、僕がこの場に、話題のきっかけにと連れてきた人であり、友人でもあるから。それだけだ。邪推されるような関係じゃない。このまま置いて僕だけ去る方がおかしいからだ。それは理解してもらえるかな。分かってもらえたら嬉しいんだけど」


「この場においては、許して差し上げますわ。ただ、最後に、宜しいでしょうか?」

「なに?」

「私がポニー様の婚約者という立場でなくなっても、その人の振る舞いは目に余る事です。私の姿勢が変わる事はないと思います・・・。ポニー様は、その視点をお忘れになるべきではありません」

「・・・理解できない。僕たちはそこが分かり合えないんだ」

「残念ですわ」


****


ポニー様に促されて退出した。

しばらく無言で歩く。ポニー様が少し前を歩くのを、ついていく感じだ。


私が原因で婚約を白紙・・・。


とはいえ、私がすみません、と謝るのはおかしい。

私への対応を巡って意見が合わなかったという理由だから、二人の問題ではある。

だけど・・・。


「ごめんね。今日は、話し合いをしてみる、っていう、ちょっと軽い気持ちだったんだ。本当だよ」

前を歩いているポニー様が少し立ち止まられた。私はその後ろ姿を見たまま立ち止る。

昼食の時間だからか、今、この廊下には誰もいない。


「でも・・・彼女は人気があるから、僕じゃない方がきっと良い」

自分に言い聞かせているように聞こえる。

ポニー様は、スミレ様の事が嫌いなわけじゃないんだろうと、私は思った。


「悩ませたら嫌だから、先に言っておくね。たぶん、キャラちゃんが学院に通っていなくても、僕とスミレ・ヴァイオレット嬢は、どこかでこんな風に認め合えなかったと思うんだ。学院じゃなくても、キャラちゃんじゃなくても、身分を超えて特別に貴族の世界に存在する人って他にもいるんだから。それは、身分に関わらずそこにいて良いと誰かが思ったからなんだ。そこにいる全員じゃなくて、誰かがその人の存在を認めたからだよ。だから、僕たちもそこにいることを認めるべきだ。尊重するべきだ。僕はそう思う。・・・だけど、あの人はそれが無理なんだ。・・・僕はできるなら、人に対する根本的な部分で、分かり合える人と一緒にいたい。・・・我儘なんだろうと、思うんだけどね。でも・・・彼女のためにも、別れた方が良い。だから、これで良い・・・」


どう言えばいいんだろう。そもそも返事を求められているのか。

困ったので、こんな、どうでもいいような、だけど重要ではありそうなことを質問してみる。

「お家とか、大丈夫ですか? 婚約って、家同士で決めるものじゃないんですか・・・?」


「大丈夫だよ」

ポニー様は苦笑したらしくて、私の方を振り返った。

穏やかそうに笑っていた。

「この年齢だ。いよいよどうするかを決めて行かないといけないから。僕たちは一つの判断を下しただけだ。両方の本人が申し出るし、大勢の前で互いの主張も述べていて、モモ・ピンクー嬢までその席にいたんだ。解消の方が、問題ないよ」


お気を落とさないでください、というのも違う気がする。だけどそう言いたくなる。


ポニー様はまた苦笑した。悲しそうに見えるのは私の気のせいじゃないと思う・・・。


「そんな顔しないで。婚約者がいなくなったからって、キャラちゃんまで友人関係を解消するなんて止めてね」

「そんなことしませんよ・・・」

「良かった」


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