19.ポニー様とスミレ様と私とモモ様
スミレ様が誘われて、モモ・ピンクー様もランチのメンバーに加わった。
ちなみにモモ様はかなり驚いておられたが、ポニー様と私が揃っているのを見て、スミレ様に何か深刻そうにうなずかれた。
「私、スミレ様のお力になりますわ」
決意を表されたモモ様に、スミレ様は上品に笑みを返されたのだ。
***
そして。ポニー様の提案で、私がいつも使う食堂に皆で行くことに。
いつもならそれぞれ部屋を借り、親しい人たちと食事らしいのだが、人気の部屋はすでに使われているから、どこで食べよう、となった結果だ。
こういう機会でないと行かないから、とも言っておられた。
見学ですね。
さて、皆様は使用人の人にメニューを頼み、テーブルに持って来てもらうようだ。
私は勿論、いつものように自分でランチを選んでテーブルまで運ぶ。
「キャラちゃん、それだけで良いの?」
とポニー様が不思議そうに私の持ってきた皿を見て尋ねられた。ちなみに今日は鴨肉のソテーです。おいしそう。
「はい。これで十分です」
スミレ様とモモ様も、ポニー様の発言に、私の料理に視線を向けている。
そこに、皆様の前に運ばれてくるオシャレなお料理。コース料理のようだ。
「それでは、いただこう」
ポニー様が言って、皆で食事への感謝の言葉を。
・・・あれ。皆さまの感謝、ものすごく長い。私は終わったのに皆様まだ終わらない・・・。
動揺する。
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さて。初めは和やかだった。
だけど、ポニー様とスミレ様は、私という存在の扱い方を巡って、穏やかそうに言い合う状況になっている。
うぅううう、居たたまれない・・・。
「キャラちゃんは生徒として学院に来ている。使用人と同じじゃない。一緒に勉強に励む友人として扱われるべきだ」
ポニー様が真剣にスミレ様に言い返した。
「いいえ。私たちは、平等に接するべきです。平等とは、誰が見ても納得できる状態を指すことです。ポニー様もそうご存知ではありませんか・・・? 平民風情に度を過ぎてお心を砕くことは、不平等な扱いをし、世の中を歪ませる行いになると私には思えますわ」
「世の中を歪ませるなんて大げさだ。隣に傷つけられた人がいれば、助けの手を差し伸べるのは当たり前だよ。僕たちは、社会の上に立つ人間としても、その心根を大切にしないといけない。なのに、どうしてきみは切り捨てる側に回ろうとするの」
「この人が、いるべき場所をわきまえておられないからです」
「キャラちゃんは学院に迎えられている生徒なんだよ」
「私たちは、迎え入れておりません。ご存知ではありませんか。食事のマナーさえこれほどそぐわないのに、どうやって等しく交流を持てとおっしゃるのです」
食事のマナーを指摘されて、うっと私は動きを止めた。
話題が心臓に刺さるから、食事に没頭しようとしてたのだけど、マナーがダメとか言われると食べにくい・・・。
泣きそうな気分で、ポニー様、スミレ様、モモ様をチラ見する。
ポニー様とスミレ様は、食堂という場所で公開ゲンカ中だ。
モモ様は発言を控えているが、スミレ様の言葉に頷いてみたりと、スミレ様を心配しているようだ。
ポニー様とスミレ様がにらみ合う。険悪すぎる。
無言状態で時が流れるので、モモ様がそっと声を上げられた。
「あの、発言させていただいてもよろしいですか?」
「えぇ、モモ様。ごめんなさい、こんなところにお誘いして」
とスミレ様が眉を下げてモモ様に詫びられる。
モモ様はきっぱりと首を横に振り、スミレ様の目を見て、一度頷かれた。力づけるみたいに。
「その人ですけど、貴族ご令息と気安くしすぎですわ。礼儀もない上、婚約者に親しく話しかける未婚女性など許せるわけありませんわ」
モモ様が力強く、ポニー様に訴えた。
ポニー様は一応モモ様相手だからだろう、少し困った顔になりつつ、促すように柔らかく頷いて見せた。
「ポニー・ウゥーマ様もご想像ください! 慕っている婚約者に、礼儀のなっていない馴れ馴れしい態度で話す、平民の男子生徒という存在を!」
「なるほど。不快かもしれないね」
ポニー様はモモ様に同意した。
モモ様の顔がパァと明るくなる。
ポニー様は表情を和らげ、優し気に笑んだ。
「きちんと愛情を育て合っている婚約者間なら、そうなるのかもしれない。相手を信じるか、嫉妬するかどちらかになるのかな。信じる方を選べるような関係でありたいな」
その言葉に、モモ様は少しキョトンとされた。
スミレ様は少し俯かれた。
「貴重な意見をありがとう、モモ・ピンクー嬢。・・・ねぇ、スミレ・ヴァイオレット嬢。僕は、嫌がらせをされている人に手を差し伸べることまで嫌う人を、好きになれない。僕たちは貴族で、大勢の上に立つ。だけど僕たちの上にも人は立つ。・・・僕は、自分より上位の人たちを、広い心を持つ人だと思っているし、力を添えて僕たちを導くような人ばかりだと願う。だから僕もそうありたい。困っている友人に話しかけることすら咎めるなんて間違っている」
「・・・私たち、意見があいそうに、ありません。そう思われませんか」
「・・・そうなのかも、しれない、ね」
ポニー様がゆっくりと言葉を吟味しながら、スミレ嬢に笑む。怖い。笑顔だけど怖い。
スミレ嬢も、背筋をピンと伸ばしながら、少し笑む。
「私も、これほど申し上げているのに聞いていただけない方とは、ご一緒できない気がいたします・・・」
え!?
「婚約は白紙を希望する。きみはどうだろう」
「はい。同じく、白紙を希望いたしますわ」
きっぱりと宣言し合うポニー様とスミレ様。静かながら、笑んでいるけど、にらみ合っている。
顔色を悪くしたモモ様が、両手で息を飲むように口を覆った。
私も、ザァと嫌な汗が。
え、婚約を白紙? しかもこんな場所で?




