18.ランチに誘う
さて、授業はつつがなく終わり、お昼休み。
ランチ、やっぱり食堂だよね。
・・・昨日は知らない人に意地悪されたんだったなぁ。気を付けながらいかないと。
そんなところにルティアさんがまたそっと入って来てくれて、私に新品の鞄を渡してくれた。
「どうもありがとうございます」
と礼を取って受け取る。
「どういたしまして。災難に遭われたのでしょう? 話すのがお辛いかもしれませんが、経緯を教えていただけますでしょうか」
「はい。実は・・・」
と言いかけたところで、
「キャラちゃん」
ポニー様が少しためらいつつも、声をかけてきた。
ルティアさんが一礼して、一歩下がる。
学院では、使用人の人は『そっとどこかにいる』のが基本みたいで、貴族のご子息やご令嬢の行動の方が優先される。・・・この世界では当たり前か。ご子息やご令嬢のサポートに使用人がいるわけだし。
「はい」
と私も返事をしてポニー様を見つめたが、ルティアさんを見て、それから私を少しじっと観察するようにされた。
少し話すことを迷われるような時間があったあと、ポニー様は切り出された。
「ランチ、付き合ってもらえないかな? ・・・生贄として」
「いけにえ・・・」
ゾッとしつつ、思わず復唱する私に、ポニー様は少し深刻そうな顔でコクリと頷かれた。
「こういうのは、言ってから早い方が良いと思うんだ。日を改めたらお互いいろいろ理由をつけてしまいそうだから。嫌な事を頼んでいると思うけれど・・・助けてもらえないかな」
「わ、分かりました」
私も頷き返した。
「ポニー様には学院に入ってからものすごく親切にしていただいていて、だから恩返しさせていただきます」
しっかりとそう告げると、ポニー様はくしゃりと笑顔になった。
「そこまで言われると大げさだよ。でもありがとう、助かるよ。スミレ・ヴァイオレット嬢がランチを始める前に誘いたいから、急いで今から会いに行きたいんだ。ついてきてくれないかな」
「はい」
「キャラちゃんは僕が借りるけど、急ぎの用件があったのかな。きみはトラン・ネーコ様の家の人だよね」
ポニー様はルティアさんに視線を移した。
ルティアさんは礼を取りながら答えた。
「はい。ネーコ家に仕えております。主の指示を受け、キャラ・パール様にお届け物を」
「では連れていって大丈夫だね」
「はい」
「行こう。キャラちゃん」
「はい」
ポニー様に呼びかけられたので答えつつ、ルティアさんのポニー様に対する態度で私は今思い至った。
私は大分、皆さんに砕けた態度で接してる。
え。大丈夫なんだろうか・・・。
***
スミレ様の移動前に間に合った。
先にスミレ様のいる教室にポニー様だけが入って行かれて、スミレ様に声をかけておられる。
私は入り口のところで待機。
スミレ様は、4人ほどの貴族令嬢とご一緒だ。
他の方々が興味深そうにポニー様を見つめている。
スミレ様はポニー様が来たことに驚いているらしくて、パチパチと瞬いたりしている。
こうやって離れてみていると、スミレ様ってとても可愛くて綺麗なご令嬢だ。
『スミレ・ヴァイオレット』という名前が良く似合う。上品な薄い紫色で包まれたお人形みたい。
そのスミレ様は少し目を伏せた。少し顔が赤くなっているのが私にもわかった。
うわ可愛い。ポニー様も似合うよね、スミレ様の隣。
背は低くて、スミレ様と同じぐらいなんだけど。可愛い王子様って感じがする。
ポニー様も少し照れたようになっていて、はにかむように笑っている。
スミレ様が周りのご令嬢に気を遣うように視線を遣ると、皆様ニコニコして返事をしている。
スミレ様が少し笑顔だ。
ポニー様がスミレ様に話しかけて、私の方をスミレ様に示した。
スミレ様は私を見て、少し面白くなさそうな顔をした、ように一瞬見えた。
あれ? 私、要らないんじゃない?
***
廊下に出て来られたポニー様とスミレ様。
「あの、私、絶対お邪魔虫なので、ここまでにさせてもらおうと思います」
思い切ってポニー様に告げると、ポニー様がわずかに私を非難するような目で見てくる。
「いけにえ・・・」
と呟いてこられる。
スミレ様が仕方なさそうに少し睨むようにポニー様を見たのに、気づかないようだ。
「いる。生贄つきランチだから」
「いりませんよね?」
私はスミレ様に助けを求めた。すると、スミレ様は困ったように首を傾げた。
それから、ほぅ、とため息をついた。憂い顔が綺麗だなぁ。
「ポニー様。この人も一緒で構いません。生贄を私も希望いたしましたもの。ただ、このままでは『ポニー様を巡った話し合い』をするように周囲から見られてしまいます。もう一人、追加させていただけませんか」
「誰を? スミレ嬢、僕はキャラちゃんをだしに、きみと今までできなかった事とか話せればと思っているんだ。でも他の人を呼んだら、単純な交流会になってしまうから・・・」
「私たちより下の人を選べば良いと思うのです・・・」
「例えば?」
「モモ・ピンクー様ですわ」
えー!?
ポニー様も眉をしかめた。
「どうして? まさか僕に彼女をすすめようと考えているの?」
ポニー様が少し怒ったようにいうのを、スミレ様が両手をポニー様の腕に沿えて止めさせた。
ピタリとポニー様が口を閉じた。
「いいえ。男女2人ずつでは仲が良いもの同士と勘違いされ、勝手に組み合わせを想像されます。私はこの人と仲良く交流していると思わるのは嫌なのです。ですから私はポニー様と、3人の女性、という風に見える状態を希望します。会話については、モモ・ピンクー様は、私たちの方が年上ですし気を遣ってくださるはずです」
「彼女を呼ぶならレオも」
「そこまですると、私たちの会話が・・・」
困ったようにスミレ嬢がポニー様を見つめる。
「・・・分かった」
「はい」
「モモ・ピンクー嬢を、きみの生贄にしよう」
「まぁ。怒られますわ」
「ごめん」
スミレ嬢が驚いてさっと顔色を悪くするのを、ポニー様がくしゃっと表情を崩して笑まれる。
その様子にスミレ嬢が口を閉じた。
・・・仲、いいですよね?
やっと話をしようとしてこの状態なんですか?




