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141.山平 桃花

勝手に手が伸びる。叩く。パン、と音がして、アラームが止まる。


私はゆっくり目を開けた。


あれ、ここは・・・。


「・・・?」

天井。それから壁。ポスター。あ、『ミラクル☆セレブレーション7』。乙女ゲーム。

「トランさま・・・」

と呟いてから、ん、違う違う、と思い至る。


ムクリと起きて、部屋を見回す。

私の部屋だ。

今日は木曜だ。学校行かなきゃ。制服が、壁、ハンガーにかけてある。


私は再び私はぼんやりしながらポスターを見て、にへら、と笑った。

「なんだかものすごく良い夢見たぁ」

ずっと見ていたかったような、すごく甘くて幸せな。


ポスターの笑顔で胸がときめく。夢の中でもこんな風に笑ってた。

「おはようございます、えーと・・・」

えーと。


えー・・・何だっけ。


あ、

「ヒュー・・・さま」

ヒューバート・スティマウラ様。

大好きな人の名前を忘れてしまうなんて、どうかしてる。


***


現在、普通の女子高生。今17歳。

山平やまひら桃花ももか


どうして『普通の』なんてつけるかと言えば、私には前世の記憶があるからだ。

人に言ったりはしていない。言わなくても事実だと知っているし、今が好きだから。


前世の私は紀藤きとうすずという名前で、病気で17歳で死んでしまった。

最後の4年間ほど入院生活。


そして自分でも信じられないけれど、死んだ時、女神さまと会った記憶がある。

女神さまは光りながら、私をものすごく気の毒がって、願いを聞いてあげる、と言ったのだ。


前世の私は、その時思いつける希望を正直に告げた。


前世の私は、最後の4年間、ずっと病気で入院していた。

ゲームや小説で見る生き方、そんな風に生きることに憧れていた。


「元気で、楽しくて、両想いの彼氏もいてて、まるで乙女ゲームみたいにミラクルな人生が良いです」

『あなたの希望は分かりました。だけど、私にもできることとできないことがあるのです。そこは理解してくださいね。乙女ゲームのようにミラクルな、ですね。分かりました、叶えましょう』


そんな風に言って。

だから今、私は健康に生きている。

中学にも行って、高校にも通っていて、友達もできて。

彼氏という点はなかなかまだ叶わない。

乙女ゲームにはまっちゃったから?

だけど友達と一緒で楽しい。毎日が嬉しい。


このまま生きていけるのかな。だと良いな。

17歳を超えたら、前世を超えたと安心できる気がする。でも日付的にはすでに前世を超えているから大丈夫。


ところで、今世で驚いたのは、前世ではまっていた乙女ゲームがまだ続いていた事。

『ミラクル☆セレブレーション』に『7』がついている。7作目なのだ。


人気の出なかった作品もあるみたいだけど、ここまで来て、1作目を知る世代が母親になって、娘と一緒にはまる。という現象が起きて、ものすごく人気になったみたい。


だから『7』を作る時、初代から全てのキャラクターについて、人気投票を開催した。

その結果の、上位のキャラを集めて作られたのが『7』。

なお、母親世代の回答率が高かったのか、1作目に出ていたキャラからは3人。他の作品にも違う年齢で登場するらしいのも人気理由みたい。


私が前世で好きだったキャラも入っていて物凄く嬉しかったし飛びついた。

それがヒュー様。1作目と容姿や設定はほぼ同じ。

なお、前世では攻略対象者は好きな名前に変えられたけど、『7』では相手の名前は変えられない。

ファングッズとか出す関係かな? 別に良いけど。


ちなみに私も、ヒュー様のキーホルダーを通学カバンにつけている。


***


「あの。俺、山平やまひらさんの事が、好きで、付き合って欲しい、です」


昼休み。

私は、告白されていた。

呼び出されて、何だろうと思いつつ、ついていったらこんなことに。


え、え、えええ・・・・。


ど、どうしよう。


同じクラスの皆木みなきくん。

それほど話したことはない。とはいえ良い印象はある、ちょっと格好良い男子。


その皆木くんは、緊張していて、顔が赤くなっている。だけどじっと私を見ている。

返事を待っている。


「あの、こんな事、急に言われて困ってるかもしれないけど、あの俺、その、どう、ちょっとお試しとかでも・・・」

「あ、えっと・・・」


皆木くんも一杯一杯な雰囲気だけど、こっちも物凄く汗が出てくる。


どうしよう。

え、どうしよう。


皆木くんがじっと返事を待っている。ちょっと泣きそう。


何か答えなきゃ。なんて言えば良いんだろう。


「あの、ちょっと、あの、返事待ってもらって良い?」

なんとかそう答えると、皆木くんはすぐ頷いた。

「良いよ。全然良い。あ、でも、いつ貰える?」

「1週間後とか・・・」

分からないからとりあえず・・・。


「分かった。俺、本気だから」

「うん・・・」

頷きを返した。


そして、互いに無言になった。

漂う緊張感。どうしたら良いの。


「あの、戻ろうか」

「え、うん」


声かけに少しホッとして、緊張したまま、廊下に戻った。


***


まさか、告白なんて。


友達のユミに相談した。皆木くん良いよ、付き合えば良いのに、とユミは言った。

どうしよう。そうしようか。

恥ずかしいな。

でも、恋愛には憧れている。彼氏欲しい。

皆木くん確かに良い人だし。

前世は憧れただけだった。今世だからご褒美だ。


うん、勇気を出そう。


え、でも、返事に呼び出すところから勇気がいる。恥ずかしい。


***


心は決まったけど大変な勇気が必要で、皆木君に返事ができたのは、結局約束した1週間後ギリギリだった。


「その、ユミが、皆木くんは良い人だって、言うから、その、よろしくお願いします・・・」


私もだけど、明らかに緊張して硬い顔だった皆木くん、パッと表情が明るくなった。笑顔が輝いてる。


「OK? で良いんだよな」

「うん」

頷く。

自分で返事をしたくせに、なんだか恥ずかしくてつい俯く。


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