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140.ネーコ家

結婚式はトラン様が卒業された時、つまり婚約から2年後にすることになった。

私は在学中になるから、結婚後も学院に通わせてもらう。スミレ様たちと一緒に過ごし学んだ方が、マナーも知識も友人関係も築けて大事だから。


ちなみに、トラン様は平民の私と結婚するからと、未来について色々考えておられたようだけど、結局、王妃様たちや同世代の貴族の方が支持してくださるので、トラン様が後継者のままになった。

優秀で、そのつもりで励まれてきた人だ。トラン様もやる気だから本当に良かった。

私の方は、貴族の夫人の事が分かっていないけれど、いろんな人に助けられてやっていけそう。


トラン様のお母様だけど。

トラン様が驚くほど、私の事を気に入って下さった。

決定打は、私がやっと磨き上げた石を、町のおじさんと一緒にトラン様のお母様にお見せした時。

石が、その時のお母様の好みズバリだったのだ。お母様の大きな目がギラリ、と本当に光った。


「これは! お譲りいただけるの!」

「キャラちゃんのご縁で、特別価格にさせていただきます。キャラちゃんの仕事は丁寧で、これほどの大きさのものをこの滑らかさで球体になど、普通は出ませんよ」

「ええ、そうね。値を言いなさい」

「キャラちゃんの口利きで、特別に。こちらで」

と、おじさんが計算機を使って、お母様に見せた。ちなみに私には値段が見えない。ちょっと気になるー。

「素晴らしいわ」

満足気にお母様は頷かれた。


即購入だった。

おじさんも、ニコニコしていたけど、どちらかというと、私の役に立てたと喜んでくださっていた。

おじさん、ありがとうございます。

「可愛がってもらうんだぞ」

とおじさんは私に言ったのだ。


その上で、仮面舞踏会から1年後、つまり再びの秋の日に。

トラン様のお母様と私とで、私の町の祭りに行った。

トラン様がついていくと言い張ったけど、お母様の方が強くてトラン様は留守番を命じられた。どうやら賭けをしてお母様が勝ったらしい。


私の家もご案内して、母と弟と妹と、トラン様のお母様がご対面。

正直なところ、私の家族には特に興味を示されなかった。

母たちが後で震えて心配していたので、大丈夫、貴族の奥様だから怒っているわけじゃなくてあのような御方なんだよ、と説明してなんとか落ち着かせた。


実際、トラン様のお母様は貴族なので、平民については本来関心を持たない人だ。私の場合は、トラン様の相手として会い、そして幸運にも興味を引く話題が出せただけ。その意味では私は運が強いのかも。


さてお祭りでは、トラン様のお母様と腕まで組む状態で、色んなオススメ料理を食べ歩いた。

楽しかったけど、お母様が元気過ぎて驚いた。

ちなみにお許しを貰って、家族とも過ごさせてもらったので、やっぱり悪い人じゃなく、私には寛容な素敵な人だと思う。


さて。一方で、私は聖女に任命されてもいる。

だから、トラン様と旅行にも出かけた。神殿に花を捧げに回るためだ。

純粋に、トラン様と色んなところに行くことができてとても嬉しい。


神殿では驚くほど大歓迎だ。

聖女が一度も来てくれたことが無い、と嘆いていた神殿がとても多い。

私の町の神官さんのアドバイス通りだ。


そんな事を2年して、そろそろ結婚式、という頃に、神殿側から、『次の3年も聖女しない?』という打診を貰った。

何でも、次の候補のミルキィ様は、やっぱりお出かけが嫌で聖女を辞退。

次の候補の方は、ミルキィ様がおられるのに自分など無理です、とさらに辞退。


だから手早く私でいいや、という話になったそうだ。

加えて、小さな神殿から、是非キャラ・パールに聖女を続けてもらいたい、そして自分のところにも是非! という声が上がっているらしい。


私は平民だから、何かの役職を持っていた方がやっぱり良いし、喜んでももらえるし、堂々と旅行も行けるし、と良いことずくめ。そうトラン様と結論を出して、次の3年も聖女に確定。ちなみにその後の3年間も私になった。

理由。ミルキィ様は普通に辞退。

次の方は、私が人気過ぎて、聖女になるの嫌だ、との事。

そのうち3年交代制を取り消すんじゃないか、とトラン様は言い始めている。

そして、実際その通りになり、結局20年以上聖女を続けた。

すでに、聖女は、身分は問わなくなっている。


****


結婚式の日だけれど。

本当に驚くほど自分は幸運だと実感した日になった。


綺麗なドレスを着せてもらって、大勢の人に祝ってもらった。トラン様も私も照れて、すごく嬉しかった。忘れようがない。


母も弟も妹も来てくれた。母は泣いていた。町の人たちも来てくれた。ネーコ家は寛大に平民が祝いの席につくのを許してくれた。


学院で親しくなった貴族の方々も来てくださった。

こんなに幸せになれるなんて、思ってなかった。好きな人と、身分を超えて、一緒になれるなんて。


***


ところで。

もうお婆さんになったころ、星型の精霊が私の前に現れた。


『きみ、なんて名前?』


驚いた。


『僕は時の精霊、エーリティシモ。良かったら友達になろうよ』


サファイア様は亡くなったと、のちに聞いた。


私は今度こそ名乗り、この精霊と友達になった。


彼はこの世界についての様々な豆知識を披露した。

まるで乙女ゲームのお助け精霊。


それを、私はトラン様たち、特に孫に教えてあげた。

トラン様と私は、特に学院の豆知識を懐かしみ、孫たちはまだ知らない世界に目を輝かせた。


***


幸せだった。走馬灯のように思い出が駆け巡る。


トラン様に出会えてよかった。トラン様のお陰で幸せになれた。


大好き、愛しています、永遠に。


ずっと一緒にいた。歳をとった。

幸せだった。


充分生きた。あなたと一緒に。


もう、そろそろ意識が・・・


***


ピピ、ピピ、ピピピ・・・


なに? 何の音・・・?

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