137.真実のメダル
視線をやれば、顔を隠しても物凄い美人が傍によりそっている、背のスラリと高い、精霊王みたいな人がいる。女性はミルキィ様に間違いない。仮面で隠しきれない別格さがにじみ出てしまっている。
そんな精霊女王ミルキィ様が嬉しげに傍にいる人なんて、メーメ・ヤギィ様しかあり得ない。
アウル・フクロウ様が笑われた。
「あぁ。だが、俺が証明しても、サファイアとの仲から疑いは晴れないだろうと思ったんだ」
「なるほど、ならば私から提案させていただきます」
と、精霊王メーメ様。
メーメ様は全体に告げるように言った。
「簡単だ。アイテムは必要だが、真偽を問い、正しければ色が変わる。誰か持っていないか?」
「費用は僕が出そう」
とつけ足したのは、チュウ・ネズミン様だ。
皆が周りを見るようにザワザワしている。
中から一人、男性が前に出てきた。
「お使いください。恨まれたくないので、費用は後から誰か分からないように請求させていただきたいのですが」
「分かった。ではこの品を請求時に見せてくれ」
「はい。ではこちらを。『真実のメダル』です」
「確かに」
アイテムを受け取ったチュウ・ネズミン様が、皆を見回す。
「では、私が使わせてもらう。この映像が過去にあった出来事そのままの真実であるのか、真実であれば色は変わる。良いか。今は黄色」
メダルを見せられる。小さいけれど、確かに黄色に見える。
「黄色です」
と、アイテムをチュウ・ネズミン様に渡した人が、下がりながら同意する。
「では。真偽を問う。『サファイア・ブルー様が提供した、モモ・ピンクー嬢の記憶の映像は、過去の出来事そのままを映した真実通りの内容かどうか』!」
そして、バシッ! と強く地面にメダルを叩きつけた。驚いた。
「青! 真実だ! 確認してくれ!」
チュウ・ネズミン様がメダルを拾い上げて声を上げ、皆に見せる。青だ。裏も表も見せられる。真っ青だ。
「真実だ」
チュウ・ネズミン様がタケ・グリーン様を見た。
「つまり、嘘つきはきみ。あの映像は真実だ。犯罪者はきみだ。この人殺し。信じられない。タケ・グリーン嬢。もう僕は、きみとの婚約を破棄させてもらう。ここまで歪んでいたなんて」
「嘘です。嘘つきなのは皆の方よ!」
「きみは今、とても不利だ。仮面舞踏会だからだよ。身分差がかりそめにも消えているからだ。何を発言しても誰か分からない状況において、きみは誰からも庇われない。何の価値もないからだ。きみ、ここまで嫌われていたんだ。知らなかった?」
「・・・嘘」
「僕はきみのお婆様に頼まれていた。僕へ遺言が届いたんだ。酷い話だった。婚約は、呪縛だった」
タケ・グリーン様が急に、真顔になった。
暗い顔をしたチュウ・ネズミン様と見つめ合っておられる。
「さよなら、もう永遠に、タケ・グリーン嬢」
「このままで済みませんわ、私の父に言うから」
「話す気もない。護衛たち。グリーン家の令嬢と使用人を捕らえろ。なお、この機会に発言したいものは、僕が全て聞こう。婚約者だった僕からの詫びだ」
「現在婚約中よ!」
叫んだところを、護衛の人たちなのだろう、タケ・グリーン嬢を拘束する。
暴れられた。
「皆騙されてるの! キャラ・パールのせいよ!」
使用人の人も暴れた。泣きながら、チュウ・ネズミン様に助けを求めている。
「私は従っただけです! 仕方なく嫌々だったのに!」
「酷いパーティだな。今日の日だから起こった事も多そうだが」
チュウ・ネズミン様が、ぼんやりと呟かれている。
「間違いなく人生の分岐点です。俺が酷い日々を迎えたように。だけど、結果的に良かったと思える日が間違いなく来ます」
「トランは、なぁ」
チュウ・ネズミン様が私たちを見て、苦笑された。
***
チュウ・ネズミン様が、元気そうに声を上げて、仮面舞踏会だ、楽しんで欲しい、と言われて、なんとなく解散になった。
とはいえ、チュウ・ネズミン様の前に行列ができた。発言を聞いて貰えるからだ。
一方で、私はトラン様から深々と謝罪をされていた。
「本当に申し訳なかった!」
傍に、レオ・ライオン様が仁王立ちしている。なぜか焼き鳥だ。どうやらこの人も普段が恰好良すぎて、面白い方に走ってしまうタイプらしい。意外。
それとも焼き鳥が大好きなのかな。
その焼き鳥なレオ様は怒り心頭だ。
「注目に晒し、癒え始めた頃に心の傷を思い出させるとはどういった振る舞いだ! トラン・ネーコ様! 他にやりようは無かったのか!」
「うるさい、焼き鳥!」
「焼き鳥とは何だ!」
「あえて仮装で呼んだんだ!」
「見た目ではなく俺の発言内容に言及しろ! あなたは罪を認めさせることを優先して多くを台無しにしたんだぞ!」
正論。思わず笑ってしまったら、二人がハッと私を見た。
「許してくれるか」
「簡単に許すな、甘やかすな」
「ふふ、焼き鳥様が面白くて。発言はカッコいいですね」
涙をぬぐいながら笑うと、焼き鳥レオ様の口元が緩む。
タケ・グリーン様が捕まっても喚いているのを見て、身体が震えて泣けて仕方ない。
怖い。また戻ってきて酷い目にあうんじゃないか。
トラン様が、映像を私に見せ、あの日の恐怖を思い出させたことを悔やみ詫びて来られる一方、ズカズカと現れた焼き鳥レオ様がトラン様に怒っているという現在だ。
「おい。早くきちんと慰めるべきだ。謝罪は後だろう。気が利かない」
焼き鳥様が偉そうでおかしい。
「ふふっ」
「トラン様に言わせていただくが、先ほどからキャラ・パール嬢を笑わせているのは俺の発言だ。あなたは泣かせてばかりだ」
「・・・」
トラン様が黙り込まれた。
「おい、後輩」
「はい、せんぱい」
「頑張ったな。褒めてやろう」
「・・・ふふっ」
「レオ。出過ぎ」
トラン様がレオ様と私の間に割り込んだ。
「俺はレオという貴族ではない。この通りの焼き鳥だ」
「ふふふ。せんぱい、おもしろいです」
トラン様がため息をついて俯き、自分の顔を両手で覆われた。




