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134.嘘だという

タケ・グリーン様も呼び出されてから、改めて披露した、教えられたマナー。

全部嘘だった、どころか、悪評になるようなマナーだった。


「嘘だわ! そんなの教えてません! きちんと私は教えましたっ」

タケ・グリーン様が私の披露するマナーを見て、叫びだした。


私の顔は引きつっている。トラン様が私の傍にピッタリついていてくださる。


「グラス、ボウルの底と教えましたし! こう! ですわ」

ご自分で持った状態を見せてくださる。さっきはそんな風に聞いてない。


「聞き間違いか、勘違いだし! だいたい手が汚れるなんて滅多とないのに、カーテンで拭くなんて言いませんわよ! その人が馬鹿か嘘つき!」


えっ、絶対言ったのに。物凄くショックを受けてしまう。


チュウ・ネズミン様が怒っている。

「大勢の前で恥をかかせて笑うつもりだったのか。この僕が主催するパーティで」

「私を悪者に仕立て上げようって嘘ですわ! 平民が調子に乗って、ちょっと親切にしたらこんな目に合うなんて!」


動揺してトラン様を見上げる。

トラン様は目を細められた。

「彼女は教えられたことを見せて話してくれたに過ぎません。今だって酷く動揺している」


「私がいるから本当がバレるって動揺よ。その女、身分もない最下層のくせに、そんな風に貴族に色目使って取り入って。この大嘘つき」

「嘘つきはどちらだ。そのケンカ買いましょう。この人を強引に連れ出す時も、俺の使用人に手を上げた。道中で彼女の装いを台無しにした上に、顔に傷までつけた。それで教えたマナーは悪意まで感じるものだ。俺はあなたに怒りを抱いています。この機会だ、はっきりさせよう」

トラン様が苛立ちを表面に出し始めた。怒ってる。


「顔にキズ? 見せてごらんなさいよ、私知らないし、嫌だ、濡れ衣ですし」

「きれいに整え直したのに、どうしてまた仮面を外さなければならないのか。そもそもこれは仮面をつけるパーティだ」


「嘘だから見せられないんでしょ」

得意げに笑っているのが、仮面をつけていてもよく分かった。

「そんな貧しい平民に熱を上げて大変。言いがかりつけるなら鳥かごで飼えば良いのに。大体、先約先約ってうるさいのよ、私はチュウ・ネズミン様に頼まれて、親切で行ってあげただけ。優しいって褒めてもらえるレベルなんですけど!? 馬車ではお話を楽しんだし、でもその人、自分で勝手によろけて扉に顔あてて、それで自分でぐちゃぐちゃになったのですけど? あ、顔にキズってそれよね。自業自得だし私のせいじゃないわ。ねぇ、チュウ様、私が本当ですわよ」


「きみが酷いんだろ。そもそも、当日急に迎えにいくところから意図を感じる」

ボソッと、チュウ・ネズミン様は呟いた。表情はとても暗かった。

「え?」

可愛く首を傾げる、緑色のネズミ風のタケ・グリーン様。


チュウ・ネズミン様は顔を上げた。表情が抜けていた。

「僕は、紳士として、そこまではと思っていた。だけどさ、タケ・グリーン嬢。もう告白させてもらう」

「え、きゃふっ」

チュウ・ネズミン様は嬉しそうな声を上げたタケ・グリーン様を正面にみた。

「僕は、偉そうで嘘つきで、いつも意地悪や悪口ばかり言っているきみが、大嫌いだ」

「ぇ?」


「庇う気が、無くなった。どうしようもない。今日のこの日も、僕は皆に楽しんでもらおうと頑張った。きみも手伝いたいといってくれたから頼んだ。それが裏目に出た。きみを頼るなんて判断が間違っていた」

「何仰ってるのです。いっぱい頼って!」

チュウ・ネズミン様の傍にかけよるタケ・グリーン様。

だけど、チュウ・ネズミン様は寄られた分、後方に退いた。


「トラン。構わない。全てここで済ませて良い」

「ありがとうございます」

「チュウ様! ねぇ!」


「僕以外、皆、仮面をつけている。普段言えない発言もできる。つまり、公明正大な場に違いないという事だ」

トラン様が、チュウ・ネズミン様に深く礼をとられて、言った。

「感謝します」


「チュウ様ッ!」

「チュウ・ネズミン様にも聞いていただきたい」

「構わない。どうせなら利用し尽くせばいい」


「恩に着ます」

「僕はズタボロだけどね」


「いいえ。俺が、ミカン・オレンジと解消できたように。新しい関係に踏み出せたように。良い日だと思います。それだけのことがある」

「そうか」

チュウ・ネズミン様が自嘲的な寂しげな笑みを浮かべた。

それから、私を見て、少しだけ優しい笑みを見せてくださった。


***


「ここにおられる多くに聞いていただきたい。企画長のチュウ・ネズミン様には許可をいただいた」

トラン様が私の背に手を当てて、周囲を見る。

「俺は、トラン・ネーコだ。傍にいるのはキャラ・パール嬢。そこにおられるのは、タケ・グリーン様。俺はタケ・グリーン様の罪をこの場で述べたい。皆様は仮面をつけている。何かあれば、普段は口に出せない真実を皆様にも語って欲しい」


ざわざわと周囲が広く注目している。


「私を巻き込まないで! 仮面舞踏会が台無し!」

「ご自身を主張する仮装をしていて台無しも何も」

トラン様が口元だけで笑われた。


「チュウ・ネズミン様。キャラ・パール嬢が生死に関わる被害を受けた犯人を突き止めました。タケ・グリーン様だった」

「え」

「嘘よ! この嘘つき!」


「間違いないと証拠を集めるのに時間を取りました。とはいえ、各家の使用人は協力的でした。グリーン家以外は、ですが。細かな証拠を記録したものはこの後、王家に提出いたします。それぞれの話を突き合わせると、グリーン家だけが浮いている。結局、グリーン家の者が例の女性用トイレに忍び込んだ。大きな荷物を持ち込んだ。他校に移られたモモ・ピンクー嬢からの協力も得ました。ご自身の潔白のために教えてくださった。見た人間は、グリーン家の使用人だったと。ミチェル・アドラという使用人がグリーン家にはいます」

「あ」

なぜか、タケ・グリーン様が嬉しげになったように見えた。


え。どうして? 自分の家が責められてるのに。

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