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133.チュウ・ネズミン様に

「こんばんは。このような企画を催してくださり感謝しております。企画長様」

「あぁ。これはこれは・・・鎧、どの、だろうか? それから、赤いネコ様だな」

チュウ・ネズミン様が楽しそうに笑って、少し首を傾げて見せられる。


「俺は、木こりをモチーフにした鎧です」

とトラン様。

そうだよね、この世界にオズの魔法使いは無い。ブリキ男っていう表現は通用しない。


「変わったフォルムの鎧だ」

「そこが今回の狙いです。木こりと鎧の融合。デザイナーの渾身の作です。斧から発想が広がったようです」

「なるほど。新しさを求める姿勢と意欲に敬意を払おう」

「本名、トラン・ネーコです」

「そうか!」

正体が分かって、ははは、と快活に笑われるチュウ・ネズミン様。

ブリキなトラン様の肩をポンポン、と叩かれる。

「あえて不格好になるところが好ましいな。ということは、そちらは」

私の方に顔を向けるチュウ・ネズミン様に礼を取る。

「楽しく参加させていただいています。お声掛けいただいてありがとうございます。キャラ・パールです」

「そうか。ネコだな」

ははは、とまた楽しそうに笑うチュウ・ネズミン様。

「見違えるほど美しい赤いネコだ。楽しんでいってくれたまえ」

「ありがとうございます」


「聞いていただけますか、チュウ・ネズミン様」

とトラン様が少し声を落としてそう言った。

チュウ・ネズミン様が少し真顔になる。


「俺は今日この日に、赤いネコと共に会場来ることを楽しみにしていました」

「あぁ」

「それが、タケ・グリーン様にかっさらわれてしまいました。俺の方が先約だったところを、あまりに騒がれて赤いネコが忘れるべき身分に縛られてしまい、ついていってしまったのです。俺の悲しみが分かりますか?」

「・・・」

「チュウ・ネズミン様がマナーを赤いネコに教えてほしいと気遣われ、依頼を受けたという話だったようで、先約を破棄して当然という振る舞いだったようです」

「・・・それは」

「加えて、先日彼女に起こった事の感想を、楽し気に求められたそうです。テニスの試合の日に起こったことです」

チュウ・ネズミン様が真顔で私を見た。表情が硬い。

え、トラン様。こんなところで、そんな事を訴えて良いのですか?


「ただ」

とトラン様は言った。

「会場についてみれば、タケ・グリーン様は親切にもマナーを教えてくださったそうです。強引に赤いネコを連れ出されて道中で顔にキズをつけられましたが、マナーを教えていただけたご好意には感謝する」

「何。顔にキズ? どういうことだ」

「俺が今申し上げたいのは、確かにその点もですが、赤いネコが教えてもらったマナー、俺も興味があります。チュウ・ネズミン様に披露して貰おうと俺もまだ見ていません。せっかくなので見ていただけたら大変光栄なのですが」

「・・・」


揃って、私の方を向いてこられた。

ブリキなトラン様、目が怖い。口元だけ笑ってる!

チュウ・ネズミン様は難しい顔をしている。


「マナーお披露目してくれないか。教えられたマナー、全て」

「え・・・? はい」


なんだか、変な空気なんですが。

え、お披露目すれば良いんですよね・・・。


***


脚のついた優美なグラスを持つ。一度脚を手に取って、もう片方の手で底の平らなところを。

少し、チュウ・ネズミン様が首を傾げてしまわれた。

「すみません、優雅にできていないと思いますが」

恐縮です。

「その持ち方は?」

「パーティでの貴族の持ち方だと」

チュウ・ネズミン様の目が据わった。

え、怖い。どうしよう。


「続けて」

とトラン様。

「続けて良いのですか」

「もちろん。お披露目しなければ。せっかくのご好意だ」

目が笑ってないですよ、トラン様ー!


動揺して泣きそうな気分で、次は言葉で説明しようと思う。

今、持っているグラスがグラグラ。空では無くて、炭酸のリンゴジュースが入っている。重いから、一口飲ませてもらおう。

「待て。そこじゃない。グラスの脚、むしろボウル部分の底付近を持て。そのままでは危うい」

チュウ・ネズミン様が小さく指摘を入れて来られた。


え。

キョトン、とする。

変なところで動きを止めてしまったので、グラスが傾きかけてヒヤッとしたのを、トラン様がグラスを持たれた。

「すみません! 慣れて無くて」

「大丈夫だ。無理もない」

「本気か?」

とチュウ・ネズミン様がトラン様に確認され、トラン様が頷かれる。


「他には?」

「え。はい。飲み干してからの話になるんです」

「すぐに飲まなくて良いから、言葉で教えてくれないか」

とトラン様。


「グラスが空になったら、お料理をこの中に入れます」

あ。チュウ・ネズミン様の眉がギュッとしかめられた。

「あの、それで、飲み物のように食べると教えてもらいました。難しそうなので、うまくご披露できるか・・・」


「他は」

チュウ・ネズミン様が硬い顔で聞いてこられる。

「すみません、あの」

怖い雰囲気で、恐縮する。

「きみに怒っているわけではない。まて、タケ・グリーン嬢を呼ぶ」

「え」

「トラン、じゃなかった、きみもそれで良いか」

「はい」

つい名前を口にして訂正されるチュウ・ネズミン様とトラン様。互いに真顔だ。


なんだか不味い。たぶん、タケ・グリーン様が。

たぶん私、でたらめなマナーを教えられている。

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