132.ブリキ男と赤いネコ
髪を綺麗に整えてもらい、仮面もつけて、再び会場に。
戻ってみれば、大勢の方がおられてすでにパーティを楽しんでおられた。
「すごい・・・! 皆さん物凄いです!」
仮装と言われたのも頷ける。皆さん、普段ならあり得ないほど羽をつけてみたりカラフルになってみたり、肩にオウムを乗せてみたり、自由な衣装を着ておられる。
しかも皆が仮面をつけていて、まるで別の、不思議な人形の世界に飛び込んでしまったみたいだ。
「きみもなかなかのネコっぷりだぞ」
とブリキなトラン様がからかうように言ってくる。
「ブリキ男さんもなかなかです。鈍く光っておいでです!」
「褒めていないだろそれ」
「事実ですよ」
「事実の単なる指摘だな」
「木こりがどうしてブリキ男になったのかは気になっています」
「斧をデザインに取り入れて欲しいと依頼したら、最終的に店のデザイナーが俺に鎧を着せたがった」
「えぇ?」
「それほど勧めるならば俺の木こり案と両立させろ、お前を信じてやる! と言ってみたらこうなった」
「仲良さそうですね、デザイナーさんと」
「うん。ちなみに鈍い銀色が、斧を表現しているそうだ。木こりと両立させたので、このようなブリキ男的ななんともいえないフォルムになった」
「納得されていますか?」
「打ち合わせが楽しい時間だったから満足だ。俺はこのパーティに己の洗練さや品格を求めていない」
「なるほど。あ、分かりました。普段がカッコイイから、こういうときはピエロを演じたがるタイプですね。普段モテるから」
「・・・」
「失言です。すみません、仮面に免じて許してください」
「許すけど。なんだかこう、心が抉られたぞ」
「えっ! そんなつもりないです、普段がカッコイイって言ったのに!」
「いいや、悪意が感じられた。普段は気取りやがって、というような」
「えっ、本当にごめんなさい! 反省します!」
思わずすがる。
あ、さすが全身筒で覆われているブリキ男さん、すがっても筒。トラン様ご本体には触れられない仕様だ。
「・・・今、欠点に気が付いた。これ、完全に鎧だ」
「同じこと思ったかもしれません・・・」
「やっぱり鎧は駄目だな」
「なんだかガードされちゃいます・・・」
しょんぼり。
トラン様も残念そう。
***
トラン様が行き先を選んでくださって、比較的人の少ないところで楽しむ。
私のネコ衣装、飾りで人が多いと裾がひっかかってしまう、という欠点もあるし、人が多すぎると何があるか分からないと警戒しているご様子だ。
夕食は一応立食形式だけど、至る所にソファやテーブルが設置されている。
自分で料理を取るのかと思ったら、それぞれの料理に使用人の人がついていて、頼めば皿に盛りつけてくれる。
「そういえば、手が汚れたらカーテンで拭くって教えてもらいましたが、普通にフォーク使うから汚れるのもあまりないんですね」
「何?」
料理を受け取って、同じソファに座ったブリキなトラン様が、耳を疑ったかのように聞いてこられた。
「え、マナーの話ですよ」
「きみ、それ誰から・・・タケ・グリーン様か」
「え、はい」
「・・・」
トラン様が無言だ。
「ブリキ男さん?」
少し考えておられる様子に見えて声をかけると、トラン様がご自分の皿に貰った一口大の肉にフォークを刺し、
「どうぞ、悪いアカネコさま」
と差し出して来られた。
「・・・ありがとうございます」
まさかパクって食べろとか? 無理ですよ恥ずかしいです。
持っておられるフォークの柄をそっと掴む。
「・・・」
「・・・」
「そうきたか」
「まさか期待をされてますか」
「無礼講と言う名のもとに」
「・・・」
仮面をつけている、今ならできる! やればできる!
ちょっと震えてしまったけど、勇気を出して差し出されている肉を食べた。
目を開けると、トラン様が驚いていた。目が。
それから笑まれる。
「きみ、周囲に応えようとする性格だろう」
「無礼講だっていったくせに・・・」
「あぁ。無礼講だ」
あ、と口を開けられる。
・・・。
「どうぞ」
私の皿のお肉を入れて差し上げる。
もぐもぐ、と食べながら、じっと私を観察しているトラン様。
「ブリキ男さんも照れてますよね」
恥ずかしさのあまり訴えるように言ってみる。
「これ、差し出す方は嬉しいが、食べる方は相当恥ずかしいな」
感心したように感想を述べられるトラン様。
「そうですね」
差し出す方も勇気が試されましたよ。
「俺、差し出す方が良い。ほら」
「私も差し出す方が良いです。どうぞ!」
何をやっているのか。でも仮面で仮装中だから大丈夫! と思えるからこんな風に振る舞える。
結局、両者とも差し出したので、それぞれ自分自身の口に入れた。もぐもぐ。
そして、顔を見合わせて二人で笑った。
***
音楽は生演奏。会場の装飾もとても凝っている。不思議な別世界に来た雰囲気を盛り上げている。
聞いても見ても楽しめて、料理もおいしい。
そして確かに、仮面をつけているから身分について気にしなくて良い気分になる。
こんな風に、毎日楽しめたら良いのに。なんて思うぐらいだ。
「あ。チュウ・ネズミン様だな」
ブリキなトラン様が私に囁いた。
「え、分かるんですか?」
「あぁ。企画長だから、何かあれば言いに行けるようにされている。ほら、仮面をつけておられない。誰が出席しているか把握もされる。俺たちも出席しているとチュウ・ネズミン様にご挨拶にいかなくては」
「はい」
「チュウ・ネズミン様の手配でタケ・グリーン様から教わったマナー、お披露目する良い機会だ」
「はい」
「不快な思いをさせると思うが、必ず守るから」
トラン様が、そう言った。




