131.合流
ん、あれ?
メッセージが入っているのに気が付いた。
私、タケ・グリーン様と一緒にいるのに緊張しすぎて、連絡に気づいていなかったんだ。
まぁ、一緒にいる時に出るわけにもいかなかったけど・・・。
『どこにいる。無事か』
『今どこだ。ついた。探している。無事か』
『見つけた。少し様子を見ているから。危険そうならすぐ行く』
『遅い』
「!」
急に会話が入って驚いた。ビックリしすぎて肩がはねた。
後ろからにゅ、と誰かの頭が出てくる。
「遅い。悪いアカネコだな」
「・・・」
トラン様の声。だけど仮面だ。鈍い銀色。ひょっとして斧の色?
「なんてお呼びすれば?」
なんて聞いてしまった。
「さぁな。ブリキ男とか?」
「それオズの魔法使いですか? キコリじゃなかったですか」
「キコリだったが斧を押した結果こうなった。ブリキ男で良いだろう」
「全身甲冑みたいですね。キコリというより、騎士よりです」
「騎士など嫌だ」
「じゃあブリキさんですね」
「ゴキ〇リみたいだな」
「やめてください」
「ブリキ男と素直に言えば語弊が生まれなかったのに」
「やめてください」
クスクス笑うと、肩をすくめられた。あ、やっぱりトラン様だ。
「それで、悪いアカネコは、さっそく髪が乱れているが、理由を聞いても?」
「えぇと・・・」
「仮面がずれている。ひっかけた?」
「いいえ。その」
「ひっぱられた」
「・・・はい」
「髪からやり直しだな」
「どうしましょう」
「別に途中から参加で良い。別室借りてやり直してもらおう。俺も傍にいるから」
「はい。ご迷惑おかけしてすみません」
「心配、の間違いだろ・・・」
ブリキなトラン様が抱き寄せてくださった。
抱きしめられたことで心配が伝わってくる。
「来てくださって有難うございます」
「当然だろう。待っていて欲しかったな」
「待つのが耐えられなくて・・・」
トラン様が深くため息をつかれた。
「まぁ良い。合流できたんだ。楽しもうか」
「はい」
トラン様の目が優しく笑っていて、ほっとした。
***
ルティアさんたちと合流。
さんざん心配されて、叱られてしまった。
ルティアさん、頬が赤いままだ。心配だし、不満。
「私たちはキャラ・パール様をお守りするためにいるのですわ。どうかご自分を優先してくださいませ」
とさらに諭すように注意を受ける。
「はい・・・」
「分かっておられませんわ」
ルティアさんが相当お怒りのようだ。
私、まだ仮面はつけたままなのにどうして分かってないって分かるんですか・・・。
ちなみに、丁寧に編み込みしてくださったので、解くのも手間がかかる。
少しずつゆるんでくる仮面をサティマさんが持っていてくださる。
私はただ、座っているだけ。
とはいえ、皆さん、主にトラン様から、馬車でのことを尋ねられるのでお答えする。
仮面はタケ・グリーン様が剥がそうとしたということ。
私がトイレでムカデに襲われたことについて、笑いながら「どんな気持ち」なんて聞いてこられた事。
答えるのが嫌で、チュウ・ネズミン様とのことについて話題を振ったらその後はずっとその話で良かったこと。
会場に着いたら、意外だったけど親切に、貴族のパーティのマナーを教えてくださったという事。
「あっ! お顔に傷がついてます!」
髪がほどけて、仮面をはずしたサティマさんが小さく叫んだ。
「えっ!」
ルティアさんが驚いて、覗き込んでこられる。
そして私を見て、ルティアさんが震えた。
「見せてくれ」
ブリキなトラン様が近づいてこられて、真正面から覗き込まれた。仮面から見える目が瞬間きつくなった。
「え、傷ですか? 鏡見たいです」
あ、そういえばポーチに手鏡が・・・。
だけどサティマさんがサッと他の鏡を取り出して見せてくださった。
ん。あ、鼻の横に短い赤い線が。
仮面が引っ張られた時にあたってキズになったんだろう。
ルティアさんがブルブル震えてる。握りこぶしがすごい。
「あの、大丈夫、これぐらいすぐに治ります」
そんなに大したキズじゃない。まぁ、顔にキズってあまりないけど。
「社会的に抹殺してやる」
低い声で、トラン様が呟いた。
「そこまでのキズじゃないです」
「顔にキズつけられてそんな風に言うな。いいか、きみが貴族令嬢なら、これだけで使用人は当然解雇だしそれ以上の罰もある。きみは平民だが、だからって簡単に許すな。もう駄目だ、絶対叩き潰す」
「お願いいたします。大事にお守りしている方に軽々しく傷をつけるなんて! ネーコ家を軽んじていますわ!」
ルティアさんが感情的にトラン様に訴えた。
えええええ・・・。
「きみは自分の事だから理解できていない。例えば、きみの弟か妹が、祭りだと仮面付けて着飾ったのを、悪意からグチャグチャにされて、仮面をとってみたら顔にキズまであったらどう思う」
「あ」
ものすごく悲しくてすごく腹が立つ・・・!! 酷い!
「傷は手当てを。その上でキャラ・パール嬢を整えろ」
「かしこまりました」
ルティアさんとサティマさんがトラン様に礼をとった。
「ジェイ。今日潰す準備を完全に整えろ」
「承知いたしました」
ジェイさんが礼を取る。
「ジェイは俺の傍に。他は動いてくれ」
使用人の方がそれぞれ礼をとる。
「ポニーは出席か、知っているか?」
トラン様、私に尋ねられた。
「いいえ。ポニー様もスミレ様も出られないとおっしゃってました」
「そうか。まぁ現場で協力者を得られるかが鍵か」
「本日は、皆様が仮装しておられますので、連絡が取りづらいかと」
とジェイさん。
「そうだな」
トラン様も頷かれる。
「ところで、きみ」
トラン様が私に視線を戻す。
「タケ・グリーン様にマナーを教わったんだろう。チュウ・ネズミン様の前で見せてくれ」
「はい・・・」
「チュウ・ネズミン様がおられない時はいつも通りでいいぞ」
「え、はい。でも酷かったら教えてくださいね」
「あぁ」
あれ。トラン様の感情が分からない。仮面のせいか。




