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130/143

130.馬車の中。マナーを教わる。

「はん」

変な笑い方。鼻で笑ったのかな。


「あ、そうそう! あなたトイレで毒ムカデに食い殺されかけたんですってね!」

嬉しそうに目を輝かせて、タケ・グリーン様が振り返った。


「どういう気持ちだった? 教えてくれない? たくさん噛まれたんでしょ。耳とか千切れてたって! 目も血がだらだらで、それで生き残っててすごーい! ねぇ、どういう気持ちだったの!?」

「・・・」


顔が引きつった。え、なに、その情報。

思わず耳を押さえてた。ある、大丈夫、普通に両耳、ある。ついてる。


「ねぇねぇ。見つかった時、あなたの身体に毒ムカデがプラーンって食いついて離れなかったんですって! 大変よねぇ! トイレで倒れるってだけで汚いのに、信じられないー!」

「・・・」


あなたの方が信じられない。


「ちょっと、答えなさいよ。ねぇ? この子失礼じゃない?」

「そうですわよねぇ」

「キャラ・パール、答えなさいよ、平民のくせに」


答えられない。答えたくない。

無言でいたら、煽られる。

じゃあ、話を変えるしかない。


「あの」

「なにー?」

目と、口元だけしか分からないのに、ニヤニヤ楽しんでいるのが良く分かる。


「チュウ・ネズミン様って、ものすごく頼りになる方だって聞きましたが」

「え、何あなた、チュウ・ネズミン様を狙ってるんじゃないでしょうね!? 私の婚約者に色目使わないでよね!」


「いえ、タケ・グリーン様とどのように婚約されたかとか、恋バナが聞きたいなって」

本当は特に聞きたくないけど、私も仮面をつけているので多少の表情は見えないはず。


「え。やだぁー。ふふ。私とチュウ・ネズミン様のお話? やっだぁ」

嬉しそうに身体をくねらすタケ・グリーン様。


「あの、差支えない範囲で、聞きたいなと、思いまして」

「やっだぁ、ふふふ、そうねぇ、聞きたいの? ふふ」

「はい」


変な攻撃をされるより、とても聞きたいです。


***


クネクネとしつつ、嬉しそうにお話されるのを聞きながら、無事会場についた。

ちなみに、親が決めた婚約らしいが、チュウ・ネズミン様は格好良くてタケ・グリーン様の理想の人だそうだ。

「だけどお優しすぎて、色んな人のお世話をしたがるのが傷つくの」

とも言っておられた。

そのお優しさの一環で、チュウ・ネズミン様はタケ・グリーン様に私へのマナーを頼まれたのかなぁ・・・。

ちょっと迷惑・・・なんて表情には出してはいけない。


馬車を降りると、まだ会場は完成しておらずで、準備中の人たちが驚いておられた。

一方で、他の人たちが大勢いるので、きっと無茶なことはされない、はず・・・。

そのうちトラン様たちも来てくださるはず。


そう信じて、タケ・グリーン様たちと行動する。


そして、食べ物が並ぶ場所まで来た。

「さて、マナー講座。一番重要なところだけ教えるから、そこだけなら覚えられて簡単でしょ」

本当にマナーを教えてくださるらしい。

馬車の中の態度もあって警戒してたけど、親切な行動のためだったんだと驚いた。

そっか、チュウ・ネズミン様からの依頼だからここはきちんとされるのかも。


「あなた平民でしょ。貴族では、こういう時こう持つの」

グラスを、足の平たいところを持って見せてくださる。

え、そんなところ持つの? トラン様も、ポニー様もスミレ様も、そんなところ持ってなかったけど・・・。

「パーティの作法よ」

「はい」

パーティ。そっか・・・。


「そしてね、飲み干して空になったグラス、そのまま使いなさい。料理が並んでいるから、グラスの中に料理を入れる。勿論自分で取るのよ。綺麗にね。今日は無礼講だから、使用人はやってくれないの」

「はい」

色々ルールがありそう。


「グラスに入れたものは、飲み物みたいに口にするの。令嬢の初歩的なマナーだから」


食べづらくないのかな?

食べることを計算してグラスに入れるものを選ぶのかなぁ。


「あの、例えばタケ・グリーン様はどういうものを食べられるのですか?」

「はぁ? どうして私のを聞くのよ」


「いえ、うまく想像ができないので、参考にお伺いしたくて」

「馬鹿じゃないの」

本当に馬鹿にした目つきだ。うーん、仮面をつけてて目だけだけど、案外目の表情って分かるんだな。私も気をつけなきゃ。


「時間が無いからいらないでしょ。あと、そうそう、手が汚れた時は、ここに行って拭きなさい」

「え、カーテンですか?」


「そう。当たり前よ」

「ハンカチとか」


「馬鹿ね。貴族のハンカチはそんな事に使わないのよ。貴族の常識」

「そ、そうでしたか・・・」

未知の文化だ・・・。


そうこうしているうちに、人がパラパラ集まって来られた。

トラン様、まだかな。

早く来てくださるはずなのに・・・。


「きゃ、チュウ様だわ! ここで終わり! じゃ、私が教えた通りやりなさいよ!」

「はい。ご親切にどうもありがとうございました」

私は丁寧に礼をした。


タケ・グリーン様の口元が弧を描いた。


***


タケ・グリーン様からも放り出されて、心細くて周囲をキョロキョロしていたら、誰か分からない魚の恰好をした男性、と思われる人に声をかけられた。


「きみ、もう髪がぐちゃぐちゃだよ。まだ始まっていないから直して来たら?」

「はい、ありがとうございます・・・」

「使用人はどこ」

「はぐれてしまって」

「そうか」


魚さん(仮称)は去っていく。


忘れてた。頭に手を伸ばす。今は赤いレースの手袋もしているから分かりづらいけど、やっぱり髪が乱れている。

わー!!


ルティアさんたち、まだかなぁ。

あれ。勝手に動いたから、もしかして皆さん、怒ってる?

だからまだ来てくださらないの・・・。

どうしよう。


部屋の隅に移動して、通信アイテムをそっと握った。

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