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13.ルティアさんの助け

ルティアさんに連れられて、向かった先は職員室。

タオルで拭いたものの、私の歩いた後に水滴が落ちていくのを見咎められたので、ルティアさんだけ入室、交渉してくれている。


「昨日支給したばかりです。お渡しできるものは今ありません」

「それはおかしいと思います。生徒の方々のあらゆるご希望に備えておいでのはず。制服の予備が無いなどとは不手際ではありませんか」


入るな、と職員の人に言われていたけど、こんなやりとりが居たたまれなくなって、私もそっと入室した。

対応中の職員の女性が嫌そうに私を見る。


私はルティアさんに声をかけた。

「あの、着替えはもう良いです・・・」

着替えは寮に。取りに戻るしかない。

ただ、時間がかかる上に、一度戻ったら、少なくとも今日はもう学院に行こうと思わないだろうという予感がしている。


これから、最低1着は制服の替えを置いておくべきかな・・・。

でも、体操着も隠されたり汚されたり。だから制服までは置かないでいた。

うん。置いておいてもやっぱり意味はない・・・。


ルティアさんは私の様子に少し困ったようだが、またキッと職員の女性に向き直った。

「あるはずです。支給品分が尽きたのであれば、購入分なら在庫があるのでは」

「えぇ、当然ありますよ。ただし、貴族ご令嬢方がお召しになられる高級品が。全て取り揃えてあります。学院として当然です。平民用では決してありません」

高飛車な言い方だ。貧乏人用の品では無いと言っている。


「そうですか」

ルティアさんは職員の人に告げた。それから私を促し、一緒に職員室から退出する。


「少しお待ちください」

ルティアさんは、上着の襟に手を添えるようにして、少し私に背を向けた。

コンコン、コンコン、と硬いものを叩くような音が聞こえた。


「許可が下りました。制服を購入させていただきます」

「え」


「問題ありません。お任せください」

ルティアさんがキリッとした表情で私にそう宣言し、さっそうとまた職員室に入っていく。

え、また行くの?

水滴が落ちるからって入室を止められているけど、じゃあ私も再び入り口まで・・・。


ツンツン

ルティアさんを追いかけた私の背中を、誰かがつついた。



振り向くと、メーメ・ヤギィ様が後ろに!


不思議そうに首を傾げられた。

「授業は?」

とメーメ・ヤギィ様。


「少し災難があり、やむを得ず今ここに・・・」

と答えたけれど、ちょっと動揺している。

メーメ・ヤギィ様こそ授業に出ていなくてよいのですか?


「頬」

メーメ・ヤギィ様は、ご自分の頬を指差されて、首を傾げられたまま私を見つめておられる。

「・・・これも、災難の一つです」

と私は答えた。


「キャラ・パール様、制服を・・・これは、失礼いたしました」

職員室から出てきたルティアさんが、メーメ様がいる事に気付いて礼を取った。


「きみはどこの家の者だ?」

不思議そうにメーメ様がルティアさんに尋ねている。

ルティアさんはさらに礼を取った上で、返答した。

「ネーコ家でございます」


「・・・ということは、犯人はミカン・オレンジ嬢か」

「・・・」

それはトラン・ネーコ様の婚約者がミカン・オレンジ様だから? でも色んな人に嫌がらせ受けてるのと、ルティアさんは別の理由で私を探してくれていたので、偶然だったりするのだけど・・・でも当たっている。


「暴力的なところが全く治らない」

呆れたようにメーメ様は私に言った。私には返事のしようが無い。

「可哀想に。腫れてるよ」

心配そうに私を見ている。


「私の方で、これから手当をさせていただきます」

「そうか。・・・ねぇ、きみって何て名前だったっけ」

メーメ様は私に尋ねて来ている。

「キャラ・パールです」

「うん。そうだった。私はきみを勝手にケセランと呼んでいるんだ。ケセランの方が良いよ」

そう言われましても・・・名前は変えられませんから・・・。


「授業抜けた分ぐらい、私が教えてやれる。また図書室で会おう」

「え? あ、ありがとうございます・・・」


「次、ケセランがどんな物体か図鑑を見せよう」

そう言って、メーメ様はまたひょうひょうと去って行かれた。


ルティアさんを振り向けば、なんだか困ったような微妙な顔で私を見ていた。


え、今のやりとり、不味かった?


「制服を購入いたしました。お着替えいただけますわ」

となんだか私を困った子のように見つめながら、ルティアさんはそう言った。


***


購入してもらった新しい制服は、肌触りが全く違って、生地がものすごく良いんだろう、というのが私にも分かる。

「主の許可を得て購入しております。心置きなくご使用くださいませ」

「ありがとうございます・・・」

「その言葉はあるじにお伝えくださいませ」

と礼儀正しくルティアさんは謙遜けんそんする。


「それからもう1着、私どもが緊急用に保管させていただきます。ご入用の際はお声がけください」

「ありがとうございます・・・」

そこまでして貰えるの? 良いの? とても助かるけど、本当に良いのかな・・・。


「キャラ・パール様には他の方々と違い、私どものような使用人がおられません。そう考えたあるじから、様々な助けとなるように指示を受けておりますから」

「ありがとうございます。助かります。・・・でも、お手数をおかけしてごめんなさい」

私の落ち込んだ言葉に、ルティアさんは苦笑を返した。

「問題ありません。・・・ところで、授業はご出席されるのでしょうか?」


そう言われて改めて時計を見る。1回90分の授業、残り30分は受けられそうだった。

肌触りの良い制服、つまりルティアさんたちが私のためにと動いてくれて、それが心強く思えて、少し元気になれる。

・・・頑張ろう。


「はい。少しでも出てきます」

「承知いたしました。では、2つ目の授業が終わりましたら、お迎えに参ります。トラン・ネーコ様のところにお連れいたします。これが元々の伝言なのです」


「はい。分かりました。ルティアさん、色々ありがとうございます」

「頼りにしていただけたら幸いです」

そう言いながら、ルティアさんは少し私に笑ってくれた。


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