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129.タケ・グリーン様

「あなたがさっさと来ていたらこんな騒ぎになりませんでしたのにね!」

グリーン家の使用人の人が私を挑発的ににらみながら笑んだ。


すごく、嫌い。


良かった、ルティアさんたちがこんな人たちじゃなくて。


グレンさんが厳しい顔をして、階段を降りさせまいと両手を広げて阻止して来る。

「行きます。すみません、開けてください。行かなきゃ」

「しかし」

「お願いします。頼りにしています」

そんな風に訴える。今は行くけど、お願い、助けに来てください。


「ほら! いつまで待たせるの!」

苛立っている声を聞きながら、私を心配してくださる人たちの傍を抜ける。


「ふん! まぁ豪華に化けたものですわね、さすがはネーコ家の愛人様でいらっしゃいますこと!」

えっ!

身体が震えた。

「愛人なんてないです!」

「そうでしょうか。あら、これは失礼。身分違いの行く末を御存じない、世間知らずの平民と言うだけですものね?」


こんな人についていきたくない。だけど、今更断る方がこじれる。

この人、まるで自分が大貴族みたいに偉そうだ。

タケ・グリーン様ってどういう人?


「お待ちください、私どももご一緒致します!」

「あなた方の乗る場所はございませんわ。どうしてもというならご自分たちの馬車でお越しください。会場はご存知でしょう?」


え。一人で馬車に乗るのか。考えが浅かった。

どうしよう。


そうだ。

「あの、では、私もネーコ家の使用人の人たちと一緒にだと嬉しいので、タケ・グリーン様の馬車をあとから別の馬車でついていくのでも良いでしょうか?」

「はぁ? いい加減にしてくださいな。これ以上、主人を待たせるつもりなの!?」

視界の端で何か動いた。


「お待ちなさい。ミチェル」


少し低いダミ声がした。私の目の傍で、使用人の手が止まっている。

この人、私を叩こうとしてた。


「キャラ・パールさん。迎えに来ましたの。早くお乗りになって。これ以上待つのはうんざりです」

馬車の扉が開いている。

中に、緑色の、ネズミのお化けみたいな人がいた。


「タケ・グリーン様、ですか?」

「そうよ。初めまして」

「はじめまして・・・」


太っているのか、それとも仮面舞踏会用にあえて膨らませているのか。

私もだけど、向こうも顔は仮面で覆っているのでお顔立ちが分からない。


「早く乗ってください。あなたにマナーを教えて差し上げる時間が減っていくばかり。私がチュウ・ネズミン様に叱られてしまうじゃない」

「申し訳ありません。突然だったので・・・」

「突然でも、私自らがこのように迎えに来たのよ。対応するべきなのよ」


タケ・グリーン様が怒っている。


「ほら早く」

と急かされて、私は一度、寮にいるネーコ家の使用人の方々を見やり、それから前を向いて馬車に乗り込んだ。


***


馬車、私の前にタケ・グリーン様。

私の両脇に、グリーン家の使用人の女性。

ちなみにもう一台、グリーン家の馬車が続いている。


「それ、ネコよね。ふふっ、馬鹿みたい」

タケ・グリーン様が笑う。


「タケ・グリーン様は、ネズミですね」

「婚約者の家のシンボルマークですもの。チュウ様も私みたいなネズミ、愛してくださると思うの。ふふっ」


「緑色は、グリーン家のシンボルカラーですね。合わせられたんですね」

「そうよ。まぁ、馬鹿が見ても分かるでしょうけど。あら、仮面、曲がっていますわよ」


え。


グリーン様の手が伸びてきて、私のつけている仮面をもぎ取ろうとした。

「え、イタッ、待ってください」

「あら」

ルティアさんが編み込むときに工夫してくださったので、仮面が簡単に取れないように、リボンを髪にも編み込んである。

髪、もうぐちゃぐちゃになっちゃった・・・。


「ざんねん、取ってあげようと思いましたのにー」

ふふ、とタケ・グリーン様が楽し気に笑う。


酷い・・・。

俯きそうになるのを堪えて、じっとタケ・グリーン様を見つめた。


俯いたら、もっと酷い事をされそうな気がした。じっと見て、様子を警戒した方が良い。


「こわぁい。私ネズミだものー、そっちネコでしょ。キャ、タケ、食べられちゃうー!」

きゃは、と笑うタケ・グリーン様。


私は無言でいたけど、両脇の使用人の人がキャッと笑った。

「タケ様、悪いネコは退治されなきゃいけませんわ。番犬を呼びましょ」

「ネコのヒゲ、切っちゃうのはいかがですか?」


私は言った。

「それって、ネーコ家の方への侮辱ですか? 先ほど、迎えに来られた時、ネーコ家の使用人の方が殴られてしまったのです。タケ・グリーン様はご覧になっていましたか」


ピタッと動きがとまるグリーン家の方々。

「見て無いわよ。ふん。ちょっと遊んだだけなのに。面白くないわね。冷めちゃう。あーあ」

とタケ・グリーン様。

興味を失ったのか、窓の方に目をやって、外の景色を楽しまれるようだ。


こういう性格の方なんだ。

無言ならその方が良いかも。と思いながら、注意してタケ・グリーン様の様子を見つめる。


お顔が見れない。けど。

現時点ですでに悪役令嬢。分かりやすく意地悪だと思う。

それでいてちょっと可愛い子ぶっている雰囲気。


私より年上のはず。

チュウ・ネズミン様っておいくつだったけ・・えーと、サファイア・ブルー様やアウル・フクロウ様と同い年だった気が。

そうそう、メーメ・ヤギィ様はチュウ・ネズミン様より年下だった。「メーメ・ヤギィくん」なんてチュウ・ネズミン様は言っていた記憶があるから。


じゃあ、えっと、私の3つ上? 17歳ぐらい?

私の前世、17歳で終わったけど、あの時の私と同い年か・・・。


「やたらトラン・ネーコ様と親しいけど、どうして?」

突然、タケ・グリーン様が窓を向いたまま、私に尋ねた。

あ、違う。窓に映る私をじっと見ている。


「トラン・ネーコ様が、とても親切で優しい方だからです」


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