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128.ケンカ

しばらく待っていたら、下からの騒ぎが聞こえてきた。

窓からだ。


「平民が、グリーン家のご令嬢の親切な申し出を断るというのですか!? お嬢様はチュウ・ネズミン様に頼まれてわざわざこちらまで足を運んでおられますのよ!!」

驚いて窓に行こうとしたのを、サティマさんが制止され、窓の様子を見てきて下さる。


「グリーン家の使用人ですわね」

「ねぇ、あんた、行った方が良いんじゃないのかい?」

管理人のおばさんが困ったように私に言った。


「でも、怖いです。トラン様と離れて何かあったら・・・」

「だけどあんたは平民で、向こうは大貴族だよ」


サティマさんが眉を潜めた。

「ですけど、ネーコ家の令息のトラン様とすでに約束をされています。先約優先は当然です」

「だけど、あの様子じゃ引かないよ」

「割り込みなんて礼儀知らずですわ」


下から怒鳴り声が聞こえた。

「何する!」

男の人の声だ。誰!?


「代理の者を叩くなど、野蛮過ぎる!」

「そちらが失礼過ぎるからでしょう!」


「サティマさん、見て来て欲しいです」

「はい!」

「何だろうね」


サティマさん、管理人のおばさんが下に向かう。

ワイワイ騒いでいる。


「いい加減にしろっ!」

「そちらこそ身分をわきまえてはどうなのッツ!?」


ケンカになってる。

どうしよう。

窓に近寄って、外を見る。

馬車が見える。あ。御者の人と、目が合った。


駄目だ。

このまま隠れてたら駄目な気がする。


通信アイテムを握る。

「トラン様」

『どうした。大丈夫か』


「駄目そうです。多分下で、ケンカになってます」

『まさか』


「本当です。それで、早く来て欲しいですが、もう、私、下にいきます」

『駄目だ』


「さっき、向こうの御者の人と目が合いました。だから隠れてたら余計に酷くなる気がします」

『ケンカってどんなだ』


「誰か、ルティアさんが殴られたかもしれません。男の人が怒って、あ、きっとセドさんです。グレンさんも出ています」

『駄目だ、出るな』


「先に行きますから、絶対、来てください、トラン様」

『駄目だ! グリーン家が危険なんだ!』


「でもこのままじゃ、収まらないです、それに私は平民です、断れない」

『俺との先約があるだろう!』


「向こうは、チュウ・ネズミン様からの依頼できているグリーン家です。多分引かないです。お願い、早く追いついてください」

『止めてくれ!』

「いってきます」

『待て!』


通信アイテムから手を離す。

下からケンカの声が聞こえている。


ゴクリ、と勇気を出して、足を踏みだす。

大丈夫。大丈夫。

何も無いかもしれないし、何も無くても、トラン様が来てくださる。


***


階段を降りていくと、皆が私に注目した。

ルティアさんの頬が赤い。ルティアさんと恋人関係らしいセドさんが酷く怒っているのが分かる。

サティマさんとグレンさん、もう一人の護衛の男性が階段を登れないよう壁のようになって立っておられる。

向こうは3人。


「随分遅いご登場ですこと! 平民のくせに生意気ですわ。私どもの主人はとても優しくて、わざわざこのようにお迎えに参りましたのに、随分と不作法な振る舞いをされますわね!」

「ですから、先にネーコ家が約束しているのです!」

ルティアさんが真っ赤な頬を押さえて訴える。


私は、階段の途中から皆さんに話しかけた。

「私、トラン・ネーコ様と一緒に行くという約束を、ずっと以前からしていました。約束を守りたいです。お心づかいは有難いのですが、突然の事で驚いてしまって。申し訳ありません」

上からになってしまったのは、その方が様子が見れることもあるけれど、降りてこないようにグレンさんが止めて来られたから。


「お言葉ですが、私どもは、キャラ・パールさんをお迎えに来ただけですわ。断られても困ります。主人も、あなたに断られてしまっては、チュウ・ネズミン様に顔向けができないではありませんか。平民だから考えが浅いのは仕方がありませんが、このような時は素直に従っていただかないと困りますわ」

「失礼ですわ! キャラ・パール様はネーコ家が懇意にしている方ですわ! そうでなくてはこのように私どもネーコ家の者が傍におりません、キャラ・パール様も私どもの主との約束を守りたいというお考えです!」


「大層なことね。あなたって、たかが使用人じゃありませんか。トラン・ネーコ様の傍からは外された、いわば二流の方でしょう? 私どもはタケ・グリーン様に直接お仕えする事を許されているのですわ。無礼なのはどちらでしょう。このように大勢で取り囲むなんて、本当に野蛮」


「一流の方は人に手をあげるんですか?」

と私は口を挟んだ。

「私がトラン・ネーコ様と約束しているのは本当ですし、ルティアさんは私にすごく親切にしてくれる人です。それを二流とか酷いです。しかも殴るなんて信じられません。私、タケ・グリーン様に直接訴えます。タケ・グリーン様はお会いしたことが今までありませんから、困ってしまわれたら、チュウ・ネズミン様に訴えます。だって、チュウ・ネズミン様が私の事を頼まれたから、タケ・グリーン様が来てくださったのでしょう」


向こうの人がギョッとした。そして私を睨んだ。

「いい気になるのも大概にして貰いたいわね、平民が。どうして私たちの主人がこんな人を迎えに来なくちゃいけないのか、本当に理不尽に感じますわ。でも、そこまで言うなら一緒に来るという事で宜しいわね?」

「・・・はい。仕方ありません」

「お待ちください! 主と約束しておられます、先約が重んじられるべきです!」

ルティアさんが驚いて訴えてきて下さる。


「はい。でも、先に行きます。向こうで少しでも早く合流したいと、お伝えください」

「いけません、キャラ・パール様!」



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