126.思い付き
着替えのためにそれぞれの寮に戻ったら、緊張が解けてどっと疲れに襲われてしまい。ちょっと仮眠を、と思ったら爆睡してしまった。
目が覚めたらもう授業が終わっている夕方だった。ショック。
こうして学院はお休みしてしまったけど、トラン様から連絡を貰って、町に食事に行くことに。その方が止める者がなくて会いやすいそうだ。
まだ少し早い時間なので、ご飯前に、呪いのアイテムのお店に立ち寄ってもらった。自分の町に帰ってから全然来れていなかったから。
カレンさんに状況報告。
なお、修理中のアイテムがあるので、20分だけ作業していくことにした。
トラン様はその間、呪いのアイテムをじっくり見る、という事だ。
「両親を説得する呪いなんてないだろうな」
「ネーコ家は代々呪いへの耐性が強い家だからねぇ。使われたのを無意識に感じ取られたら逆効果だよ」
などという話をカレンさんとされている。
「あ、そうだ」
二人のお話をなんとなく聞きながら修復していたところ、ふと思いついて声を上げた。
なんだ、という風にトラン様とカレンさんが私を見る。ちなみに、ルティアさんたちもいるので全員が私を見る。
「トラン様のお母様、丸いものがお好きなんですよね?」
「あぁ。そうだな」
「私、アルバイトで、石を磨いているっていう話を、トラン様にしたことありましたっけ」
「そういえば、聞いているな」
町にいたとき、知り合いのおじさんから石を預かり、丁寧に磨くという内職をさせてもらっていた。学院に行く事になった時に、『いつでもいいから』と石を持たせてもらっている。
コツコツ磨いて綺麗に仕上がれば、丁寧に仕事をした分、良いお値段で買ってくれる。
なお、私が学院に行くから、弟と妹もその仕事を引き継いでいるはず。
とにかく。
「とても良質な石を磨かせてもらっているんです。最近お手入れできていませんが、大体仕上がっていて。出来上がったら販売するらしいんですが、良いものは貴族の方々が買われるらしいんです。それで、町のおじさんに話をしないといけませんが、トラン様のお母様、気に入ったりされないかな、ってふと思って」
「気に入るかもしれないな」
とはトラン様。
「石なら何でも良いのかい? 奥様の好みがあるだろうよ」
と首を傾げるカレンさん。
「理想的なのは、きみの磨いている石を母が気に入り、きみの口利きで、通常より安い値で母が購入できることだが」
とトラン様。
「そもそも、石ってなんの石だ? 宝石じゃないんだろう?」
「宝石に分類されてると思います。磨いているのは月光石です。綺麗ですよ。水につけると虹がふわって浮かんだみたいで」
「光るのか?」
「えーっと、水につけると、きれいです。見る角度によって光り方が違うというか。ただ、乾いている時と水の中では印象が違うというか」
「大きさは? 大きいのかい」
とカレンさん。
「これぐらいです」
両手をちょっと広げて保つ。
「滅多と無い大きさだね」
とカレンさんがトラン様を見やる。
「とりあえず、見せて欲しい」
「はい」
***
トラン様を部屋に、と思ったら、使用人の方々がストップに入ってきた。
えー・・・。
トラン様と私のためを思って止めているのです、とジェイさんに強く言われたら、怒られている気分になってしまう。
「じゃあわざわざ持って来てもらってどこかで会えと言うのか」
「その通りです。愛人と言われて宜しいのですか。正しく迎えたいのでしょう。協力を求めておられるのでしょう」
そっか・・・。
「あの、持ってきます。どこでお会いすれば良いですか? 割れると嫌だから、あまり持ち歩くのも怖いので、学院じゃない方が良いんですが・・・」
「そうだな」
私が言うので、トラン様が困った顔になりつつ落ち着いてくださる。
結局、夕食後、私を寮に送って下さった時、建物の外でお見せすることに。
***
その後、楽しく町で過ごして、もう明後日が仮面舞踏会ですね、という話をしてから寮に送ってもらう。
なお、ドレスももう届いているそうだ。明日に試着しよう。装飾取り付けだけだから、サイズは合っているハズ。
部屋から石を持って来て、建物の外でトラン様にお見せする。
「見事に球体だな」
「ありがとうございます」
「まだ途中なのか?」
「はい、もう少しこのあたりが出てると思うんです」
「ふぅん・・・。これ、母が気に入った場合、母に売ってもらえるか聞いてもらえるか?」
「分かりました。ただ、普通に手紙になっちゃいます。あの、私の家族を見てくださっている使用人の方に聞いてきてもらったら早いと思うのですが・・・」
「あぁ。ただ、宝石を扱う店が、見知らぬ人間の言葉を信じるものだろうか」
「そっか・・・やっぱり私が行った方が良いですね」
「できれば」
「じゃあ、出来上がったら町に持って帰るので、その時に聞くので良いでしょうか。まだ先になります」
「あぁ。それに、完成した時に見せた方が良いからな」
「はい。そうですね」
***
翌日は普通に学院に。
だけど朝に早起きして、明日の仮面舞踏会のための衣装を試着。
もし万が一直すようなところがあれば、サティマさんが急いで直してくださるのだそうだ。
とはいえ、直すところなし!
あっても私には分からないと思う。
「ネコですわね」
とクスクスと笑うルティアさん。変なのかな、と心配したらそうではない、という返事。
「主の独占欲が現れている衣装だと思いましたもので」
と笑い声で言われる。
それを聞いて嬉しく思ってしまうのは、やっぱりトラン様が好きだからだ。
「赤いネコですね! 情熱的! 豪華ですね!」
とサティマさん。
「この、後ろではなく横につけたふさふわのシッポが可愛いです。後ろにしなかったのはなぜですか?」
「あ、引っ張られたら危ないからってお店の人が」
「なるほど! 明日楽しみですね、キャラ様」
「はい」
こうして明日を楽しみに、今日も学院に。




