124.腹の探り合い
ドクドクと自分の心臓の音が聞こえる。
大丈夫、駄目だったら、トラン様が駆け落ちしてくださるから・・・!!
そう思って勇気を振り絞ってお近くへ。
動きがぎこちないかもしれない、頑張れ、私!
「ようこそ、キャラ・パールさん」
「はじめまして。キャラ・パールです」
女の人がソファに座ったままじっと私を見つめている。
どう答えたらいいんだろう。
私、トラン様のお母様のお名前も知らない。この人がそうだと思うけど、合っているかも不安だ。
「・・・座って」
少し興味を失ったように言われた。
「はい。ありがとうございます」
緊張しながら、できる限り端っこに座る。
「・・・喉乾いていませんこと? 何がよろしくて? お好みのものをお入れするわ」
「ありがとうござます、では、紅茶を・・・」
「ラプサンスーチョンは飲まれた事あるのかしら。最近取り寄せましたの」
ラプサンスーチョンとは何でしょうか。
聞いて良いですか?
躊躇っている間に、肩をすくめられてしまった。
駄目だ、むしろ正直に話した方が良いかも。
「初心者なのでしたら、当家のベーシックなブレンドにいたしましょう」
「ありがとうございます。その、ラプサンスーチョンというのは何か、お伺いしても・・・?」
「・・・その話は終わったわ」
「申し訳ありません」
冷たく言われて胃が重くなった。駆け落ち、という単語が脳裏をかすめる。
「トランにどう取り入ったの? あの子それなりに優秀なのです。困るのですわ」
馬鹿にしたような態度だ。
私は顔を上げて、正直にお伝えした。
「学院で、身分差で困っているところを、助けていただきました。ずっと支えていただいて、身分が違いますが、お慕いしました」
「あの子の婚約者、私、好きだったのよ。快活でハッキリとものを言う子が大好き。ウジウジしている子は暗くて嫌よ。なのにトランと合わないって言うの。王家まで介入して貴族社会から追放になったので仕方ないけれど。私思うの、あなたのような異分子がいなかったら、ミカン・オレンジ嬢とトランとはうまくいっていたのじゃないのかしらって。何が言いたいか分かるかしら?」
「・・・私との結婚は反対だということでしょうか?」
「そういうストレートなことじゃないのよ?」
「では、どのようなことでしょうか?」
駄目だ、泣きそうになるけど、もう聞くしかない。だって分からない。
「そんなに睨んじゃ困るわ。しつけがなっていないのね」
ほぅ、とため息をついて、その人は傍の使用人の人に視線を向けた。
「食事を」
「かしこまりました」
私も使用人の人の動きを見る。どういう表情をして良いのか、どういう表情になっているのか分からないから女の人を見たくない。
睨んだつもりはないのに睨んだって言われる。私、そんなに怖い顔をしているんだろうか。
ワゴンに乗せて、食事が運ばれてくる。
テーブルはそれほど大きくない。少しずつテーブルに出すみたいだ。
「あなた何がお好きなの?」
「食事ですか?」
目の前にサラダが出ている状況だから、そう聞いてみる。
はぁ、とため息をつかれた。
・・・ある意味、分かりやすい?
嫌がらせ?
と思って、不思議になる。
トラン様は、ご両親の腹が読めない、と言っていた。
なのに明らかに私のことが嫌そうだ。
余程嫌なのか、試しているのか・・・?
そう思ったら、もっとちゃんとしっかりしなきゃ、と思い至る。
「食事についてでしたら、私は平民なので、町でお祭りの時に食べる、鳥のから揚げが好きです。スパイスが聞いていて、ちょっと辛いんですが、お肉がお祭りなのでとても大きくて」
「・・・」
チラ、と女の人が私の様子を確認した。
「・・・それは、お祭りでないと食べられないものかしら?」
「私にとってはそうです。お店の人が、お祭り用に仕入れて加工するので」
「我が家ではできるかしら」
「お店の人に特別に頼むと、してもらえるかもしれません。ただ、お祭りの時期にしかその味が出ない、といったことがあるのか、私には分かりません。お祭りはいつも秋なんですが」
「今、秋よ」
「はい。あ、明後日、私の町ではお祭りになる日です。私の町は東に2つ行ったところです。そこに行かれることがあれば」
「明後日。ビヒョヌ、私と旦那様の予定は」
「リーメ夫人とのお茶のお約束が」
「まぁ。あなたが買ってきてくださるとか」
と私に視線を戻す目の前の人。
「明後日・・・。あの、その日、トラン・ネーコ様と仮面舞踏会が・・・あと、その場で出来たてが美味しいので・・・私の町まで移動に1日かかります」
つまり、行くなら明日から行かないと・・・。
「あの子、仮面舞踏会! ねぇ、そのお祭りは明後日だけですの!?」
「はい。1年に1度」




