122.試験結果と、寮と、新しく女の人が一人
翌日。
今日はトラン様のお迎えは無いと昨晩の連絡で貰っていたので、朝の時間で掃除をする。
たぶん、今日の放課後に寮に戻る事になるらしいのだ。
時間が来て、さぁ教室に・・・と思ったら、棟に入るところで大勢が集まっている。なんだろう。
掲示板!
一昨日前の試験の結果がもう発表されているんだ。
『これが現在の実力だ』というコメントが掲示板の一番上に大きく書かれている。
抜き打ちテストで、普段の実力を測ろうとしたみたい。ひ、酷い事する・・・!
午前中のクラスの試験だったから、同い年の人ばかり。高得点の人から順位が張り出されている。
私も、隣にルティアさんにいてもらいつつ、自分の名前を探す。
自分の位置が分からない、トップの人から見よう。
あ。ポニー様がトップ!
すごい。スミレ様の事で、お休みされていた時期もあったのに。
次の2位、3位は私は親しくない貴族ご令息とご令嬢だ。
そして。
4位 キャラ・パール。
と、自分の名前が。驚いてカァッと頬が熱くなった。
え。私。4位にいる。
すごい。嬉しい。
見間違い? 同姓同名? ドキドキしながら、そのまま最後まで見ていく。
大体50名ぐらいの名前を全て見て、やっぱり自分の名前は4位だった。
ちなみに、スミレ様は20位に。
「すごいですわ」
と小さく囁いてくださったのは隣の位置をキープしてくださっているルティアさん。
「ありがとうございます・・・!」
「図書館で頑張っておられますもの」
人垣を抜けながら、小さな声で会話。
嬉しい。わーい。
一昨日は試験でびっくりしたけど、良かった!
家族への生活費も、きっと良くしてもらえる。
***
結果の張り出しでザワザワとしていたけど、普通に授業は始まり、あっという間にお昼休み。
今日は、トラン様、ランチご一緒できるのかな。
トラン様のお家への連絡、どうなったんだろう。とても気になる。
「キャラ様。寮に戻りましょう」
とルティアさん。
え。
「連絡が来ました。引っ越しを昼休みにしてしまおうという事になったようです」
「トラン様もですか?」
「いえ、主は色々と用事があって今日はご一緒できないそうです」
「そうですか・・・。お家への連絡、どうなったのでしょうか?」
「予定通りに連絡されたようですが、詳しくは・・・」
「・・・」
私とルティアさんで心配そうな顔を見せ合う。
だけど、寮にという話が来たのだから、そうしよう。
***
今まで使っていた部屋に置いていた私物、つまり着替えとか小物とかを私とルティアさんたちで手分けして持つ。そのまま馬車に。寮に向かう。
着くと、管理人さんたちが出迎えてくれた。
「おかえり。ちゃんと掃除もすんでるよ。貰った呪いも使ってある。さぁ、手伝った方がいいものは言っておくれ」
それぞれ引っ越し作業をした。ランチは管理人さんたちにお願いして提供して貰った。
新しい女の人とも顔合わせをした。
ルティアさんより若く見える。私よりは年上だけど。20歳前後かな? もとからネーコ家勤めでルティアさんと仲が良い人らしい。
「サティマと申します」
「サティマは結婚しています。ご安心くださいね」
とはルティアさん。
ご安心って? と首を傾げる。だけど、二人ともニコニコして答えは貰えなかった。
「ルティアさんより聞きました! 平民だからって酷いことが一杯おありだなんて、許せません! 私も一緒に戦います!」
「あ、ありがとうございます!」
「サティマはキャラ様の味方です。私が保証いたしますわ。だからどうぞ私を信じてご安心くださいませ」
「はい! どうぞよろしくお願いいたします!」
私とサティマさんは頷き合い、思わず自然と両手をしっかり握り合っていた。
仲良くなれそうな人で、良かった。
「ルティアさん、いつも本当に有難うございます」
「当然のことをしているまでですわ」
ルティアさんの姿勢、本当にぶれない。素敵。
***
私は午後の授業があるのでまた学院に戻る。その間に、他の方々が引っ越し作業を続ける。
私については、優先して貰ったこともあって引っ越し完了。
放課後、今日はすぐに寮に戻って、まだ終わっていない方々をお手伝い。
皆、恐縮してこられたけど、ちょっとした人の手があって助かるという事は多いから希望して手伝わせてもらう。
そして、全員引っ越し完了。
今日からこの寮を使う事になった。
使用人の方々と、1階の元々の私の部屋で夕食をとる。
管理人さんが、皆一緒の方が助かるんだって。
驚いて辞退しようとする人もいたけど、私は皆さんと一緒が良い、と言ったら一斉にご飯になった。
ワイワイして急に家族が増えたみたいな気分。皆さん私より年上ばかり。
なお、トラン様が来られるのを、どなたかが止めたらしい。他人が見て分かる節度が大事だから、と。
え、寂しいな。今日は一度もお会いできていない。残念・・・。
夜、3階の自分の部屋に恐々一人で残る。
大丈夫、引っ越しで掃除もしてもらったし、もうこの寮にはトラン様の使用人の人しかいないし、何かあったら隣の部屋がルティアさんだし、下には護衛のグレンさんたちもいるし、と自分に言い聞かせる。
そして、通信アイテムを握りしめた。
『こんばんは』
「こんばんは、トラン様」
やっと声が聞けてホッとする。
互いに、一日会えなかった、と話をする。トラン様も悲しんでおられる。
私専用の寮にした途端、皆がトラン様に節度とかいって行動を制限するらしい。
身内しかいなくなったからこそ、そのあたりを慎重にした方が良いらしい?
『それから、ネーコ家にはきみとの事をきちんと伝えた』
「どういうお答えでしたか・・・?」
『まるで、「ふぅん知ってた」みたいな風だったが、特に何かをいうでもなかった』
「賛成か反対かは・・・」
『考えが読めない』
トラン様のため息が聞こえる。
『ひょっとして、きみ自身に接触があるかもしれない。何かあったらすぐ俺にも伝えて欲しい』




