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12.判断ミス

「そう。ではそうしても良くてよ」

少し詰まらなさそうにミカン様はレオ様に答えた。

レオ様が満足そうに笑う。


ええっ!?

いやいやいや、ミカン様と私だけになったらどうなることか!!


「あの、一人で養護室に行けます、大丈夫です!」

「まぁ」

ミカン様はしおらしくなった。

「私の反省の機会を奪うつもり? 私、きちんと養護室までつきそうわ」

「え、本当に大丈夫ですから!」


「キャラ・パール嬢。ぜひミカン・オレンジ嬢に反省を示す機会を与えてくれ」

良い笑顔でレオ様が言った。

その判断、おかしいよ!?


「いえ、もう時間もありませんし・・・! ご迷惑かけられません!」

「遠慮なさらないで」

いつの間にか傍に近づいていたミカン・オレンジ嬢が、そっとした仕草で、ガッシリと私の右腕を掴んだ。

怖くて息が止まると思った。


レオ様!! 判断ミスですよ!? めてください!!


内心で叫び、目線でレオ様に助けを必死で求めたけど、レオ様は『分かっている』とでも言いたげに満足気に頷くだけだった。


***


意外な事に、ミカン・オレンジ様は、掴む力が強いものの、養護室まで私を連れていってくれた。

が。入る前に、パタ、と立ち止り、ご自分の右袖に右手を入れるようにして何かを探した。

リリーン、という鈴の音がそこからした。


ん?


音が聞こえた、と思ったすぐ後に、養護室から先生がパタパタと出てきた。

「ん。急患か?」

「頬がはれてきているので、氷を貰いたいの」

「氷は冷凍庫にあるから自由に持って行きなさい。難しいなら少し待っていてくれ。急ぎの用を思い出してね」

「はい」

ミカン様が慣れたように答えている。


パタパタパタ、と先生は急いで行ってしまった。


「便利よね」

とミカン様は得意げに言ったが、何のことか分からない。


ミカン様は私の腕をつかんだまま養護室に入り、私をドン、と椅子の1つに座らせた。

「氷、ね」

ミカン様は冷凍庫のドアを躊躇ちゅうちょなく開けた。

それから周囲を見回し、ボウルとトングを取り上げ、冷凍庫から氷をガラガラと入れ出した。


「お詫び申し上げましょう。レオに見つかってしまったことをね。さて」


ミカン様は振り返り、大量の氷を入れたボウルを持って私にニッコリ笑った。

「私の気持ちを受け取りなさいな」


ガジャン! バラバラバラ!

座っている私の衣服の上に、その氷を全部ぶちまけた。


「あらごめんなさい。お水も必要でしたわね」


立ち上がって逃げようとしたのを、また腕を掴まれてしまう。


「放して! そこまでされること、してません!」

「意味が分からないわ。私がそう判断したことで十分。お分かり?」


抵抗するが、相手が爪を喰い込ませてきて涙目になる。

私もやり返したい、だけど怪我させたら身分差で大問題になる。


「ニホンについてお話ししたんです!」

「ニホン? 何それ。意味の分からないものに価値は無い。必要なら向こうから来るもの」

よく分からない論理を自信満々に返してくる!!


ミカン様、力が強い!


蛇口のところに連れていかれて、頭から水を被せられた。


こちらも暴れてミカン様にも水がかかった。

だけどミカン様は自分も濡れることには気にせず楽しそうに押さえつけた。


「これで頬も冷える。ざまあみなさい」


***


そろそろ授業が始まる、と言って、ミカン様は私を置いて出て行った。


授業。

私も行かないと。

家族への支給金に直結する。


そう一瞬焦ったものの、とても人前に出れる状態ではない。


本当に途方に暮れる。

着替えとりにいくのも、どうしよう・・・。


なんだか心底嫌になってきた。

もう辞めてしまいたい。

だけど、病気の母親と弟と妹と私のために、支援金が必要だ。学校を辞めて普通に働きに出たところで、それだけの金額は稼げない。


どうして、この話を持ち掛けてきた人は、普通にお見舞金とかをくれなかったのか。

お見舞金だったら、普通に働いて、食べて行けたはずじゃないんだろうか。


貴族ばかりの学校に平民が通っているっておかしいよ。

貴族の人にとって平民というのは、見なくても良いほどの格下なんだ。

ちょっと話すとかでも許したくないんだろう。


もう嫌だ。辛いよ。


***


養護室の扉が開いた。


「キャラ・パール様!」

呼びかけてきた声に顔を上げると、トラン様の女性の使用人、ルティアさんだった。


「これは・・・何があったかお聞きしても?」

「トラン・ネーコ様の婚約者のミカン・オレンジ様に。仲良くしすぎと思われたみたいで。本当に、もう、どうしましょうね、あ、は、は」

自分の口から乾いたような声がでる。


「お着替えはお持ちですか?」

「いいえ」

「手配いたしましょう。あるじも関わっている事です、報告いたします」

ルティアさんは養護室からタオルを持ち出し、私にも手渡した上、頭髪を拭いてくれ出した。


「・・・ルティアさん、どうしてここに?」

あるじが、連絡がつかないと心配し、私どもで伝言を預かり、探しておりました。見つからずとても心配いたしました」


「・・・敬語いらないですよ、私、平民です」

「えぇ。でも現在、あるじの指示下におりますので」


「・・・」

「お一人で残すのは心配です。着替えをとりに、一緒に行きましょう」


はい、と私は返事をした。

ルティアさんは、女性だけど味方なのかなぁ・・・。そうだと良いなぁ・・・。

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