表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

114/143

114.神殿と、母と、翌日

「キャラ・パールちゃん、これは入れ知恵だ」

神官さんが私にそっと言った。皆がニコニコ私を見ていた。


「今までの貴族の聖女がしなかったことをしなさい。できる限りたくさんの神殿に足を運ぶんだ。小さいところほど感激する。貴族は多分小さなところなんて行かないから、キャラ・パールちゃんはその神殿では、ずっと聖女でありつづけるよ」

「え? 3年で終わりですよ」


「ふっふっふ、分かってない」

チッチッチ、と神官さんが指を横に振って見せる。動きが慣れてるなぁ。


「キャラ・パールちゃんは、記憶に残る聖女を目指せってアドバイスだ。身分差で悩むお年頃だろう」

「・・・バレてました」


「当たり前だよ。困ったら相談に乗るよ」

「ありがとうございます!」


***


母は、そのまま神殿のお手伝いをして帰ることにしたらしい。

弟と妹が驚いたけど、母はどうしてもと言い張った。


母には馬車賃を渡して、私は弟と妹を連れて先に家に帰る事に。

母の帰宅時間が分からないし弟と妹もいるから、今日学院に帰る予定だったけど、トラン様に相談して、今日も家に泊まる事にした。

トラン様も宿に延泊してくださる。


母が戻ってくるまで、トラン様も一緒に家にいて下さった。弟と妹と遊んで、ついでに文字を教えようとしてくださった。まずは自分の名前から。


知り合いに5歳の女の子がいるとおっしゃっているから、小さな子に慣れておられるかも。


母が戻ってきたのは夕方だった。

嬉しそうにパンを手に一杯買い込んでいて驚いた。


久しぶりに、母が作ってくれたシチューを食べた。

弟も妹も上機嫌。

しばらく毎日神殿に行くということだ。急に元気になったみたい。


トラン様たちが宿に戻られてから。改めて母と、明日以降の事を話し合った。


たった一度、神官さんに診てもらってお話をしてもらっただけなのに。

見違えるほど、母には、母としての芯の強さのようなものが感じられた。

私にずっといて欲しいと騒ぐ弟と妹を宥めたのも母だった。


「家族が生きていくには、町の普通のお仕事で4人分のお金は難しいの。『お父さんの人』のご好意は、お父さんが生きていた証だと思うの。だから。いままで通り、キャラには学院で頑張ってほしい」


***


翌朝。

私が起床して朝ごはんを作っていたら、母も起きてきて一緒になったので驚いた。

鼻歌も少し歌ってる。


「今日、ご飯を食べたら、学院に行くね・・・」

「ええ。しっかり頑張ってきて。お母さんたちも、神殿に行く。馬車代はあるのだもの」


あまりの変わりぶりに心配になるぐらいだけど、明るくなった事にはホッとする。

毎日神殿に行くなら、あの神官さんもおられるし、病気を診てくださる神官さんもいるのだから、安心だ。


こうして、予定から1日延びたけど、私とトラン様たちは、学院に戻る事にした。


***


家族とお別れをして家を出る。

またずっと馬車に乗せてもらって、学院についた時には、もう夜になっていた。


今日も、学院に泊っている部屋まで送って下さるトラン様。とはいえ、もう遅い時間なので部屋の前まで。


そこで、トラン様は呟くように言った。

「いろいろあったが、きみは、町の方が、やっぱり心地が良いか?」

そうして、じっと私の目を見つめて来られた。


「・・・町は、育った場所で知っている方も多いですし。伸び伸びはしています」

「・・・」


少しトラン様の表情が暗くなった気がする。気のせいかもしれないけど。

何となく察するところがあったので、気持ちも付け足した。

「だけどトラン様といたいです・・・」


私の言葉に、トラン様は少し笑んだ。少し伏せた顔を上げられた。


「町のきみは、いつであっても生き生きと見えた。買い物をして会話をして、笑って、料理などもして。神殿でも伸び伸びしていた。この学院は貴族社会だ。息苦しいはずだ。・・・だが、俺は貴族だ。貴族の世界で生きて欲しい。・・・覚悟は?」

「聖女の称号も貰ったから、頑張りたいです。でも家族も心配です。相談に乗ってください」

「分かった。必ず真摯に相談に乗る」

「はい。有難うございます・・・!」


***


トラン様も戻られて、今日も学院の部屋で眠る。

ちなみに、まだ一人は怖い。学院だから怖いのかもしれない。

自分の町では少し忘れてた。あの町は私にとって安心で安全なところなのだ。


「・・・」


ルティアさんは、開け放したドア、隣の部屋、私がベッドから見える位置にいてくださっている。

早く眠るためにこちらの部屋の明かりは少し暗いけど、隣は明るい。

私が眠れたら、ルティアさんは隣の部屋で休まれるはず。


ルティアさんを眺めながら、いつのまにか眠っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ