11.ミカン・オレンジ嬢と、レオ・ライオン様
翌朝。
今日は、朝ご飯を貰う時も鍵をしめたから、自室での被害は無し。
出る時もしっかりと鍵をかけたことを確認。学校へ。
***
いつものように自分のクラスの教室に向かう。
途中の廊下、ご令嬢が1人だけいた。
「あなた、キャラ・パールさんね」
「はい」
私を待っていた?
スッキリしたデザインのオレンジ色のドレスの、背の少し低い人。私を見て目を細めて笑った。
「私が誰かご存知かしら。あなたが懇意にされている方の婚約者、ミカン・オレンジと申しますの。というわけで用件はお分かりいただけたかしら?」
なんだか怖い雰囲気で笑んでいる。
え、えっと・・・。嫌がらせですよね?
誰の婚約者・・・。ミカン・オレンジ様。
最近急に仲良くなったのは、取捨選択するとトラン・ネーコ様。だけど確信はない。
「ふん? ケンカを売っておいて、私が来た理由を理解されていないのかしら。・・・まぁ良い、キャラ・パールさん、私、あなたに顔を貸してもらいに来ましたの」
「え、っと?」
「まさか逃げ出すなどしませんよね? 場を乱した責任、取る覚悟がおありなんでしょう? まさか無いとは、言わないわよねぇ?」
語尾、急に殺気というものを感じた。怒ってる。
「申し訳ございません、あの、婚約というのは、どなたと・・・平民で、疎くて」
「まーあ。良い心がけですこと」
ミカン・オレンジ様は笑顔を崩さない。怖い!
ミカン・オレンジ様が一歩前に。
と思ったら、ズカズカズカ、と力強く迫ってきた、と思ったら。
「歯を食いしばりなさい!」
えっ!
恐怖を感じてグッと身体に力を入れる。
シュパァアン!
物凄いスピードで、私は頬を叩かれていた。
え、何。
思わず叩かれた左頬に手を当てようとしたのを、ぐっと腕を掴んで動きを止められる。
「ネーコ家のトラン様。覚えておくと良いわ。私の婚約者、一応彼になっていますのよ」
「いちおう・・・」
私の指摘を兼ねた呟きに、ミカン様はまたニッコリと、今度は少しだけ可愛らしく笑った。
ドン!
右肩を突くように押されて、後ろに倒れかけたのを、掴まれたままの左腕を引っ張られて戻される。
「人のものに手を出そうとするからよ。ねぇ?」
ミカン・オレンジ様の目がギラギラ光って見える。
怒っているというより、脅すことを楽しんでいるようにも感じられる。
怖くて心臓がバクバクいってる。
叩かれた左頬がジンジンと痛んで熱い。
「恥知らず。でも」
今度は掴んでいた左腕を突くように放され、よろめいて尻もちをついてしまった。
なに、このご令嬢。直接暴力を振るってくるタイプなの?
え、トラン様の、婚約者、こんな人なの?
「公然と殴っても良いというのも、なかなか得難いものですわね。まったく、平民の分際で」
言いながら、ミカン様はドレスの裾を掴み、片足を浮かした。
蹴られる!
慌てて後ずさると、「あら」とクスクスと笑いながら、距離を詰め直す貴族令嬢。
嘘、嘘、嘘!
逃げろ!
私は急いで起き上がり、脱兎のごとく逃げ出した。
「ふふ」
背後で楽しそうな笑い声が聞こえ、ダダダッと駆けて来る足音がした。
追ってきてる!! ホラー!!
現実だととてつもない恐怖!!!
「・・・何をしている」
「! おはよう、ござ、います!」
急いで廊下の角を曲がると、こちらに歩いてきていた1つ下の学年の、レオ・ライオン様が私を見咎めた。
ちなみに、モモ・ピンクー様の婚約者。年齢は一番下で13歳だけど、人の上に立つオーラというものをすでに備えている。
声をかけられたから走り去れず、怖いながらも、レオ様の近くで足を止めた。
「ミカン・オレンジ嬢。朝から平民を追い回しているのか?」
「あら。ごきげんよう、レオー。朝から随分ご機嫌ナナメね」
ミカン様もキキッと立ち止まった。
この隙に逃げたい。駄目だよね?
レオ様はチラリと私を見て、不機嫌を露わにした。
「殴ったのか? 女性の顔を。あなたはすぐ腕力に訴える。その癖は止めた方が良い」
「レオには関係のないことです。女同士の戦いというものがあるのですわ」
「あなたは楽しんでいるだけに見える」
「失礼な。正当な理由があっての制裁ですわ」
「正当な理由? つまり?」
レオ様がミカン・オレンジ様を止めてくれている。
「私の婚約者に手を出したのです。殴られる覚悟があるということですわ」
「手を出したというのは?」
レオ様は、説明を私に求めて、私を見てきた。
が、改めて眉をしかめた。
「・・・頬が腫れている。すぐに冷やすべきだ。・・・もう授業が始まる。早く氷を貰いに行け」
「ちょっと、レオ!」
「俺から言わせてもらうが、いつも必要以上に、文字通り手を下すあなたのことだ、やりすぎなのだろうとしか思えない。過度の暴力を詫びて手当につきそう誠意を持つべきだ」
えっ!?
嫌だ、ミカン様と一緒に行動なんて絶対怖い!!




