109.自白
サファイア様の発言に、アウル様も驚いている。
そんな中、私の傍、星型の精霊が身を震わせて私に言った。
『ヴァルティリアという、大昔の悪い存在が神殿に閉じ込められているんだ。近寄ってはいけないよ? ブルブル、怖いなぁ』
え、どうして今、そんな話を?
「・・・エーリティシモッ! 見つけたわ! 私の元に戻りなさい! サファイア・ブルーは、時の精霊エーリティシモと友好的な契約を結ぶ! 従え!」
『あ!』
シュン、と星型の精霊が私の傍から消えた。
え・・・。
どういう事?
心臓がバクバクする。
私、お友達だって答えてない。答えなければいけなかった? それとも、答えなくて良かったの?
分からない、けど。
「ヴァルティリア! 私との契約を!」
まるで鬼のような表情で、サファイア・ブルー様が迫っていかれる。
『クロロ・ブラック』
イケメンはただ、クロロ・ブラック様を見つめていた。
『友人というものになってくれ。すでに、そうだったじゃないか』
「ヴァルテリアッ! サファイア・ブルーは、大いなる悪、ヴァルティリアを支配下に置く事を誓うッ!」
イケメンはサファイア様の方など見向きもしなかった。
ブルブルと恐怖に身を震わせながら、クロロ・ブラック様は目を見開くように目の前のイケメンを見ておられた。
イケメンの後ろ、サファイア・ブルー様が何かの魔法を唱え、宙に金色の鎖が現れる。
「私を」
とクロロ・ブラック様の可愛い声が、不思議とよく聞こえた。
「害してはいけない。私を暴いてはいけない。私を守って。私を尊重して。できる?」
『当然だ。もちろんだ』
イケメンが嬉しそうに笑い、頷いた。
途端、周りに黒い炎が舞った。上の金色の鎖が弾かれて、サファイア・ブルー様が後方に弾き飛ばされた。
クロロ・ブラック様は驚きつつ、立ち上がられた。
自分の手のひらを見つめておられる。
「そうか。あなただったの・・・」
と、きっとクロロ・ブラック様しか分からない事を、呟かれた。
そして少し微笑まれた。
イケメンの姿は、消えていた。
「酷い。泥棒はそっちじゃない」
サファイア・ブルー様が、睨んでいた。
「ねぇ、どんなに自分が醜いか、早く認めてよ。スミレ・ヴァイオレット嬢が受けた呪い。作ったのはクロロ・ブラック様。証拠をばらまくわ。言い逃れなんてできませんわ」
鬼みたいな形相だ。近寄ってはいけない、何をするか分からないような雰囲気で、怖い。
気が付いたら、トラン様の服を掴んでしまっていたのに気づいて、慌てて放した。
「そう、ね。浅ましいのはどちらかしら。でも。・・・えぇ。羨ましかったの」
クロロ・ブラック様が呟かれた。別の誰かと会話しているみたいに。
「へぇ? 『羨ましい』!」
とサファイア・ブルー様。
表情と態度が悪役令嬢そのもの・・・。根性が曲がった悪そうな表情。本当に怖い。
「私は、見た目も性格も、こんな風で。変われない。これが私。分かっていたけど・・・憎くなってしまったの。美人で可愛くて。私だってあんな容姿に生まれたかった」
クロロ・ブラック様が呟くように自白されている。
そして、口の端を曲げるようにされた。笑われたのだ。
「サファイア・ブルー様も美しくて頭脳明晰で魔法まで使えて冒険で活躍。だから分からないのよ。婚約者が他の女性を讃えるお話を書き続けていると知った醜い人間の気分が想像できて? 何一つ良いことが無い。・・・えぇ、ミルキィ・ホワイト様からの呪いを悪用したわ。親切でいただいたのに、ごめんなさい。でも、どうせ美しくなれないの」
クロロ・ブラック様の声が、震えていく。泣くのを堪えているのだと思った。
「私、内容を変えることは得意。だから使ってみたの。ミカン・オレンジ様に協力した。・・・今からブラック家に打ち明けて、ヴァイオレット家に謝罪に行きます。だけど、覚えておいて。サファイア・ブルー。私が出した手紙の内容は真実よ。あなたの存在はフェアじゃない。ズルイ。私が泥棒ですって? あなたこそが、そうよ。私には分かる。本当は、それぞれが少しずつ持つものを、あなたはそれより先に奪っている。集めすぎている」
クロロ・ブラック様がサファイア・ブルー様を睨んだ。目に涙が浮かんでいた。
それに対して、サファイア・ブルー様は微笑みを浮かべた。余裕を取り戻されたようだ。
「負け犬の遠吠えという言葉をご存知ですか、クロロ・ブラック様? そんな言われよう、残念でなりませんわ。謝罪先に我がブルー家もいれていただかないと」
この言葉に、クロロ・ブラック様は冷たい、見下すような表情でサファイア・ブルー様を見た。
それから少し俯き、隣のミルキィ様の方を向いた。そして、丁寧に礼をした。
「ご好意を踏みにじってごめんなさい。庇ってくださった事、忘れません。感謝します」
メーメ様にも礼を取られ、それから周囲にも同じようにされた。
「お騒がせ致しました。責任は必ず取りましょう。失礼いたします」
クロロ・ブラック様が、一人でこの場から歩き出される。
「ねぇ、ヴァルティリア。友人として、今隣にいてくれたら嬉しい」
『喜んで』
スッと嬉し気に姿を現した悪そうなイケメン。
そんなイケメンを、クロロ・ブラック様はどこか不思議そうに見上げた。
「人型はこんな姿だったのね」
『いつもモヤみたいだったからなぁ』
クロロ・ブラック様たちが人垣を分けて、出て行かれる。
「・・・待って。クロロ嬢」
声が急に上がった。小さな柔らかい声だ。
視線の先に、現れたのは中背で大人しい印象の可愛い顔立ちの男性だった。クロロ様が立ち止まる。




