108.暴露
不安になってトラン様を見る。
トラン様もどこか不安そうに見えた。だけど、尋ねてくださった。
「確証はあるのでしょうか? 濡れ衣では無いのですか? 重要な発言です」
サファイア・ブルー様はどこか偉そうに見下したように背筋を伸ばした。
「クロロ・ブラック様は、ミルキィ・ホワイト嬢からプレゼントされた呪いを加工されたの。私、ご存知の通り、いろいろな能力がありますから、分かる事も人より多いのですわ」
クロロ・ブラック様が震えている。離れていても分かるぐらいに。
サファイア・ブルー様は追撃した。
「美しさを妬む呪いを、ミカン・オレンジ嬢に渡されましたの。ご希望ならその映像もご覧いただけますわ。・・・残念ですわ、クロロ・ブラック様。ご自分から自白していただきたかった。でも今日の事で、私まで不吉な呪いをかけて来られてはとても困りますもの・・・」
「本当に・・・?」
と呟かれたのはミルキィ様だ。
クロロ・ブラック様の顔を覗き込もうとされている。
そのうち、ミルキィ様は震えて泣き出された。メーメ様に寄りかかられていく。
本当なのかもしれない、と私たちは思ってしまう。
空気が重苦しい。
『可哀想だな、クロロ』
突然、上の方から声がした。
「!? えっ、ヴァル!」
サファイア・ブルー様が驚かれた。
見れば、サファイア・ブルー様の傍に、黒い炎を周囲にチラつかせた物凄いイケメンが現れていた。いかにも悪い事も大好きですって言う風の。え。人じゃないよね、明らかに。
『ごめん、サファイア。出してもらったことは感謝してる。だけどその、なぁ。俺が解放されるって意味、気づいてたけど、自分で無視ってたというかさ。あいつら、俺とは違ってまぁ、良いヤツラなんだよな。しかも俺に勝った。で、サファイアはあいつらを潰したんだよなぁ、俺が出てきたってことはさ』
悪そうなイケメンが少し遠くを見るような目をした。
そして笑った。
『うーん。サファイアを恨んでるわけじゃない。感謝してる。立場上、実際のところ一人だったからな。俺だけが、敵、の生き残りだ』
「えぇ、だから私と! あなたは了承したわよ、ヴァル!」
サファイア・ブルー様が焦っておられる。
『だけど、自由になったからには自由でいないと意味が無いと思った。ついさっき。で、俺、行くよ』
「ヴァル? 何言ってるのよ」
『サファイア、じゃあな。クロロってさ、暗くて親しみ湧くんだよな』
「私から離れるというの!? 恩知らずすぎるわ!」
サファイア・ブルー様の言葉に、悪そうなイケメンは急激に機嫌を悪くした。
ゴゴゴゴゴ、と周囲から変な音が聞こえている。
え。何。怖い。
黒い炎がチラチラ広がっていく。
「サファイア」
と焦ったのはアウル・フクロウ様。
「だって、やっとヴァルも入手できたのよ!」
『お前も結局同じかよ。下らねぇな』
「何、私のお陰で地下から出て来れたくせに!!」
『お前程度どうにでもできる。恩を感じてそっちから解放させてやる。今すぐ解放しろ』
「サファイア! 危険だ、解放しろ!」
「嫌よ!」
「解放時に重要な取り決めができるはずだ、約束を取り付けろ」
『よく知ってるな。だがこの俺を縛れるとでも?』
「暴れるな。暴れたなら、お前は再び神殿の地下で眠れ、ヴァルティリア!」
『そうか。知ったことじゃないな。じゃ、俺は自由だ』
「ちょっと勝手に・・・!」
パァン、と何かが弾けた音がした。サファイア様が急に尻もちをつかれた。
サファイア様の周囲からいくつもの光が浮かんでパァッと飛んだ。
天井からキラキラした何かが降ってきた。すぐに消えた。
『きみ、なんて名前?』
えっ!?
驚いて小さな声が聞こえた方を向く。
見ると、小さな星型の精霊が私を見て目を輝かせていた。
『僕は時の精霊、エーリティシモ。良かったら友達になろうよ』
私は目を丸くして見つめてしまった。
え、この子。
サファイア様のところにいた精霊だよね? 乙女ゲームの主人公をサポートしてくれるお助け精霊、そのままの姿をした精霊・・・!
どういう事?
どう答えたら良いの?
「ヒィッ!」
と小さな悲鳴があがる。
見れば、クロロ・ブラック様。
力なく座り込まれた前、ヴァルティリアと呼ばれていた、悪そうな物凄いイケメンが、クロロ・ブラック様と視線を合わせるためか、座り込んでいる。
『暗くて醜くて孤独。俺も同じだ。なぁ、契約しよう。俺の檻になれよ』
物凄く良い声で囁いている。悪い誘いみたいな雰囲気だ。どこか甘い。
「誰」
とクロロ様。
『ヴァルティリア。黒い厄災だ』
「厄災なんて、もうイヤよ!」
『そう言うな。それなりに自慢できるし便利だと思うぞ』
悪いイケメンが少し焦ったような悲しそうな態度になった。
「彼と契約した場合のデメリットは?」
メーメ様がアウル様に尋ねられた。
アウル様がサファイア様を助け起こされている。
サファイア様の顔色が悪い。
「酷い」
と呟かれた。
「酷い、私、ずっと小さな頃から苦労して、集めたのに・・・」
サファイア様を心配しながら、アウル様はメーメ様に答えられた。
「サファイアの場合は、特になかった」
「駄目よっ!」
サファイア・ブルー様が叫ばれた。真っ青な顔で。
「そいつ、暴れて世界を危機に陥れるの! だから私が契約したのに! 誰かが契約しておかないと、世界を壊す!」




