107.誰が相応しいか
私は今、頑張らないといけないと思う。
「申し訳ありません。ただ、神殿の方にも、もういただいたお話なので、言わなければと思いました・・・」
「貴族と平民では、可哀想だが決定的に違う。果たせる役割の大きさといったものが」
困ったような様子ながら、指摘するように強めにアウル・フクロウ様がおっしゃった。
そう言われたら、私には何も言えなくなる。
事実だから。
だけど意地悪だ、と思った。悔しい。
「だからっ! 傲慢だと書いたのですッ!」
急に、悲鳴のような声が上がった。驚いた。
視線を向ければ、クロロ・ブラック様が、ブルブル震えながら、憎々し気にサファイア・ブルーを睨んでおられた。
「自分たちばかり! 他を顧みないわ! アウル・フクロウ様も!」
私の代わりに、怒ってくださっているの?
アウル・フクロウ様が眉を潜めた。
「自分たちのみ正義だと思い込んでいる! だから私が知らせたのです! それを、大勢の前でこんな風に、私を引きずり出したッ!」
サファイア・ブルー様が明らかに嫌悪感を見せた。
「嫌がらせの手紙を出したのはそちらです。真意を確かめるのは誠実な行いですわ」
「そんな考えの女が聖女だなんて! 白系統でもないくせに、厚かましい・・・ケホケホッ!」
途中でクロロ・ブラック様が咳き込んだ。
隣のミルキィ様が驚いて慌てて肩に手を置いて様子を確認しておられる。仲が良いのかな。
メーメ・ヤギィ様がミルキィ様の傍に立っておられた。
少し肩をすくめるように、周囲を見回し、アウル・フクロウ様で視線を止めた。
「申し上げたいことがあるのですが」
「なんだ、メーメ」
「単刀直入に結論を言えば、サファイア・ブルー様は聖女には相応しくない」
「!」
メーメ様の発言に、サファイア・ブルー様の肩がはねた。
「理由。聖女とは、普通の人が見聞きしにくい精霊や他の声を、人に伝えるのが役割です。精霊というのも、神殿がこの精霊、と定めている。聖女とは神殿が決める役職であり、神殿が声を聞くべき精霊を指定しているという状態だ。それら精霊たちは代々人間を助けてくれているので、敬われているのです。私がその事実に詳しいのは、婚約者であるミルキィ・ホワイト嬢の事もあり、私自身が神殿に強い興味を持ったためです」
メーメ様が話すのを、皆、じっと動かず聞いていた。
「そして、ミルキィ・ホワイト嬢とキャラ・パール嬢には見えていた精霊が、神殿が聖女が見るべき精霊と指定している存在だった。一方で、あなたがたには見えていなかったばかりか、襲撃し、酷く危険な状態にした。それを、ミルキィ・ホワイト嬢とキャラ・パール嬢がいたからあなた方の攻撃の中から救出できた。特にキャラ・パール嬢がいなければ難しかった。彼女は冷静に見て、確かに聖女に相応しい。なにより、ミルキィとキャラ・パール嬢は神殿の本来の依頼を正しく達成しています。その依頼についても、キャラ・パール嬢がいなければ困難だった、ミルキィ・ホワイト嬢自身が断言している」
メーメ様が一言区切り、そして続ける。
「あなた方は、神殿が助け合うべきとした精霊たちを攻撃した。あなた方は、彼らに全く気づいていなかった。神殿は相当怒っているということを、事実としてお伝えしておきます。それから、サファイア・ブルー様が使い魔にした存在について。なぜあの場所にいると分かったのですか? 攻撃を受けたので反撃を開始したと精霊たちは言っているそうです。精霊たちは、封印されていた存在についても心配している。長年を過ごして親しくなっていたと言っているそうですが。・・・使い魔に私の言葉が聞こえているかは知らないが」
あれ。最後は、使い魔になった存在に言っていたのかな。
メーメ様の言葉を聞いているサファイア・ブルー様の顔色が悪くなっている。言葉を飲み込むように。
アウル・フクロウ様は驚いたように固まっている。
数秒経って、我に返り、発言したのはアウル・フクロウ様だ。
「聖女の本来の役割などは知らなかった。さすがだな、メーメ。まだまだこの世には秘密が多い」
「私は特に神殿関係のものごとに強いだけです。全般はあなたにとても及びません、アウル・フクロウ様。あなたは行動もされる。尊敬しています」
メーメ様の言葉に、アウル・フクロウ様は少し笑った。
「・・・せ、聖女のことは、私たちも苦労したから、だから言ってしまっただけですわ!」
急にサファイア・ブルー様がおっしゃった。
「苦労ですって? ご冗談を!」
ミルキィ様が尖った声を出したが、隣のメーメ様が、肩を叩いて宥められたようだ。
ミルキィ様、動揺して涙目になっていっている。
メーメ様が発言された。
「私から見ても、ミルキィ・ホワイト嬢から見ても、キャラ・パール嬢が聖女に相応しい。神殿長も認め済みだ。能力面で、キャラ・パール嬢が相応しいのですが」
「分かった。聖女の発言は詫びよう。なぁ、サファイア?」
「・・・えぇ」
ものすごく悔しそうにサファイア・ブルー様が顔を赤くして呟いた。
収まった?
少しホッとする。
だけど。
サファイア・ブルー様がキッと顔を上げた。
ビシッと、クロロ・ブラック様を指差した。
「ですが! 私が一方的に悪いようなこの状況は納得できません! 私はクロロ・ブラック様から嫌がらせのお手紙をいただきました! 真偽を確かめないと収まりませんわ! それに、良いですか? 私、目上の方だからと、真実を知った時に動揺して悩んでおりましたが、勇気を持って言わせていただきます! クロロ・ブラック様は!」
叫ぶように大声だ。全員に聞かせたいのだろう。
皆が緊張して見つめていた。
「スミレ・ヴァイオレット様が受けた呪い、クロロ・ブラック様のものですわ! この歪んだ方は、美貌を妬んで、恐ろしい呪いを作りましたのよ! 私は知っているのですわ!」
え、と、誰かが声を上げた。叫ばれた内容に、皆が動揺した。
視線が、クロロ・ブラック様に集まっていく。




