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104.寮に戻る

寮に戻るのは久しぶりだ。

管理人さんたちは、元気そうで良かった、と会えたことを喜んでくださった。


管理人さんたちの部屋に入れてもらう。


話によれば、相変わらず廊下には被害が出ているそうだ。私が学院に泊っているとあまり知られていないみたい。


トラン様が苛立った。

「キャラ・パール嬢の身の安全のために、使用人や護衛を置きたい。そこで、別の建物をキャラ・パール嬢の寮にして移ってもらおうと考えている」


ところが、管理人のおじさん、おばさんともに顔をしかめた。

「それは困ります」

「そうです。私たちは、その子の面倒を見るように頼まれています。その給金も貰っていて朝食だって出しているんです。勝手に変えられるのは困ります」

いつも気さくな言葉遣いの管理人さんだけど、貴族のトラン様相手には丁寧な言葉遣いになるんだ。内心で驚きつつ聞く。


「この子はこのままで、他の人を別の寮に変えてもらうのなら良いのですが」

とおじさん。

「他の人と言うと・・・」

と私。


「ヴァイオレット家と、ホワイト家の使用人たちです。仕える方の専用寮の部屋が足りなくてここに住んでいるだけだから、他の寮に変わって貰っても問題にならないと思いますよ」

とおばさん。


あれ。

「スミレ・ヴァイオレット様と、ミルキィ・ホワイト様の使用人の方ばかりなのですか?」

「そうだよ」

私にはいつも通りに答えてくださってちょっとホッとする。

とはいえ・・・。


トラン様が私の様子に、確認してこられた。

「どうした?」

「いえ、その。スミレ・ヴァイオレット様かミルキィ・ホワイト様からの嫌がらせだったなら、嫌だなと思って。水浸しとか・・・」

今、友好的な交流がある方々だから、落ち込む。


「いや、住んでる子とは限らないぞ。連絡係や友人が頻繁に出入りしているからな。男性は申請が必要だが、女性はいちいち申請してもらわずとも通している」

とおじさん。


「なるほど。では移動を頼んでみよう。この話はまた改めて」

とトラン様。

心配になってトラン様を見上げると、

「今の状況だ、スミレ・ヴァイオレット嬢もミルキィ・ホワイト様も恐らく協力してくださる」

とのお言葉。


「それでよろしくお願いします。私たちもこの子の世話を続けられますから」

とおばさん。

「分かった。両家に話を通して、また改めて連絡に来る」

トラン様と管理人さんで話がまとまっている。


「それで、キャラ・パール嬢を支援している貴族にどうやってコンタクトを取れば良い? 以前の手紙に対しての返事などは?」

「この子本人の手紙も出すようにと言われました。ネーコ家のご令息の手紙だけではなんとも・・・」

とおばさん。


「分かりました。何を書けばいいですか?」

「そうだね。確実に間違いなくあんたが書いたって私たちも証明しないといけないから、今書けるかい?」


***


管理人さんの部屋はいくつかに分かれている。

私はおばさんに連れられて別室に。

トラン様は不安そうにされたけど、おじさんに、大丈夫、と引き留められていた。


私だけ別室に誘導されて、机の上に立派な便箋を用意してもらってから、おばさんは私に小さな声で聞いてきた。

「ちょっと。あんた、実際どうなんだい」

「え?」

どうって?


「貴族の令息に甘いこと言われて騙されてるんじゃないかって心配してるんだよ。さっきのだって、私たちは意地悪で新しい寮に行くのを止めたわけじゃない。金に目がくらんでるんじゃないんだよ。あんた、あの貴族令息の言いなりで新しい一軒家に住むなんて。あんたが良いなら何も言えないけどね、こんな若さで貴族の愛人になろうっていうのかい? もし違うとしても、間違いなくそう噂されるんだよ」

「え、そんな愛人とか無いです!」


「この寮なら私たちが目を光らせてあげるから。良いかい、言いなりになっちゃいけないよ」

「トラン・ネーコ様は、そんな人じゃないです・・・!」


おばさんが呆れたように私を見る。

「恋に目がくらんでる子はみんなそう言うんだよ。寮の管理人を長年やって来てるんだ、若い子が真っ当じゃない道を選んで後で後悔するのを防ぎたいんだよ」

「愛人なんて言われてません、信頼できる人です」


「正しい判断ができない状態かもしれないだろう? とにかく、実際にいろいろ頼まれてるのもあるし、この寮に住んだ方が良い」

「本当にトラン様は違います、ずっと守ってくださってます。トラン様がおられなかったら、もう私、学院を止めてたかもしれません」

訴えると、おばさんは困ったように私を見た。


「あんたは好きなのかい?」

「はい・・・」

人に言うの、恥ずかしいな・・・。


おばさんはため息をついた。

「そうかい。向こうもそう言ってくれてるのかい?」

「あの、身分の事があって、それで何とかしようってしてくださってて・・・」


「そうかい」

おばさんが、あれっ、という顔をした。


そして少し宙を眺めるようにしてから、私に視線を戻した。


おばさんは、顔を近づけて私を覗き込むようにした。

「秘密の話だよ。ネーコ家のご令息にも」

「え・・・」


「学院長のお使いから、あんたの生活費や寮費を受け取ってる。その手紙は連絡専用に準備された紙だ。私は、あんた自身が書いたって証言をすることになる」

「・・・」

緊張してきた。じっとおばさんを見つめ返す。


「学院長も良いところの貴族さ。だけどね、学院長も他の貴族に頼まれている可能性もある。そしてね、あんたはなぜこの学院に来たかと考えるとね、どこかの貴族様が、身分の低い貴族なら、平民でも奥様候補にもできるからね、何かしらあんたに恋心を持っての事かもしれない。相手がどういうつもりでいるのか、分からない。そう考えるとね、うかつに『ネーコ家のご令息が好きです』と書くのはお止し。身分の事で困っている、と書くのは大丈夫だと思うけどね」

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