103.神殿から戻る
私が泊っている部屋にたどり着いて、私は、ミルキィ様が、ミカン・オレンジ様に『一人になれる鈴』を、そして、クロロ・ブラック様という人に、『醜いと思っていれば思っているほど美しくなれる呪い』を作って差し上げた、と言われた話をトラン様にお伝えした。
「それは、メーメ様はご存じないのか?」
「そんな雰囲気でした。それに、ミルキィ様は親切にその方への呪いを作られましたが『美しさを呪う』という呪いではありませんし。むしろ『美しさを呪う』ことを嫌がっておられました。・・・あの、クロロ・ブラック様というのはどなたでしょうか? えっと、婚約者がおられますか?」
「クロロ・ブラック様・・・実は俺も詳しくない。大貴族のご令嬢だが、変わり者で人前に出てこられないという噂で、俺もお会いしたことがない。婚約者は、オジカ・コジカ様だが、この方も人嫌いで有名で・・・やはりお会いしたことはない。お二人とも学院の生徒だが、実際は登校しておられるかも分からないな」
「そうですか・・・」
「何かあるか?」
と、トラン様が首を傾げて来られる。
「いえ、その、何も・・・お二人ともお会いしたことが無い方でした」
と私も宙を見るように首を傾げて、お答えした。
乙女ゲームの攻略対象者とかかな、と思ったけど、記憶にないし、婚約者の方ともお会いしたことも無い。
「そうか。・・・しかし、気になるな。この話、メーメ様に相談しても良いと思うか?」
「トラン様には伝えて良いと言われたのですが・・・明日、ミルキィ様にお伺いしに行きます。多分、大丈夫じゃないかと思います」
「分かった。ミルキィ様にお会いする時は、俺も行きたい」
***
トラン様が帰られてから、ルティアさんやグレンさんたちに、神殿での出来事を私からもお話して、その日は休んだ。
結局、神殿に呼び出されてから5日経過。なんだか学院がちょっと久しぶりで懐かしいかも。
***
翌日。
ポニー様とスミレ様に、会うのも久しぶり。
「キャラさん! すごいね、聖女だって」
「はい。まさかキャラさんが聖女だなんて・・・」
「ありがとうございます・・・」
スミレ様が、私を『キャラさん』って呼んでおられてビックリ。
ついスミレ様をじっと見つめてしまったので、スミレ様はフイと視線を逸らされた。
すみません、不躾で・・・。
「呼び方に驚いたんだよね」
とポニー様が。さすが、分かっておられる。
「・・・」
スミレ様がなんだか嫌そうだ。
「キャラさんが急に休みになったから、僕たち心配でよく話題にしてたんだ。僕も呼び方を『キャラさん』に変えたけど、一緒に話していたから、スミレ嬢もその方が呼びやすくなったんだよね」
「・・・そう軽々しく私たちの様子をお話にならないでくださいませ・・・」
「駄目だった? ごめん」
ポニー様がシュン、と謝られる様子に、スミレ様は動揺されている。
「・・・か、構いませんけれど・・・」
なんだか、お互いを探りつつ、仲が良い関係なのかな。
***
昼休み。
私が神殿に急に呼び出される前は、トラン様とポニー様とスミレ様と一緒にランチをしていた。
だけど、急に私とトラン様が不在になってしまったので、他の方々とのランチの予定がビッシリ入ってしまったらしい。
「また一緒にランチしよう。トラン様にもそう伝えておいて欲しい」
「はい。分かりました」
「その、変わったお料理を、楽しみにしていますと、お伝えくださいませ・・・」
スミレ様の伝言も預かった。
***
ルティアさんに先導されて、トラン様と合流。
ポニー様とスミレ様の事を伝えると、トラン様も分かったように頷かれた。
「人気者は大変だろうな」
「トラン様は人気者じゃないのですか?」
「人気というよりも、色々やることが・・・。まぁ、他の時間にやってるから良いんだ」
「ありがとうございます・・・」
ちょっとはにかんでしまった。つまり、私とのランチを優先してくださっているんだ。
***
ランチ後。トラン様と一緒にミルキィ様のところへ。
とはいえ、居場所を把握していないので、ミルキィ様の年齢の方々が多い棟に行って、おられるところを聞いて探し当てる。
今日はメーメ様と一緒にランチをとっておられた。庭園の、ものすごく雰囲気の良い場所で。
ミルキィ様が嬉しそうにメーメ様に寄り添っておられて、第三者が入りにくい空間になっている。
「邪魔したら怒られませんかね・・・」
「怒られるかもしれないな・・・ここは使用人を通そう」
トラン様も同じように危惧されたらしくて、間に使用人の人を挟んでメーメ様たちにご連絡。
すぐにメーメ様が気づかれて、OKを出してくださった。
「申し訳ありません、お二人仲睦まじくお過ごしのところを・・・」
「トランたちが来るのは珍しいからな。それで?」
「あの、ミルキィ様にご相談したいことがあるんです・・・」
***
結果、メーメ様にも、ミルキィ様がクロロ・ブラック様に作って差し上げた呪いがある事をお伝え出来た。
トラン様とメーメ様、具体的に口には出さないが、少し考えておられるようだ。
あとはお二人に任せれば良さそう。
話ついでに、メーメ様たちから、神殿で途中までご一緒だったアウル・フクロウ様とサファイア・ブルー様が学院で英雄扱いされているという話を聞いた。
とはいえ、神殿は精霊と巨人族を攻撃されて怒っているので、そのうち揉め事になる気配。
***
午後の授業。
普通に終了。
これからトラン様と待ち合せだ。
一緒に私の寮の管理人さんたちに会いにいく。




