101.呪いについて聞く
嬉しそうに頬を染めるミルキィ様。
とても美人ですが、性格が全く安心できない・・・。
半笑いでミルキィ様の笑顔を受け止める。
私のそんな怯えに気付いたようで、ミルキィ様は拗ねた。多分、心を私に開いてくださっているから、言葉も多くなっているし、表情もコロコロ変わる。
「私を悪者にしないで。悩んでおられて、私に打ち明けてくださったの。ですから、私でできることって、しっかり呪いを作ってプレゼントして差し上げたのよ」
「どなたに、どんな呪いですか?」
純粋に分からないので尋ねよう。
「そうね。それは、トイレの代わりのお願いとしてなら、答えても構いませんわ」
うーん。
まぁ、叶えてくださるというお願い、5つもあるから、1つ使っても良いかな。
5つもあったら余るかもしれないからね。
「じゃあ、お願いの1つで」
「分かったわ。あのね、クロロ・ブラック様なの」
「え? クロロ・ブラック様?」
聞いたことが無い。
「人前に出てこられないの。もう18なので、好きな授業だけ出て来られるみたい。あのね、クロロ・ブラック様は、あまり容姿がお美しくないの・・・」
少し言い淀んで、ミルキィ様が教えてくださる。困ったように。
「2つも年上の方なのに、打ち明けてくださって、私も心が痛くなったの。内気で、悩み事も人にあまり漏らさないタイプの方なのよ。私を信頼してくださったのだから、お力になりたくて」
「はい」
真剣なミルキィ様のお顔に、私も真剣に、聞いている、と示すために頷く。
「一生懸命考えて、ご本人以外には本当は秘密だったのだけど、あのね。『自分を醜いと思っていれば思っているほど、美しくなる』呪いを作って差し上げたの」
「なる、ほど」
「とても喜んでくださって・・・だけど、それからお会いしていないの。呪いの効果が出なかったのかしら・・・だから失望して私には会ってくださらないのかもしれない・・・」
「そうですか・・・」
ミルキィ様、本当に心を痛めておられる感じだ。
***
呪いについての話題が続いている。
えーと。呪いと言えば。
「ミルキィ様は、スミレ・ヴァイオレット様が呪いを使われた事件で、どんな呪いかはご存知ですか?」
「えぇ」
「そうでしたか」
ミミズみたいな赤い湿疹ができる呪いだったらしい。ただ、秘密にされている事があるみたい。
「メーメ様に聞かれたの。『自分を美しいと思っていれば思っているほど醜くする呪い』なのですって。それを私が作ったか、って聞かれたのだけど、私がそんな呪いを作るわけないわ。美しさを呪うなんておかしいもの」
「・・・はい?」
え、そんな呪いだったの?
あれ?
似てない?
ミルキィ様が作られたものと、なんか、タイプというか。
モヤモヤ・・・。
「スミレ・ヴァイオレット様も可愛い方でしょう? 呪いが解けて良かったと思うのよ。私とスミレ・ヴァイオレット様って、美しさが似ていると思うの。だから回復されて良かったと思うのよ」
とミルキィ様。
「スミレ・ヴァイオレット様とは、普段も交流はされているんですか?」
「いいえ。そこまでは」
あれ、意外だ。
「あの、気になる事があるので、トラン様には、今のお話をお伝えしても大丈夫ですか?」
「まぁ。あなたたち、とても仲が良いのね」
お互いに作業しつつ、話し続ける。
「はい・・・仲良くしていただいています」
「そう。ふふ。ねぇ、メーメ様は素敵でしょう?」
「え? はい」
どうして急にメーメ様?
「あなたは、私のメーメ様を取らないのね? 約束よ?」
あ、そういう話か。
「はい。私、あの、トラン・ネーコ様を、お慕い、しています。その・・・だから、あの、ご安心、ください・・・?」
「そう。良かったわ」
話すだけで恥ずかしい。赤くなっている。
ミルキィ様はとても嬉しそうになった。
「じゃあ特別に、トラン・ネーコ様に私の話を伝えても良いわ。ご褒美。でも、次はキャラ・パールさんが、私に悩みを教える番」
「え? 私の番? 悩みですか?」
「えぇ」
まるで聖なる人のように、ミルキィ様が笑った。
***
どうしてこうなったんだろう。
私は、ミルキィ様に、トラン様への恋心を打ち明ける羽目になっている。
他の悩みでは許してもらえなかったからだ。
「身分が、叶わなくて、どうしたら良いかと思うんです・・・」
少し打ち明け出したら、ポロポロと本当の悩みを漏らしてしまう。悲しくなってくる。
ミルキィ様はしんみりと聞いてくださった。
***
数日間、恋愛相談をしつつ、修復をした。
そしてついに。
パァッと壁が光った。
「直りました!」
「えぇ」
修復できた!
やった!
ミルキィ様と両手を取り合って喜ぶ。
パァ、と光った。
「キャラ・パール嬢!」
「ミルキィ!」
見れば、傍にトラン様とメーメ様がいた!
「メーメ様!」
パァッとミルキィ様が喜び、私との手を外して、メーメ様に・・・。
「あ。私に近づかないでくださいませ・・・」
メーメ様が真顔になった。
トラン様も真顔になって、私を見て来られた。
「その、普段のような快適な環境で過ごせなかったので、汗とかで」
そう説明すると、苦笑のような安心した笑顔を返してくださった。
***
メーメ様の推察によると、ここと下を繋ぐ転送陣があるから、本来はたくさんある扉の向こうにあった、仮眠室やシャワールームやトイレや食堂なんかを使いつつ過ごせるはずだったようだ。
だけど今回は転送陣がきちんと動いていない?
迷惑!
数百年ごとの事態だし、神殿も詳しくないらしい。
なお、トラン様とメーメ様も、私たちが戻らないと、入り口の扉から先は出れないらしくて、ここの仮眠室を使っていたそうだ。
食事などは、入り口の扉まで貰いに。
大変お手数をお掛けいたしました。お陰で空腹には悩まされずにすみました。
とにかく無事に戻って良かったと喜んでもらって、それぞれ手を握りながら神殿の入り口まで戻ったのだった。




