100.ミルキィ様と過ごす
「そう・・・。このアイテム、私にも作れない・・・。ごめんなさい、とても助かりました」
戻ってこられたミルキィ様が、殊勝に私に頭を下げておられる。
「代わりに、私ができることなら何でも叶えて差し上げます・・・。1つだなんて言わない、5つ叶えて差し上げます。だから、お願い・・・メーメ・ヤギィ様には、私が頼んだと言わないでいて欲しいの・・・」
私は頷いた。
「はい。私が必要だと思って願ったことにします」
「ありがとう・・・!」
ミルキィ様が感極まったように目を潤ませて私を見つめて来られる。
「どういたしまして。秘密は絶対守ります」
「えぇ・・・! キャラ・パールさんってとても良い方でしたのね!」
***
食べ物や寝具は転送して貰える。
食べ終わった後や、使い終わったものも転送しなおせる。お風呂は無いけど、お湯と布は貰える。
だけどトイレは・・・。
やはりこれで良かったんだ・・・。
そう、今後の人たちのためにもとても良いものをこの場に作った気がするし。
とにかく、私たちはまたコツコツと修復に励みだした。
***
翌日。トラン様から状況連絡を貰った。
『アウル・フクロウ様とサファイア・ブルー様だが、神殿の奥に封印されていたものを解呪してしまったそうだ』
「・・・」
「まぁ」
呟いたのは、一緒に聞いているミルキィ様の方だ。ものすごく険しい顔になっておられる。
『怪物の一種らしいが、サファイア・ブルー様が宥められて、サファイア・ブルー様の使い魔となった。神殿が大変驚いている。過去誰も無しえなかった偉業らしい』
「まぁ!」
怒っているのはやっぱりミルキィ様。とはいえ、通信アイテムにはミルキィ様の声は伝わらないらしい。
こちらに、メーメ様の声が届かないのと同じだ。
『だが、きみたちが声が聞こえると言って、岩を神官に渡しただろう』
「はい」
と私は相槌を打った。
『神官たちは、精霊の話からアウル様たちに大変怒っている。精霊たちは、封印を守るために配置されていたらしいんだ。それをアウル・フクロウ様とサファイア・ブルー様が「話が分からない」と一方的に攻撃をしたらしい。古代の巨人族などは神扱いする地方もあるらしいのを破壊しているから、相当大問題になりそうだ。一方で、精霊と巨人族を助けたと、こちら側は感謝されている』
「そうですか・・・」
『これは、メーメ様と俺の感想で、他には秘密だが、なんだかこう、名誉と力に目がくらまれている感じだな。サファイア様は異常なほど、力を手にしておられるそうだ。まぁそれはそれで才能があるということだとは思えるが・・・つまり言いたいのは、メーメ様がおっしゃるには、ミルキィ・ホワイト様がサファイア・ブルー様に怒りを抱くのも理解できる、という事だ。メーメ様からの伝言でした、ミルキィ・ホワイト様』
「メーメ様・・・」
嬉しそうにうっとりとミルキィ様が笑う。
しばらく様子を見てから、私が返事をする。
「嬉しそうです、ミルキィ・ホワイト様」
『そうか。こちらの状況はこんなものだが、そちらはどうだ? 体調など大丈夫か?』
「はい」
***
黙々と作業しているけど、基本的に私とミルキィ様と二人切り。
そして、ミルキィ様は、初日で私がトイレを出した事にものすごく感激してくださっている。
そんなわけで、どんどん互いの会話が増えてきた。
「私は、小さい頃から、お守りや呪いを作っておりましたの。独学ですわ」
「すごいですね」
「そうみたいですけれど、私自身は当たり前の事ですの」
そういえば、ミルキィ様って、手慰みに作ったという呪いの封筒を大量に美術教師に渡したんだよね・・・。
それはもう、気軽にあっという間にいろんなものを作ってしまえそう・・・。
怖いお人だ。
えーと。
「今まで、どんなものを作っておられたんですか?」
「えーと、そうねぇ・・・でも最近はメーメ様に怒られてしまうので、人を助ける呪いの方が多いですわ。あとは自分があれば良いと思うものですわね」
「えっと、例えば・・・」
「そうですわねぇ。あぁ、ミカン・オレンジ様にも作って差し上げましたの」
「え!?」
それって、スミレ・ヴァイオレット様が被害を受けた呪い!?
驚いて、修復の手を止めてしまったけれど、ミルキィ様は、両手をヒョイヒョイと動かしつつ、優雅に首を傾げておられる。器用。
「私、絵をかいたりものを作るのがとても好きですの。だけど、皆様、私を放っておいてくださらなくて、とても迷惑に思う事があるのですわ・・・」
ほぅ、と憂い顔のミルキィ様。
自慢みたいに聞こえそうだけど、事実なんだろうな。
ミルキィ様はふと私を見る。
「ですから、『人を寄せ付けなくなる鈴』を作りましたの。便利ですのよ」
「え、はい・・・」
それ、私がミカン・オレンジ様に使われて迷惑したアイテムでは・・・!?
「それをミカン・オレンジ様が見つけられて羨ましいとおっしゃったの。ミカン・オレンジ様も、粗雑に見えるけれど一人になりたい時ぐらいあるのですって。悩まれているご様子で、心が痛みましたの。ですから作って差し上げたらとても喜んでくださって。良い事をしたと思いましたのに、メーメ様や父たちに怒られてしまいましたわ」
は、はぁ・・・。
「まさか人に暴力を振るうために使うなんて思いませんでしたもの。困っているから作って差し上げましたのに・・・」
「そ、そうですね・・・。思っても見ない使い方されると、嫌ですよね。本当に」
「えぇ」
ほぅ、とため息つくミルキィ様。
なんだかひしひしと嫌な予感がしてきた。念のため聞きたいと私は思った。
「他にも、どなたかご令嬢に頼まれて作って差し上げたものはありませんか?」
「・・・まぁ」
ミルキィ様は驚いたように私を見た。
「どうして分かりましたの? やっぱり、私たち、気が合いますのね!」




