10.内面
※1話前の「09」、少し書き直しました。(分かり辛かった冒頭とか)
後悔
ぐちゃぐちゃ
こんなのはおかしい
どうしよう
酷い。辛い。悲しい。苦しい。
死んだとか嘘、嘘だったらいい、
元気だった
急いで荒い運転って 自転車で
どうして外で待ち合わせって言った
連絡先 あの時スマホあれば
待たせたらよかったのに 死ぬなんて
***
私は、トラン様の使用人の一人、女の人、ルティアさんに寮まで送ってもらって、自室に戻っている。
私の様子を心配したトラン様が、ルティアさんにそう指示をしたからだ。
ちなみに、泊まり込みで様子を見ろと指示をされていたのを慌てて止めてもらった。
泊まり込みとか、どこに?
自室、1部屋しかないよ!
急に知らない人来られても緊張するよ。私は平民だから、使用人なんて慣れて無いんだよ。
というわけで、ルティアさんは私を寮の自室まで送り、少しあたりの様子を見てから主であるトラン様のところに戻る、ということで、自室内にはもういない。
私は、トラン様から貰って、失くさないように首からチェーンつけてかけた四角いものをじっと見つめた。ちなみに、チェーンには細いカゴみたいなのがついていて、そのカゴの中に入れている。
心配したトラン様が、私にこれを貸してくれたのだ。
何かあったらこれ握ってトラン様の名前を呼べば連絡が取れるんだって。
かなりの貴重品らしくて、下手なところで落としたりは絶対するな、とも言われたものだ。
・・・これ、ゲームでもあったなぁ。
仲良くなったら、専用の通信アイテムを貰えて、その人限定で電話みたいなことができる。
この時代、通信手段は基本手紙なので、電話的アイテムはかなり貴重。貴族しか持たない。
さて、来たついでにどこからか用意してくれた、トラン様の使用人ルティアさんの心遣い、ホットミルクを飲みながら、私は今も混乱している。
トラン様には上手く説明できなかったし、『してはいけない、思いこませてしまう』、ととっさに感じたから言わなかったけど。
自分に何が起こったのか思い返すと、黒いイメージこそ来ないけど、感情がものすごくかき乱される。
後悔、信じられない気持ち・・・よく分からないけど、あまりにブワッと込み上げて来てまた涙までせりあがってくるので、慌てて考えるのをストップする。
それでも零れてしまった両眼からの涙を手で拭いながら、おかしい、とも思うのだ。
私の前世は、恋なんて全く縁がなく、最後4年間はずっと入院生活で。
こんな感情、おかしい。
誰かの感情を貰ってる?
だけど乙女ゲームのヒロインにそんな能力の設定なんてない。
平凡な平民の女の子。学院でイケメン貴族と恋に落ちて、ハッピーエンド。それだけだ。
わからない。おかしい。
だけど、トラン様に言ったら駄目だ。
私は違うのに、前世の彼女さんだと誤解させてしまう。
「うぅうううう・・・辛いー・・・」
何が辛いのかも分からない。
なんだよ、問題ばっかりだよ、乙女ゲームのヒロインなんて。
***
「どうだった」
「ご報告申し上げます。キャラ・パール様の寮には、ヴァイオレット家のご令嬢、スミレ様の使用人の方数名と、ホワイト家のご令嬢、ミルキィ様の使用人の方数名が使っております」
急に倒れたあの子につかせた使用人、ルティアから報告を聞く。
あの子は自室が心配だと訴えていたので、ルティアを住み込みに貸そうとしたが、なぜか必死に断って来たので、ルティアは俺のところに戻ってきている。
「スミレ・ヴァイオレット嬢はポニーの婚約者。ミルキィ・ホワイト嬢はメーメ・ヤギィ様の婚約者だな」
「はい」
俺の確認の呟きに、傍に控えたジェイが返事をする。
キャラ・パール嬢の自室に水を撒いた件について、誰が実行犯なのかを考える。
上階に行ったのなら、その寮の人間の可能性があるわけだが。
それだってカモフラージュで、本当はその寮とは関係ない人物という可能性もある。
とはいえ、彼女の場合、例えばレオの婚約者、モモ・ピンクー嬢からも明らかに嫌がらせされている。
料理の授業の件は、貴族と平民の扱われ方の差が自覚なく出たように思えるが、その前にバケツでずぶ濡れのところをモモ・ピンクー嬢が高笑いしてるところを目撃している。
「心配だ」
大丈夫なんだろうか。
それに、まだ全く話を聞き足りていない。
今日すぐに俺から連絡を取るのは控えるべきだ、彼女はゆっくり休むべきだ、と判断してはいる。
だけど、彼女の方から、連絡してくれることを期待してもいる。
明日・・・また話せるだろうか。
そうだ。
栄養が足りていないようだから、バランスの取れた食事に誘おうか。
朝食? 急に驚くだろうか。
だけど心配なのは本心からだ。提案してみよう。




